第82話 異世界

 子供達の為にひとりで警戒を続け、睡眠時間を削っているモーブの為に、身を守り眠れる家とまでいかないが、小屋の様な物を作ってあげたいと思う。


 そんな訳で、今日も今日とてタブレットで資材を注文していた。

 「ピピッ」っとススイカ決済を済ませ、ゴーさん達にも手伝ってもらう。


「ゴーさん。物置から運んでくれるかい?」


 声を掛けると、いつものようにシュタっと敬礼ポーズをして答えてくれた。


 資材の運搬はゴーさん達にまかせて、敬太はモーブにどんな小屋がいいか聞いてみた。だが、返ってきた答えは「いらない」だった。

 先日渡したウレタンボードと布団を指差し、あれがあれば十分との事だ。


 健気なものだ。


 それならば敬太が勝手に考え、勝手に作ればいいかと、完成予定図を頭の中に描く。

 広さは大人1人に子供2人が寝るのを考え、12畳もあればいいだろう。


 改札部屋の扉からそう遠くない壁際に、スケール(金属製のメジャー)で距離を測り、四隅に杭を打ち、糸を張る。小さな小屋なので、そこまでこだわる事は無いが、一応水平を出しておく。

 そうしたらゴーさん達に作業の指示する。先日ダンジョンの入口に門を作った時のコンクリートレンガを積んでいく作業なので、指示をしただけで分かってくれたようだった。


 運搬班、モルタルを作る班、コンクリートレンガを積み上げる班。

 わらわらと集まって来たゴーレム達が効率よく動き出した。


「うわーいっぱいいる」

「いっぱいいる~」


 子供達が、集まって来たゴーレムの多さに歓声を上げている。

 なるほど。確かに、随分と増えた感じがする。


 ひぃふぅみぃ・・・。


 久しぶりに数えてみると、土ゴーレムが29体、石ゴーレムも22体いた。

 MPが許す限り【土玉】を使って増やしてきていたが、敬太が思っている以上にゴーレムの数は多かった。


「うむ。これだけの数のゴーレムを扱えるとは、ケイタの魔法の腕は中々の様じゃな」

「どうなんですかね?」


 モーブに褒められたようだが、社交辞令の様な気がしたので返事は適当に流した。

 この異世界の強さの基準が分からないし、土魔法の中の「土玉LV2」ってだけなのだ。どう考えても強い部類には入らないだろう。


「モーブは魔法使えるんですか?」

「いや、わしはからっきしじゃ」

「子供達は?」

「うむ。奴らも何も使えん」


 なるほど。元戦闘奴隷だったモーブならば何か使えるのかと思って聞いてみたのだが、子供達を含めみんな何も使えないらしい。


「じゃが、ケイタも使っていたスキルならば少々扱えるぞ」


 なるほど。【強打】とか【剛力】とかあの辺の事だろうか。

 モーブ達の事は【鑑定】で見せてもらっていたのだが、敬太の「鑑定LV1」では名前と種族ぐらいしか覗けなかったので、スキルの有無については分からなかったのだ。


「【転牙】辺りも使えるんですか?」

「うむ。それぐらいまでなら使えるぞ」


 モーブは元戦闘奴隷なのだ。スキルぐらいは使えて当然なのかもしれない。

 突き系スキルの【転牙】は、最初にATMの項目に出ていた100万円の【通牙】を取ると、次に出て来るスキルで300万円になる。


 モーブは敬太の様にお金を払って覚えたのだろうか?

 奴隷という身分の扱いについては詳しく知らないが、それだけのお金を使って覚えさせてもらったのだろうか?


「それって覚えさせてもらったんですか?」

「いや、鍛錬して自分で取得したものじゃ」


 どうやら敬太とは覚え方が違うらしい。

 スキルと言うのは技能の事なので、モーブの様に鍛錬し、身に着けていくのが正しいような気がする。敬太の様にお金で済ませるのは邪道になるのだろうか?


「うむ。戦いの中で閃き、突然覚える事もあるらしいが、大体は強い人を観察し、見よう見真似で自分の物にしていくものじゃ。ケイタもそうじゃろ?」

「そ、そうですね・・・」


 モーブが詳しく説明してくれた。やはりお金で覚えるのはおかしいらしい。

 話を聞いたのがモーブだけなので何とも言えないが、モーブとは違う覚え方なのは分かった。

 なんとなく敬太が「ズル」をしている気分になってしまったので、こっちから「お金で解決しました」とは言える訳も無く、口を噤んでしまった。


「そ、そういえば、ポーションより強い回復薬って何処にあるんですか?」


 敬太は軽い罪悪感から話の流れをぶった切り、方向転換を図った。

 この質問は森で餌付けをしている時にもしたのだが、その時は「うむ」としか答えてくれず、強いポーションがあるという事の確認しか出来なかった。だが、椅子に腰掛け、お茶をすすりながら談笑している今ならば、もっと具体的に教えてくれるのではないかと思い、もう一度聞いてみる事にしたのだ。


「うむ。街に行けば商店で売っているらしいの。切り飛ばされた腕なんかもくっつけてしまうぐらい強いらしい。その分値段も高く金貨30枚はくだらないらしいがな」


 モーブが肘から先が無い右腕を摩りながら答えてくれた。

 腕が無くなった時に調べたのだろうか。


「モーブは使わなかったのですか?」

「うむ。これが無くなったのは、わしがまだ戦闘奴隷だった頃の話じゃ。チカラのある者は主人からポーションを与えられ戦場に戻って行ったが、わしにはそこまでのチカラがなかったようでの『お前に使うぐらいなら新しく奴隷を買った方がいい』と言われてしまったのじゃ」

「そうでしたか・・・」

「うむ。わしの命より金貨30枚の方が重かったようでの、使って貰えなかったんじゃ」


 金貨1枚の価値がどれ程の物なのかは知らないけれど、命よりお金の方が重いと言うのは何処の世界でも同じらしい。


 話している時のモーブの作り笑いが印象的だった。

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