第113話 襲撃2
ゴーさんと5体のアイアンゴーレムによって作られたプレートアーマー。
敬太の体にしっかりとフィットし、スキル【同期】(シンクロ)も使っているので動きを妨げる様な事はなく、逆に動きに合わせて補助してくれていた。なので、見た目は全身金属鎧で重そうなのだが、中の人には重さが感じられないようになっている。
もちろん刃が通る様な隙間は見られず、完全防水仕様にも出来る程の密封性があるのだが、普段は空気穴を開けている。
しかし今、その空気穴を閉じ完全防水仕様にしている。何故かと言えば魔法の火で体が包まれメラメラと燃えているからだ。
「おらああぁ【斬刃】!」
火だるまになって地面に転がっていると、少し青みがかった1m越えの大剣が振り降ろされてくるのが、燃え盛っている火越しに見えた。
敬太は咄嗟に避けるのは無理と判断し、仰向けに寝転びながらも、ボクサーがとるファイティングポーズのような防護姿勢をとる。
「い”い”ぃっ!」
大剣が振り下ろされると、体の前に構えていた腕に当たり、刃物が体内に入って来た時の独特の痛みが走った。
「【盾突】!」
そこから、腕の様子や、大剣の対応を考える間も与えられず、視界の外から声がしたと思ったら、かなりの衝撃が襲ってきて体が空中に吹き飛ばされてしまった。もの凄い早さでコンテナハウスの上を飛び越えていき、そのまま何処かに打ちつけられてしまう。背中からいったのか、肺の空気がひねり出され腹に鈍い痛みが走った。
通常であれば、追撃の事を考え警戒しなければならないのだが、腹にチカラをいれながら藻掻いてしまうぐらい痛みがあり、息が吸えない状態になってしまっていた。苦しみ悶えて体が酸素を欲し始めた時には、目の前に暗い幕が下りてきていた。
(これは、気を失うのか・・・)
頭の中に「気絶したらまずい」という考えが浮かんだ頃には、意識は闇の中に落ちていってしまっていた。
「殺ったか?」
「分からん・・・」
コンテナハウスの前からスキルで吹っ飛び、大きな岩にぶつかりそのまま動かなくなったプレートアーマーの元に、大剣の男と大盾の男が様子を伺いながら近づいていた。
「お前らちょっと下がってくれ、止めを刺しておくよ」
後ろから杖を持った男もやってきて、前にいる2人に声をかける。
「【火柱】!」
杖を持った男が魔法を唱えると、プレートアーマーを包んでいた火が更に大きく吹き上がり辺りに熱風をまき散らした。
「あちち」
「うわ~お」
杖を持った男は、自分の唱えた魔法に満足そうな笑みを浮かべている。
「ここまでやっておけば、大丈夫だな」
「相変わらず、お前の魔法はえげつないな・・・ハハ」
「おい、まだ気を抜くな。あの中にまだ2つ~3つの気配がある」
立ち上がる火柱の明かりに照らされながら、コンテナハウスを指差し弓を持った男も集まってきていた。
この4人組の男達は、マシュハドの街の周囲に突然現れたゴーレム群の調査をしに来ていた冒険者ギルドから遣わされた者達だった。皆がシルバーランクを持っており、バランスが良いパーティー構成もあって、何かあったら真っ先に声をかけられるパーティーのひとつだ。冒険者ギルドからそれなりの信頼を得ている連中らしい。
男達はゴーレムの目撃情報があった場所から調査し始め、徐々に範囲を広げていた所、言葉になっていない女の叫び声が聞こえて来たので、その場所に向かってみたらコンテナハウスを発見したらしい。そして、絶え間なく中から聞こえてくる女の叫び声にただ事ではないと感じ、コンテナハウスに突入しようと試みていると、中から犯人と思しき全身プレートアーマーが出てきたので、連携した連続攻撃を叩き込んだという流れだ。
「【斬刃】!」
プレートアーマーの真似をしてコンテナハウスの扉を開け中に入ってみると、小さなアイアンゴーレムが1体飛び掛かって来たので、大剣の男のスキルで切り伏せた。アイアンゴーレムはゴーレムの核ごと頭を一直線に切られると、崩れ落ち動かなくなった。
「まだいたのかよ」
「もうMPきついのに・・・」
この辺はさすがにシルバーランクと言った所なのか、冷静に対応してる。
「おらよっと」
奥のベッドで声を上げる女の前に威嚇するゴルベがいたが、蹴りつけて壁に叩きつけると静かになった。ある界隈では人気の高いゴルベなのだが、冒険者の男達にとっては邪魔者でしかなかったようだ。
「女がいたぞ~」
「助けられそうか~?」
コンテナハウスの大きさは2,4m×2,6mで奥行きは6mの長方形をしているので、4人全員で一気に入るには狭く、2人が中に入り、残りの2人は外で待機している。なので声を出し外にいる組と、中に入った組で情報のやり取りをしているようだ。
「うわっ。ひでえ傷だな」
「あれ?そいつ獣人じゃね~か」
「え?獣人なの?」
「なんだよ~」
マシュハドの街があるルシャ王国では、獣人は蔑まれる対象であり、見つかれば奴隷に落とされる様な存在だった。なので4人組は女の悲鳴の元が獣人だと分かると、途端に興味が削がれ、助けるという気持ちは無くなってしまっていた。
獣人ってだけでも関わりたくないのに、ベッドに横たわり悲鳴を上げている女は傷だらけで、ここから奴隷商に持って行っても稼ぎにならないのは明白だったのだ。
「どうする?連れてくか?」
「やだよ~。面倒くさい」
「あれだけの怪我してちゃ売れないだろ、放っとこうよ」
「そうだな~」
男達はコンテナハウスの扉付近で、この仕事の後片付けについて話し合いを始めていた。
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