異世界の街

第89話 マシュハド

 ルシャ王国の西側にはアイン鉱山と言う山がある。豊富な鉱物が採れる国内屈指の採掘場だ。そこで採れた鉱物を、精製している工場が大きくなっていき、出来ていったのが鉱山の街マシュハドだった。金属が豊富な為、武具を作る鍛冶屋も次第に集まり出し、今では鍛冶の街としても有名になっている。

 街には魔獣除けに野面積みにされた大きな壁があり、北と南には大きな門がある。門には門番がいて通過者をチェックし、見合った通行料を徴収している様だ。主要な道は石畳で整備され、その上をひっきりなしに馬車が行き交っている様子から、街の繁栄が見て取れる。


 そんなマシュハドの南門から大通りを進んですぐに、石造りの堅牢な建物があった。目の付く位置には看板が掲げてあり「冒険家 公会」と書いてある。

 建物の中は入ってすぐにカウンターがあり、体つきの良い男達が鎧を着て思い思いの武器を身に着け、たむろしている。壁には文字が書かれている茶色い紙が、乱雑に張り付けられているのが特徴的だった。


 そんな建物の中に板張りの床を鳴らし、1人の男が入って来た。

 この辺りでは見慣れない顔だったので一瞬注目を集めたが、男は手ぶらで鎧なども身に着けていなかったので、すぐに視線は散っていった。

 

 男は平たい顔をしていて、長い黒髪を後ろでひとつにまとめている。身長は175cmぐらい、中肉中背で何処にでもいる様な体形だ。背中には珍しい光沢があるリュックを背負い、キョロキョロしながらカウンターへと進み、女の職員に話しかけていた。


「すいません。お金を持ってないのですが登録って出来ますか?」

「ええ、大丈夫ですよ。登録には大銅貨3枚かかりますが、初回報酬から天引きに出来ますので、今、手元に無くても問題ありません」

「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

「冒険者ギルドに登録ですね。かしこまりました」


 女の職員は営業用の笑顔を張り付けたまま、書類を差し出す。


「それではこちらにご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」

「あ、はい。いいですか?」

「代筆には大銅貨1枚かかってしまいますが、よろしいですか」

「はい。お願いします」


 どうやら男は文字が書けないようだった。


「ではお名前をお願いします」

「敬太です」

「『ケイタ』ですね。続いて年齢の方を教えてください」

「38歳です」

「はい。38歳っと、最後にレベルの方をお願いします」

「はい。ええっと22レベルです」

「22っと。以上で結構です。今から認識票をお作りしますので少々お待ち下さい」


 女の職員は記入を終えた書類を手に、奥の部屋に消えていった。

 カウンターの前で手持ち無沙汰になり、あちこちをキョロキョロと見ている男は、ダンジョンからやって来ていた敬太だった。


 敬太は先程このマシュハドの街に着いたばかりで、南門から街に入り、最初に目に付いた、この冒険者ギルドにやって来ていたのだ。

 

「お待たせいたしました。こちらがケイタさんの認識票になります」

「あっ、どうも」


 戻ってきた女の職員が渡してくれたのは「ドッグタグ」の様な、ネックレスチェーンに金属の小さな板がついた物だった。


「始めはアイアンランクからスタートとなりまして、ランクに合った依頼を達成しますと、ギルド独自のポイントが貯まります。そしてポイントが一定数に達しますとランクが上がり、上のランクの依頼が受けられるようになります」

「なるほど、分かりました」

「それから、こちらの認識票を無くしますと、手続きの上、再度手数料がかかりますのでご注意下さい」

「はい」

「以上で説明の方は終わりになりますが、何かご質問等はありますか?」


 難しくない、何処にでもある様な話なので、特に質問は思い浮かばない。

   

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

「いえいえ、ではまた何かありましたら気軽にお声がけ下さい」


 丁寧な女の職員だった。

 早速受け取った認識票に頭を通し、首にぶら下げた。


 これで俺も立派なギルド会員だな。


 認識票には数字と名前が掘られていて、ギルドの中にいる体つきの良い男達の胸元にも色とりどりの金属の板がぶら下がっていた。色でランク分けをしているのだろう。ひとり納得し頷いた。


 それから壁に乱雑に張り付けられている茶色い紙に目を向けた。

 紙には漢字のような文字と数字が書かれているので、たぶんあれが依頼書になるのだろう。


 敬太は駆け出しのアイアンランクになるので、それに見合った依頼書を探す。


「ふむふむ・・・」


 読めない。


 数字は知っているアラビア数字なので読めるが、文字の方が解読出来ない。知っている漢字があれば、知らない漢字も使われていて、見た感じ中国語の様に見えて、細かい所が分からない。このせいで代筆もして貰っていたのだ。



『鑑定』

羊皮紙

動物の皮を加工して筆写の材料としたもの

なお紙と付くものの、狭義の紙ではない



 違う違う、そうじゃない。


 読めない文字を解読してもらおうと【鑑定】してみたのだが、文字を書かれている素材の方に【鑑定】がかかってしまい、どうでもいい知識を得てしまった。


 外に見える看板にも試して見るが、やはり思っていたような効果は得られず、異世界の聞いた事のない木の名前を知る事になる。


 敬太の【鑑定】レベルが低いせいなのか、文字を【鑑定】して解読させる事は出来ない様だった。


 困ったな・・・。

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