第109話 商人ギルド
「こちらが会員カードになります。これでケイタさんは商人ギルドの一員と認められ、許可が下りた物に限り売買が出来るようになります」
敬太は冒険者ギルドの依頼で手に入れた異世界のお金を手にし、手早くハイポーションを手に入れる為に夕方の商人ギルドに来ていた。
冒険者ギルドではお金を受け取ると何も言われずそのまま帰され、ゴーレムの件については触れてくる事は無かったのだ。まぁ何か言われても「ゴーレム使いました」としか答えようが無かったので助かったのだが・・・。
冒険者ギルドには泳がされているのか、情報がそこまで出回っていないのか分からないが、兎に角、敬太にはまだ猶予がある様だった。
前回、商人ギルドに来た時は一文無しだったので門前払いを受けてしまったが、今回はちゃんとお金を持っていたので簡単に会員カードを作ってもらう事が出来た。
「それで早速なのですがこちらを買い取り、または販売する許可を下さい」
「これは何の肉ですか?」
「はい、豚の塩漬けです。多分ラッシュボアに近い物かと思うのですが・・・」
前々から異世界のお金を手にれる為に売ろうと考えていたハム、正確にはロースハム400g1,980円を取り出し、商人ギルドの職員に見せてみた。
「なるほど。売り物になるかどうか、少し味見をさせてもらってもいいですか?」
金髪を後ろに撫で付ける所謂オールバックにしている目つきの鋭い商人ギルドの職員が、取り出したハムに興味を示し、食べてみて良いか聞いてきた。
「もちろんです。このまま齧りついても、薄切りにしてパンに挟んでも、厚切りで炙ってステーキの様にして食べても、それぞれの味が楽しめると思います」
ダンジョンの改札部屋のネットショップで買ったハム。ビニールの真空パック状態で買えるものだが、異世界に合わせてビニールを剥がし紙に包んでおいたものだ。
「モグモグ・・・美味し!獣の臭みは一切なく、柔らかくて旨味が溢れ出してくるではないか!」
「お口に合ったようで良かったです」
商人ギルドの職員はカウンターの下からサッと小さなナイフを取り出し、慣れた手つきでハムを切り取り、口に放り込んだかと思えば、怒涛の勢いで感想を述べ始めた。味の方は満足してくれたように感じるが、販売の方はどう判断するのだろうか。
敬太は異世界のお金を集めるのが目標なので、無駄使いをする訳にはいかず、食事は全てダンジョンから持ち込んだもので済ませていた。その為、異世界の味の基準が分からず、このハムが美味しいのか、売れるような物なのか判断出来ないまま商人ギルドに持ち込んでいた。唯一の異世界の知り合いモーブ達には絶賛だったので大丈夫だと思っていたが、戦闘奴隷だったモーブ達だと異世界の知識が偏っていると言うのが嫌と言う程分かって来ていた昨日今日だったので、少しドキドキしながら職員の出方を見ている。
「数はどれぐらいあるのですか?」
「今日持ってきているのは900個ぐらいです」
「なんと!なるほど、そうですか」
本当は、ハムは1,000個持って来ていたのだが、無一文だった時に小銭をごまかす為、何個か配ってしまっていたので、ぴったり1,000個はもう無い。その為、確実にある900個という中途半端な数になってしまっていた。
商人ギルドのカウンターで向かい合って対峙しているオールバックの職員は、敬太が用意して来ていると言っているハムの数に一瞬疑惑の目を向けたが、椅子に座りながらも大事に抱いているハードシェルバッグをチラッと見て勝手に納得していた。きっとまたマジックバッグ持ちだと勘違いしてくれたのだろう。
「少し大きな商談となりそうなので、私一人では判断できかねます。なので上役と相談してきたいのですが、よろしいですか?」
流石に、ハムを900個も取引するとなると大仕事となる様だ。
「ええ。構いません。こちらのハムは見本として渡しますので、それを持って行って判断して下さい」
「助かります。それでは応接室の方に移動して頂けますか?」
どうやら、ハムの話を前向きに進めてくれる様なので、職員の案内に従いカウンターから奥の個室に移動する。
ドアを開け案内された部屋に入ってみると、応接室は冒険者ギルドのそれと変わりは無く、殺風景でテーブルにソファーというお決まりの感じだった。
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