第84話 異世界の情報

「おーいモーブ。ちょっといいですか」


 モーブを出来上がった小屋に呼び寄せ、蛍光灯の使い方と、ドアの鍵の使い方を教えておく。

 モーブは蛍光灯が点けば驚き「これは魔道具なのか?」と興奮し、ドアの鍵の作りを見れば「細かい仕事じゃのう」感心していた。


「これで外から襲われる心配はないと思うので、しっかり寝て下さいね」

「うむ。だが良いのか、このような物を・・・」

「気にしないで下さい。私の方が気になってしまうので押し付ける形になってしまいましたが、使って下さい」

「うむ。いや、しかし・・・」

「じゃあ、後日手伝って欲しい事があるので、それを手伝ってくれませんか?」

「うむ。手伝うぐらいなら問題ないのじゃ」

「良かったです。その時はお願いしますね。それじゃ遅くなってしまいましたが晩飯にしましょうか」

「うむ。すまないな」


 お腹を空かせた子供達プラス1匹が、すでにダイニングテーブルに着いているのが目に入ったので、急いでデリバリーを使って晩飯の準備をした。




「うわービチャビチャのうんこみたい」

「いい匂い~」


 今夜はカレーにしてみたのだが、そういう反応はやめて頂きたい。どうして子供はカレーはうんこ、もんじゃ焼きはゲロって表現するんだろうか・・・。


 気を取り直しスプーンを手に取り、口を付けた。

 そうするとみんなも敬太の真似して、スプーンを使って食べ始めた。


「わーおいしいね」

「おいしいね~」

「うむ」

「ミャー」


 みんなカレーの見た目はともかく、味の方は気に入ってくれたようだ。

 ゴルはいつもの餌だけど、みんなと一緒にご機嫌で食べている。


 見れば子供達はスプーンをグーで握り込むようにして必死にカレーかき込んでる。モーブもグーでスプーンを握っていた。

 パスタをフォークで食べていた時にも思ったのだが、異世界ではこういう食べ方が一般的なのだろうか、それともモーブ達が奴隷というのが関係しているのだろうか。野趣あふれる食べ方であまりテーブルを汚さないでくれると後片付けが楽なんだけど。



 晩飯を終え、作った小屋に布団を運び込むと、子供達がはしゃいでいたので敬太はそっと改札部屋に戻る事にした。

 今日も小屋作りで体を動かし疲れているのだ。あんな台風の様な子供達を構うスタミナは残ってない。


 デリバリーでワクドナルドのホットコーヒーを頼み、リクライニングチェアに座ると、当然の顔をしながらゴルが膝の上に乗っかって来た。

 しかし、ゴルも大きくなったものだ。卵から産まれて4か月ぐらい経ったのだろうか、まだまだ小さいが哺乳瓶でミルクをあげていた頃と比べると大分成長し、今では全然手のかからない子になっていた。このまま良い子で元気に育って欲しいものだ。


 コーヒーをすすりながら、ゴルの毛並みを堪能し、忙しい一日を終えた。




 翌日、朝食のおにぎりを食べ終え、食後のお茶を飲みながらモーブに話しかけた。


「モーブ。小屋はどうでしたか?」

「うむ。子供達は、はしゃいでおったが、久々によく寝れたわい。礼を言うぞケイタ」

「いえいえ、それなら良かったです」

「お部屋すごかったよー、ぱっと明るくなるのが上にあったんだー」

「ふかふかで、ねどこがきもちよかった~」


 どうやらモーブ達には好評だったようだ。

 子供達の素直な感想に、敬太の顔も笑顔になっていた。


「しかし、あのような魔道具なんかを使ってもらっても、わしらに返せる物は何もないぞ」

「それでしたら、今日一緒にダンジョンの探索に行ってもらえませんか?」


 モーブのレベルを【鑑定】で見た時から考えていた。レベル47という高い数値。たとえ片腕を失っていても、素人丸出しの敬太の戦い方の参考になるではないだろうか。そして、大きな戦力になってくれるのではないのだろうか。


 モーブもそうして手伝った方が気が楽になるんじゃないかと思い提案してみた。


「う、うむ。それはケイタの戦闘奴隷になれと言う事か?」

「いやいや、そんな事は考えていませんよ。ただ出来るならばダンジョンの探索を手伝って欲しいだけで無理強いはしませんよ。モーブが嫌と言うなら、それはそれで構いません。ただ、子供達はゴーレム達に守らせますし、報酬も考えています」

「ふむ。それは冒険者の様に雇うという事なのか?」

「う~ん。その冒険者と言うのが、どのような感じなのかは分からないですけど、一緒に来てくれるなら現物支給になってしまいますが報酬は出しますよ」


 モーブが高レベルだったので簡単に誘ってしまったが、よく考えれば命をかけた仕事になるのだ。実際、怪我はするかもしれないし、湧いてくるモンスターの命を奪いにいくのだから、軽々しく考えてはいけない事だったのかもしれない。


 モーブはしばらく子供達を眺めて黙っていたので、敬太もモーブの答えを黙って待った。


「うむ。クルルン、テンシン。お前たちだけで留守番は出来るな」

「できるよー」

「できる~」

「うむ。ケイタには恩がある身じゃ、一肌脱ぐのが道理じゃろう」


 少し考えたようだが、モーブは承諾してくれた。

 だが、敬太はこれにちょっと申し訳なく感じてしまった。元戦闘奴隷だったと聞いて、これぐらいなら大丈夫だろうと敬太はモーブの事を下に見て、勝手に決めつけていたのだ。助けてやった奴隷なんだから言う事を聞くだろうと。


「すいません。勝手な事を言ってしまって」

「なーに、問題ないわい」


 しかし、モーブは気にする様子も無く、話は決まったとばかりにお茶を飲み干し立ち上がったので、敬太も慌てて立ち上がり、すぐにゴーさん達に指示を出す。


「ゴーさん。子供達をお願いね。もし何かあったら作った小屋に匿ってやって」


 ゴーさんはいつものようにシュタっと敬礼ポーズをして了承と、示してくれた。

 何だかモーブに悪い気もするが、折角やる気になってくれているのだ。何も言うまい。


 敬太は気持ちを切り替えて、しっかりと学んで来ようと考えた。

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