第86話 クズダンジョン

「うむ。ケイタは土魔法を使う魔法使いなのだったな」

「う~ん、どうなんでしょう?・・・」


 モーブに問われたが「私は魔法使いです」と答えられるような自信は無かったので、曖昧な返事になってしまった。


「まぁよい。この程度ならば目を瞑っていても倒せるからな」

「えっ!」


 素で驚いてしまった。前回ここに来た時にはゴルが気を失う程吹き飛ばされ、ゴーさんに体を張ってもらって、どうにか脱出出来たぐらいの難易度なのに。

 あれから時間は経っているのだが、未だに1人だと足が向かない程恐れているのに、モーブにとっては余裕だったらしい。


 モーブのレベルが高いと言うのもあるのだろうが、それぐらい異世界基準で言うと敬太は未熟で弱いのだろう・・・。


「何を驚いているんじゃ、ケイタのストーンゴーレムでも簡単に倒せるじゃろ」

「ええっ!」


 さらに驚かせる事を言われた。そうなの?そうだったの?・・・。


 一度、土ゴーレムのゴーさんを倒されてしまった時のイメージが強く、とてもじゃないがゴーレム達を派遣する気にはならなかったのだ。その証拠に今日もゴーさん達は連れて来てない。


 だが、そうか、石ゴーレムなら倒せるのか・・・。


 しばらくの間、驚きの事実で何もない空間を見つめてボケーっとしていると、今度は驚いたモーブの声が聞こえてきて、現実に帰った。


「なんと!ここはクズダンジョンだったか」

「え、クズダンジョンですか?」

「うむ。このように『紙クズ』が落ちるような所を皆はそう呼んでいるぞ」


 モーブが落ちていた一万円札をぴらぴらとさせていた。


 あれ?「自動取得」が効いていない。敬太が倒した時には勝手にススイカ(改)の残高に加算されるようになっているのだが・・・。

 そうか、モーブが倒したせいで地面に落ちているのか。


 落ちている一万円札見て、ひとりで驚き、ひとりで納得していた。


 しかし「クズダンジョン」か。確かに異世界では役に立たない日本の紙幣が落ちる訳なのだが、名前が付いていてそれが知れ渡っている事を考えると、ここの他にもお金が落ちるダンジョンがあるのかもしれない。そして、その逆にお金が落ちないダンジョンもあるのがモーブの言葉から想像出来た。


「そのクズダンジョンってのは有名なんですか?」

「うむ。何処にあるかは知らなかったのじゃが、そういう物が存在してるのは有名な話じゃ。なんせ奴隷の身のわしの耳にすら届く程じゃからな」

「はぁ・・・」

「命を張った対価が『紙クズ』なのじゃ、誰が好んで潜るものか」

「なるほど。それで有名なんですね」

「うむ。そうじゃな」


 納得がいった。潜っても意味がないダンジョン。


 日本のお札なんか異世界では使い道が無いだろうからなぁ。


「しかし、わしも納得がいったわい。何故ケイタがダンジョンに居を構えているのか不思議だったのじゃ。こんなクズダンジョンならば誰も来るまいな」


 モーブは「わはは」と笑いながら一万円札を投げ捨てたので、焦って声をかける。


「モーブ。それは私の世界のお金なんです」

「なんと!そうじゃったか」


 モーブは驚いて地面に落ちている一万円札に目をやっている。

 敬太はいそいそとそれらを拾い集めウエストポーチにしまい、説明を付け加える。


「このお金で、私達のご飯をなんかを買ってるんですよ。この装備も、あの小屋も、このお金を元にしているんですよ」

「うむ。そのような仕組みがあったのか」

「なので、お願いしますね」

「うむ。相分あいわかった」

 

 お互いに情報を交換し終えると、自然と次の標的に向かって歩き出していた。


 敬太が【梟の目】を使ってロウカストを見つければ誘導して行き、モーブには見ていてもらう。そうして敬太が慣れない剣を使い挑んで行くのだが、刃物を振り回しているのにも関わらず木刀の様なしょぼい打撃ダメージしか与えらない。

 その内ロウカストの反撃にあいそうになると、横からモーブが短槍で一突きして仕留めてくれる。


 そんな感じで広くて暗い部屋を虱潰しにしていった。


「うむ。こんなものじゃろう」

「はぁはぁはぁ・・・」

 

 ぐるっと部屋を1周してきた頃には、重い金属の剣を振り回していた敬太は息切れし腕はパンパンになってしまっていた。日課でピルバグというダンゴムシをつるはしで潰して回っているのだが、どうやらそれぐらいでは戦闘の体力作りには足りないようだ。


 現にモーブを見ると涼しい顔をしているからね。


「ありが・・・とうござい・・・ました」

「うむ。そうじゃな今日は戻るとするか」


 結局ロウカスト11匹と遭遇したのだけど、1匹も敬太が止めを刺す事は無く一万円札を全部拾う形になってしまった。剣を使って切り刻む予定だったのに、1回も切る事なんか出来きず、全部打撃になってしまっていたのだ。難しい。

 しかし、ロウカストを殲滅出来たし、敬太の特訓にもなった。今回は探索を進めるという事で言うと、かなり前進出来たと思う。



 改札部屋前に戻るとクルルンとテンシンが手を振って出迎えてくれた。ゴーさんも手を挙げて挨拶してくれている。何も問題は起こらなかったようだ。


 敬太とモーブは装備を外し、椅子に座ってお茶にする。

 

「モーブ。これっていくらぐらいする物なんですか?」


 敬太は今日の戦利品マジックポーションをテーブルの上に置いて尋ねた。


「うむ。ポーションならば金貨1枚ぐらいじゃないかのう」

「あ、いえ、これマジックポーションです」

「そうか、ふむ。あまり詳しくないので正しくはないかもしれんが、それも金貨1枚程度じゃたような気がするわい」


 金貨か。前にも聞いて存在は知っているのたが、日本円にしたらどれぐらいの価値になる物なのだろうか?


「では、金貨1枚だと小麦はどれぐらい買えるんですか?」

「うむ。それは分からん」


 きっぱりと言われてしまった。

 奴隷の身分だとお金を使う機会が無かったのかもしれない。


 マジックポーションはゴーレムを量産するのにも欲しい物なのだが、今回はPTを組んだという形なのだから報酬は折半にするべきだろう。なので、モーブの分も譲ってもらえないかと価値を聞いてみたんだが、これではよく分からない。


「それで、このマジックポーションなんですが・・・」

「いいぞ、わしは世話になっている身じゃ。たいした手伝いでもなかったしケイタの好きにしたらいいじゃろう」


 しかし、優しいモーブはマジックポーションを敬太に譲ってくれるようなので、代わりに今日拾ったロウカスト11匹分のお金55万円をモーブに差し出してみた。


「ケイタ。わしはこの紙をもらっても使いようが無いのじゃ」

「あ、そうですよね・・・では、これからのご飯代として預かっておきます」

「うむ。そうしてくれると助かるわい」


 モーブからすれば日本円は紙クズになってしまうのを忘れていた。

 そこら辺も検討して、これからを考えていかないといけないな。

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