第108話 依頼報告

 冒険者ギルドのカウンターに採集してきた薬草類を積み上げて、買い取り限度まで引き取ってもらう。

 どんどんとハードシェルバッグを経由して【亜空間庫】から薬草類を取り出していくと、前回と同じように女の職員が裏方の人に声をかけ、本日の買い取り限度数を聞いていた。


 薬草類をカウンターに山ほど積み上げ終わると、女の職員が清算する素振りを見せたので、慌てて討伐依頼もある旨を告げた。すると女の職員は席を立ち、奥に敬太を案内し解体場へと通してくれた。


「おぅ、またお前ぇかい。随分と狩ってきやがって!」


 指定されたテーブルに狩って来たモンスターの死体を出していると、解体場の偉い人だと思われる、ねじり鉢巻きがトレードマークのゲンが後ろから話しかけてきた。前回ラーバというモンスターを持って来た時に会っただけだったので、覚えられているとは思わなかった。マジックバッグ持ちは本当に覚えがいいのかもしれない。


「今日も量が多いかもしれませんが、よろしくお願いします」

「ははっ。構わねぇよ、それでおまんま食ってるんだからな。じゃんじゃん置いてってくれ」

「そう言ってもらえると、助かります」

「うんうん・・・っとゴブリンまで出す奴があるか!」


 目の前にいるゲンがじゃんじゃん置けって言うから【亜空間庫】の中にあるモンスターの死体を次々と取り出していたのだが、ゴブリンを取り出した途端に何故か大声を出されてしまった。


「えっ・・・ゴブリンはダメなんですか?」

「べらんめえ!知らねーのか?しょうがねぇな。いいかぁ、別にダメって事ぁねーが、ゴブリンの魔石の値段と解体料は同じなんだよ。そんな訳だから、ここにゴブリンを持ち込んだ所でお前さんには銅貨1枚すら入らねぇんだ」

「なるほど・・・」

「おうよ。わざわざ持って来てくれたからには少しは駄賃をくれたいところだがな。肉は臭くて食えないし、皮も薄くて使い道がねぇ。要するにゴブリンの死体はゴミ扱いになっちまうんだ。そうするとそいつらを、埋めるにしろ燃やすにしろ逆に手間賃がかかっちまう」


 ゲンにも思う所があるようで、血濡れた前掛けを気にする様子も無く腕を組んで、詳しく説明してくれた。


 やはり雑魚の代表格といえばゴブリン。駆け出し冒険者には避けて通れない相手になるだろう。だからこそ駆け出しには、ゴブリンで稼いで貰ってステップアップしていって欲しい所なのだが、ギルドも慈善事業じゃない。価値のない物にはお金は払えないし、必要になる手間賃なんかはしっかりと回収していかないといけない。本当ならば死体に何かしら価値を見出して、少なくても報酬が払える様にしないといけないのだろうが、今の所ゴブリンにおいては何の手立ても無い状態の様だった。


 ゲンがひとりで熱く語り始めてしまったので、思ったより時間を取られてしまい、話が終わる様子の見えない独演会に、少し強引に割り込み話を切り上げさてもらった。


「あの!すいません!」

「おっと、悪い悪い。ついついな、勘弁してくれや」


 敬太の微妙な表情に気が付いたゲンが、ひとり語りが過ぎた事を謝ってくれた。なんでも興味がある事を考えて話をしていると、自分でも歯止めが効かなくなってしまうんだそうだ。

 

 敬太にとっては知らない異世界の冒険者ギルドの仕組みについて知れたので、ゲンの謝罪に答え「勉強になりました」とお礼をしておいた。


「おい、モモカン。数だけはちゃんと記録しておけな」

「分かってますよ」


 敬太が【亜空間庫】からモンスターの死体を全部出し終えると、ゲンがカウンターから付いて来てくれていた若い女の職員に話しかけていた。


「なかなかの数だな。急いで解体するが、代金は明日になっちまうなー」

「分かりました、それで構いません。よろしくお願いします」

「おうよ、任せておけや。まぁ、また狩ったら遠慮しないで持ってこいや」


 ゲンと話がつくと、若い女の職員モモカンに促され解体場を後にした。


「え~っと、ケイタさんは前回の報酬と薬草なんかの報酬もありますので、あちらの応接室で待っていて下さいね」


 解体場の扉を抜けて廊下に出ると、カウンターがあるホールとは逆方向の奥にあるドアを指差さし、待ってる様に指示された。どうやら前に解体を頼んだラーバの分が今から貰えるようだ。



 応接室にひとり通されソファーに腰掛け待っていると、またしても不安に駆られてしまう。先程のカウンターでの騒ぎ、ゴーレムの件を思い出したからだ。

 敬太がゴーレムを使っていたとギルドに知られたら、どんな事を言われるのだろうか。また門番の様に上からの物言いで「ゴーレムを渡せ」とか言われてしまうのだろうか。面倒になりそうな予感しかしないが、対応について考えておかなければならない。


 しばらく、そうやって考えをまとめながら待っていると、コンコンとノックが鳴り、荷物を持った先程の職員モモコが入って来た。


「え~っと、お待たせしました」


 敬太は慌ててソファーから立ち上がり出迎えたが、座ってくれと言われモモカンと対面する位置に腰を下ろした。


「え~っと、まずは先日の依頼なんですが、ギルドの方で確認に向かった所、ソフト川にはこれといったモンスターの影は無く、魚に影響するような物は確認出来ませんでした。なのでケイタさんが狩ったラーバ達が原因とし、これで依頼は達成とさせていただきます」

 

 元はカッパーランクの依頼だったのだが、塩漬けになってしまっていたのでアイアンランクに下がって出ていた「ソフト川の魚が急に減ったので、原因を調査して解決する」っていう依頼の話だ。どうやらラーバ退治で達成となったみたいだった。


「え~っと、それから解体が終わったラーバが43体だったので解体料を差し引いて、全部で金貨12枚と大銅貨4枚になります」


 おっ、金貨になった。敬太は金貨という名前が出た事に喜んでいたが、テーブルに置いた紙を指差しモモカンの説明は続いた。


「え~っと、後は薬草120本で銀貨2枚と大銅貨4枚。魔法草80本で銀貨3枚と大銅貨2枚。毒消し草60本で銀貨1枚と大銅貨8枚になりますね」

「は、はい」


 基本、採集系は20本1セットで依頼が出ていたので、それで割ると・・・。細かい数字がどんどん出てきて計算が追い付かないが、女の職員のモモカンの説明はまだ続いている。


「え~っと、それで全部合わせると金貨13枚、銀貨2枚と大銅貨8枚になります。お確かめください」


 モモカンがテーブルの上に、巾着袋から取り出した硬貨を並べていく。少し大きめの大銅貨、鈍い光を放つ500円玉ぐらいの銀貨。黄金でずしりと重みがあり、大きさで言えばこれも500円玉サイズの金貨。


 初めて見る金貨に目を奪われながらも、テーブルに置かれた紙の数字を読んで(数字はアラビア数字なのでそこだけは読み取れる)計算する。ギルドが報酬をちょろまかす様な事はしないだろうが、知識としてここは大事なのだ。なんせお金の単位も分からず、何が何枚で何の硬貨になるのかさえ分からないのだから。


「ちょっと大金なので時間を下さい」

「焦らなくていいですよ」


 対面に座るモモカンに声をかけ、間違いないように計算していった。


 結果、銀貨10枚で金貨1枚になる事が判明した。知ってしまえばとても簡単な事だったが、知りえるチャンスが無かったのでとても助かる異世界の知識となった。

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