第67話 納車

 3日後。

 今日は先日購入した「軽トラ」の納車の日になる。


 午前中はいつも通りにピルバグ狩りをして一汗流し、午後になってから出かける事となった。


 ロッカー前で着替えを済ませ、ゴルが入ったハードシェルバッグを背負い、準備が整ったらススイカ(改)を使い改札部屋から駅へと出る。

 少し閑散とした昼間の駅構内を眺めながら隣の改札に移動すると、「罠」を作ってからチャージいらずとなっている魔改造ススイカで改札にタッチした。

 


 電車を一区間だけ乗ってすぐに下車。

 幹線道路沿いを歩き、先日訪れた中古車屋に到着したら、目に付いた女の店員さんに声をかけた。


「先日軽トラの契約をした森田ですが、車ってもう乗って行けますか?」

「森田様ですね。少々お待ち下さい」


 女の店員さんは、軽くお辞儀をして奥へと消えていき、すぐに敬太の契約をしてくれたスーツを着た男の店員さんが出てきた。


「森田様、お待たせしました。お車のご用意出来ておりますのでこちらへどうぞ」


 挨拶もそこそこに、すぐに案内してくれる。

 店員さんの後ろに付いていき店の外まで出て行くと、図ったかのように軽トラが敬太の前に移動してきた。そして、中からつなぎを着たオッサンが降りてきて、整備した場所の説明をし始める。

 ブレーキパッドを交換しましただの、エンジンオイルを交換しましただの。


 敬太は「そうですか~」とつなぎのオッサンの仕事しましたアピールをぼんやり聞いていた。


 その後、スーツを着た店員さんに「車検の時にはまた当店に」と軽くセールストークをされてから、鍵を渡され、ようやく解放され軽トラに乗り込むことが出来た。


 マニュアル車は久々だったので、恐る恐る運転し始めたが、道路に出てしばらく走っていると体が思い出し、すぐに慣れてきた。


 18歳で免許を取り「男はマニュアルだ」と訳の分からない理由で中古のマニュアル車を最初に買ったので、随分とご無沙汰だったのだが運転の方に問題はなかった。


 走りながら車の具合を確かめ、途中で4WDに切り替えて走ったりしていると、あっという間に敬太の家に着いていた。


 昔は父親の車が置いてあった実家の駐車場だが、お金が無くて数年前に売り飛ばし、それからは何も置いてなかった寂しい駐車場にバックで軽トラを駐車する。


 特に用は無かったので実家には入らず、車の鍵を閉めると、そのまま駅へと向かった。

 車の鍵を弄びながら、キーホルダーでも付けようかなんて考えているとすぐ駅に着き、ススイカ(改)を使って改札部屋へと戻ってきた。



 さあ、ここからだ。敬太名義の車を手に入れた。これでどう変わるのか?

 早速新しく出来た駐車場へ移動する。


 改札部屋から扉に近い位置にあるドアを開けて駐車場に入り、引き戸近くの壁にあるパネルの前まで移動した。

 パネルには「車両登録」の項目だけがあるので、押してやると「ピン」と反応し「ズズキ ギャリー」と軽トラの名前が出てきた。


 やはり敬太が所有している車両が登録出来るようだ。


 問題なのはこの先どうなるのかだ。

 続けてパネルの「ズズキ ギャリー」を押す。


「ピン」


 電子音が鳴ると、後ろに気配がした。

 敬太がパッと振り返ると、そこには実家の駐車場に止めてきた「軽トラ」が現れていた。

 パネルに目をやると「車両登録」の他に「車両呼び出し」「車両戻し」の項目が増えている。どうやらこれで車両を呼び出したり、戻したり出来るらしい。


 敬太が想像していた中で一番いい結果だ。

 向こうの車を持ってくる事が出来て、整備なんかは向こうで出来る。


 夢が広がるではないか。



 この日、改札部屋の駐車場に車両を呼び出す事が出来たので、更に100万円をススイカ(改)から引き出して、中古のバイク屋さんに駆け込み、手頃なモトクロスバイクを契約した。



 それから数日後にモトクロスバイクが納車され、やっとダンジョンの外の探索を進める準備が整った。




 前回の探索から10日ぐらい経ってしまったが、どうにか探索の範囲を拡大させる準備が整い、やっとダンジョンの出入り口の洞窟から出てこれた。


 乗っているのはポンダのモトクロスバイクCCB250で、ボディプロテクターを始めエルボーガード、ニーガード、ついでにダブルレンズゴーグルをネットショップで購入してフル装備している。所謂モトクロスバイク仕様だ。

 体がモコモコでゴリラの様になっているのはご愛敬、これだけしっかり装備していれば、転んでも怪我を最小限に抑える事が出来るだろう。


 ゴーレムに階段の段差を埋めさせていたのが功を奏し、改札部屋の駐車場からバイクに乗ったまま簡単に地上まで上って出てこれた。

 今は残してきたゴーレムに階段を全部スロープに変える作業をお願いしており、30体ぐらいのゴーレム達がチカラを合わせて頑張っている。


「行くぞ!」


 気合いの一声と共にブルルンとエンジンを吹かしてバイクを走らせる。

 見た事が無い木、見た事が無い葉、見た事が無い草。

 同じ様な景色が永遠と続く中、雑木林をモトクロスバイクで駆けていく。


 十代の頃にバイクの免許を取り、車を買ってからは乗る機会がなったので久しぶりの運転だった。それに加え、地面は枯れ葉が積り滑りやすくなっていて、走りにくいので速度はたいして出せていないが、徒歩と比べれば雲泥の差だ。周りの景色が凄い速さで流れていく。


 雑木林とはいえ、密林の様に木々が乱立している訳ではなくバイクで走るのに問題ないぐらいに木と木の間隔があるので、慣れてくると楽しい。

 地面の様子や、通れるルートを思案しながらスピードを上げていく。


 頭の中に浮かび上がる地図を確認しながらぐんぐんと進んで行った。

 そして、ものの20分~30分で、前回徒歩で来ていた場所を通り越し、未知のエリアへと入って行く。

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