第85話 モーブの実力

 それでは久々にダンジョン探索の準備を始めよう。


 まずはモーブの装備を整えてやらないといけない。ジーンズにシャツではブレイドラビットの歯でも簡単に切られてしまうのだ。


 モーブは敬太より背が高くガッチリとした体形をしているので、服のサイズ的には3Lになる。この辺は普段着を買い与えたので分かっている。


「モーブ。ちょっといいですか」


 軽トラの荷台に積み込んだままにしてあった、追っ手からの略奪品を漁っているモーブに声をかけ、足のサイズを計らせてもらい、それからネットショップで装備一式を購入した。

 ゴーさんに改札部屋の物置から、外のダイニングテーブルに運んで来てもらい、どんどんとモーブに着ていってもらう。 


 防刃ロングTシャツをインナーにし、その上にステンレスメッシュシャツ(鎖帷子)、そしてその上に追っ手から剥ぎ取った皮の鎧を付ける。下には普段着として渡したジーンズを履いているので、その上にステンレスメッシュズボン。このまま動くとジャラジャラと音がして気になってしまうので、更にその上から防護ズボンを履かせる。足元はロングブーツの安全靴、開いている首元にはネックガード。


「ヘルメットは被りますか?」

「うむ。被り物は音が聞こえにくくなって好かんのじゃ」


 モーブは頭の上に付いている耳を差しながら断って来た。


 なるほど、それもそうか。


 モーブにヘルメットは諦め、頭にはヘッドライトだけを邪魔にならない位置に付けてもらい、ネックライトを付け、ランニングライトを胸辺りに付ける。

 敬太が使っていた普通のリュックにランタンを取り付けて、中には水やちょっとした食料を詰め背負ってもらう。後は、追っ手から剥ぎ取ったナイフを腰に携え、短槍を片手にするとモーブの装備が整った。


「明かりの魔道具がこんなに沢山あるとは・・・。これ程高価な物を持たせられたら失敗出来んな」

「怪我したら大変ですからね。準備だけはしっかりとさせてもらいますよ」


 装備が仕上がったモーブは、満更でもない顔をしている。


 敬太は追っ手から剥ぎ取った皮の鎧は気持ち悪いので、代わりにモトクロスバイクのボディプロテクターを身に着け、エルボーガードとニーガードも付けている。

 追っ手のナイフも持っていこうと思ったのだが、どうも切れ味が悪そうなので代わりにサバイバルナイフを1本、新たに腰にぶら下げる事にした。


 更に今回からは追っ手が持っていた剣を使ってみようと思う。切れ味には期待出来なそうな刀身だったが、まぁしょうがないだろう。

 木製の鞘を腰に携え、剣を持ってみるが金属製なので重く、思ったより動きづらい。慣れるまでは気を付けて動かないと重さに振り回されてしまいそうだ。



 2人の準備が整うとゴルが敬太の体を駆けあがり、自分でハードシェルバックに飛び込んできた。


「準備出来ましたね」

「うむ」

「ミャー」


 クルルンとテンシンにも声をかける。


「それじゃあ、留守番お願いね。ゴーさんも頼んだよ」

「うむ。少し出掛けてくるぞ」

「はーい」

「は~い」


 子供達は元気に返事をし、ゴーさんはいつものようにシュタっと敬礼ポーズしていた。




 改札部屋から左手側に進んでいく。トンネルを進み分岐部屋、そこから階段がある部屋へと進む。


 この辺りは本来ブレイドラビットが出る所なのだが、敬太が作った罠によってリポップしたそばから倒される様になっているので、1匹も目にする事は無く、何もいないダンジョンを進んで行く。


 元は階段だったのだが、埋めてスロープにした所を下って行くと、真っ暗な空間に出る。

 ここにはロウカストというデカいバッタが居て、敬太の実力ではここを殲滅して蛍光灯を付けるって事が出来なくて未開発のままなのだ。


「ここからは真っ暗じゃのう」

「はい。ここからは、まだ手を付けられてないので・・・」

「まぁ、これだけ魔道具の明かりがあれば問題ないがのう」


 魔道具って言うのが、どんな物か知らないけれど、それは単なるライトですよモーブさん。



「チキチキチキ・・・」


 真っ暗な部屋を進むと早速、ロウカストの鳴き声が聞こえてきた。

 敬太は【梟の目】と言う暗視スキルと「自動マッピング」があるので、迷うことなく暗闇の中に足を進める事が出来るようになっている。


「それじゃあ、モーブは私の後ろに付いて来て下さい」


 先を歩き、ロウカストの鳴き声がする方に進んでいく。

 しばらくすると、前方にロウカストを見つけたので、モーブにも見える様に軍用ハンディライトでその姿を照らし出す。


「チキチキチキ・・・」

「あれが・・・」


 敬太がロウカストについて説明しようとしたら、照らしていたハンディライトの光に反応したのか、いきなりこっちに向かって飛翔してきてしまった。


「うわぁあああ!」


 敬太はビックリして情けない声をあげながら横っ飛びする。なんせ手漕ぎボートぐらいの大きさのバッタだ。直撃したら骨の1本2本いかれてもおかしくないのだ。


 地面を転がり、ロウカストの突撃を避けられた事に安堵したのだが、後ろにはモーブが居たんだったと思い出し、慌ててモーブの方を振り返ると、地面に転がり紫黒の煙を吹き出すロウカストが目に入った。


「モーブ・・・。だ、大丈夫ですか?」

「うむ。この程度なら問題ないわい」


 地面に横たわり煙に巻かれているロウカストの後ろにいるモーブに焦って声をかけたが、返って来た言葉は、当然の事だったかの様に落ち着き払った声だった。


 あれだけ大きなロウカストが突っ込んできていたのを短槍の一撃で仕留めていたのだ。


 敬太は避けるので精一杯だったのに・・・。

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