第66話 用事

 敬太が使っていた自転車は、駐輪場に長期間止めていたせいで無くなってしまったので、歩いて移動する事にした。

 思い切ってタクシーを使っても良かったのだが、先日まで8時間とか雑木林の中を歩いていたので、特に苦にはならない。


 まずは役場に行って、住民票と印鑑証明書を取る事にする。

 役場は混んでいなったので10分ぐらいで用事を済ませる事が出来た。


 役場を離れると、今度は銀行に向かって歩き出す。

 手元に5百万円の札束があるので、100万円だけ残して、残りは全部預けてしまおうと思う。


 ATMでも何回もやれば大金を預け入れる事は出来るのだが、面倒だし目立ってしまいそうなので、銀行の窓口の整理券を取り座って待った。


 しばらくすると、敬太が持っている番号が呼ばれたので、指定された窓口に向かい100万円を抜いた残りの400万円を紙袋に入れたまま通帳と一緒に差し出した。

 店員さんは笑顔で対応してくれて、渡した紙袋も畳んで返してくれた。

 通帳には今までになかった金額が記載されていて、ちょっと嬉しかった。


 次は床屋に行く。

 今までは千円カットに通っていて、流れ作業で物の様に扱われて、散髪だけをしてもらっていたのだが、今日は違う。

 値段は5千円と高いが、ヒゲを剃ってもらったり、肩を揉まれたり。一種のリラクゼーションみたいなサービスが付いている昔ながらの床屋に行くのだ。

 これぐらいの贅沢は許して貰おう。


 ダンジョンでヘルメットを被るので「周りは刈り上げて短めで」って感じで頼んで後は店員さんに全てを任せ、心地よい時間を過ごした。



 散髪が終わりさっぱりすると、丁度昼になっていたので弁当屋で弁当を買って、ちょっとした公園でゴルと一緒に昼飯にした。


 敬太は王道ののり弁で、ゴルはササミのジャーキーだ。

 燦燦と降り注ぐ日光を浴びながら、遠くで騒ぐ子供達の声をBGM代わりにする。

 お日様の下で食べる弁当は一味違う気がするのは、なんでだろうか。


 食休みには少しゴルと遊んで、時間を調整してから父親の入っている介護施設に向かった。


 父親の顔を久しぶりに見たが、特に変化は見られず安心した。

 敬太が世話を焼く事も無いので20分ぐらい「大丈夫か」とか「困ってないか」とか話しかけて、施設を後にした。ちょっと素っ気ない気もするが、男所帯なんてこんなもんだ。


 まだ用事は終わっていない。今度は駅に向かい電車に乗って隣の駅に移動する。昨日のうちに調べておいた、中古の車屋に向かうのだ。

 ちなみに改札で使ったススイカはダンジョンに飛べる敬太のススイカ(改)だったのだが、いつもと違う改札を通ると普通に通れるのは確認済だったりする。きっと改札機の方にも秘密があるんだろう。



 隣の駅で電車を降り、大きな幹線道路沿いにある中古車屋まで歩いて行く。

 歩いて10分ぐらいなので、すぐに目的の店に着いた。


 店に入ると目に付いた店員さんを捕まえて「納車まで一番早い軽トラ」と注文をつけ、何台かピックアップしてもらうと、その中に4WDのやつが1台だけあった。

 本体価格89万円で経費もろもろ込みで97万円。車検は丸々2年残っているし、納車も3日で出来ると言われたので即決した。


 カウンターでお茶を出され、すぐに書類制作に取りかかる。

 何枚もの書類に住所と名前を書いて、ハンコを押していく「こちらにもお願いします」と店員さんの言われるがままに、書いてはハンコを押し、ハンコを押しては「ここに捨て印を押して下さい」と言われる。

 事前に調べて必要な物は揃えて来ていたので書類制作はスムーズに進んだ。


 小一時間ぐらい書類と格闘して、最後に現金払い。ポンと机の上に置いて店員さんが数えてるのを黙って待つ。

 店員さんは2度ばかりお札の枚数を数えてから、奥に消えていき、また何枚か紙を持って戻ってくる。


 これで終了だ。渡された書類が入った封筒を抱え、店員さんに「ありがとうございました」と頭を下げられながら、店を出る。


「ふ~疲れた」


 外はすっかり暗くなっていて、ひんやりとした風が吹いている。

 まだまだ朝夕は冷え込む時期だ。


 速足で駅に向かい、混雑している電車に乗った。

 一駅移動したら、いつもの最寄り駅だ。ホームから階段を上り改札口へ。

 そしていつもの端の改札でススイカ(改)を使って改札部屋へと戻ってきた。


「ただいま~」


 改札部屋に到着するとゴーさん達がシュタッっと敬礼ポーズをして出迎えてくれた。

 しゃべりはしないけど出迎えがあるっていいもんだな。

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