第47話 熊用=強い

 改札部屋の扉を開け、近くにあるリクライニングチェアのタブレットを手に取りデリバリーを開く。あまり迷っている時間は無いので、最初に思いついたラーメン、餃子、ミニチャーハンのラーメンセットをタップする。


『カードをかざして下さい』

「ピピッ」 


 ススイカ決済をタブレットで済ませると、すぐにテーブルの上の白い箱が開きだし、横の部分がゆっくりと倒れていって、中からトレーに乗ったラーメンセットが押し出されてくる。湯気を立てて登場するラーメンセット、ザーサイが一つまみ小皿で付いているのが憎らしい。


 マジでどうなってるんだろう?不思議な箱だ。


 とりあえず麺が伸びてしまうので急いで装備を外していると、ATMと改札の電源が落ちた。ギリギリセーフ、営業時間に間に合って良かった。


 ラーメンを食べている途中でゴルも「ご飯ー」っと鳴きだしたので、食べながらミルクを作り、その後はゴルと一緒に食事を楽しんだ。


 そういえば、ラーメンの食べ終わった器はどうするのだろう?と思っていたのだが、チャーハンをかき込んでいると、お皿の底に文字が見えてきて「器は箱に戻してください」って書いてあったので、テーブルについている謎の白い箱に戻しておいた。


 マジで謎すぎないかい、この箱は。


 食休みにゴルと遊ぼうかと思ったが、ゴルが眠たそうにしてたので、柔らかい茶色と黒の縞模様の毛並みを堪能させてもらいながら、まったりとした食休みを過ごした。



 さて、十分に休憩をとったので作業に戻る事にしよう。

 すっかり眠ってしまっているゴルを、そっとハードシェルバッグに入れて、持っていく。


 十字路部屋に着いたらさっきの続きだ。と言っても新しいコンパネの蓋はほぼ完成している。後は押し引きが出来るように取っ手を付けようかなってぐらいだ。


 そういえば、ご飯前までは通路に押し込んだ蓋の隙間から黒い煙が漏れ出ていたのだが、今見てみると何も出てない。もうタイヤが燃え尽きたのだろうか?

 火をつけてから3時間ちょっと、いい頃合いかもしれないな。


 

 杭を外しコンパネの蓋を引きずり出す。内側に面していたコンパネがモクモクと煙を上げている。急にコンパネが燃え出してしまっても困るので、燃え出しても大丈夫な様に、何もない所まで引きずっていった。


 改めて通路の中の様子を伺う。

 まだ少し煙があるが、進めないほど濃くはない。奥に火が見えないので、とりあえずは鎮火したのだろう。


 ハードシェルバッグに付けた「一酸化炭素警報器」を確認しながら、ハンディライトで通路を照らし奥へと進んだ。

 ゆっくりと蜂の巣部屋の近くまで行くが、ニードルビーの羽音は聞こえて来ない。その代わり、むわっっとした熱気が出迎えてくれた。

 ぐるりと部屋中を照らしてみても、あれだけ居たニードルビーは1匹も見当たら無かった。どうやら殲滅は成功した様だ。


 警報器が鳴りだす前に小走りで通路を戻り、十字路部屋へと戻った。




 さて、ここからが作業の始まりと言っても過言ではないだろう。

 何の為に11日もかけてここまで電気を通してきたのか。


 そう、今から仕掛ける92,600円もした熊用電気柵の為だ。

 蜂の巣部屋の中に隙間もない程、電線を張り巡らせて、ニードルビーがリポップした瞬間に感電死させるのだ。

 これが上手くいけば今の状態何て比じゃないほど、うはうはな状態になれるはずなのだ。


 設置は難しくない。地面に支柱を立てて電線を通して電撃装置につなぐだけ。電線は9,000m分あるので、お互いが接触しない範囲でびっしりと張り巡らせる事が出来るだろう。


 早速、必要な荷物を運びこみ準備をする。細かい事は置いといていい、罠の設置が一番優先順位が高いのだ。


 まずは支柱を地面と天井にぶっ刺す。何処にどうやって電線を通していくか考えながら、ぐるりとジグザクに張り巡らす。


 部屋の出入り口は完全に網目の様にして塞ぎたい。通路の天井と壁を使えば出来るはずだ。


 だいたい15m×15mぐらい、コンビニぐらいの広さの部屋を電線で埋め尽くしていく。一筆書きの様にグルグルにしていく。


 最初の1段目の設置に時間がかかってしまったが、後は1段目をなぞっていくだけでいい。



 途中で休憩を挟みながら2段目、3段目と電線で柵を作って行く。




 3段目が終わった時なんとなく天井の方に目がいった。なんか紫っぽい霧がかかっている気がする・・・。訳も分からず眺め続けていると、どんどんと霧が濃くなってきた。


 これには、あまりいい予感はせず、作業中だったのだが張っていた電線を飛び越え、通路を走り十字路部屋に戻った。木刀を置いてきてしまっていたのだ。

 木刀「赤樫 小次郎」を手に取ると、再び通路に入って行く。


 電線を張っていた蜂の巣部屋まで戻るとニードルビーが数十匹飛び回っていた。やっぱり・・・あの霧はリポップの前兆だったようだ。

 ジャンプして電線を飛び越え部屋の入って、手にした木刀を振り回す。罠作りの途中だ、ニードルビーは邪魔にしかならない。


 少し手間取ったが、設置していた柵に被害を出す事無く、ニードルビーを全部叩き落すことが出来た。


 そこでふと気になったので、スマホを取り出して時間を確認すると、午前4時11分だった。

 なるほど、リポップは朝の4時か。改札部屋のATMの営業開始時間と同じ時間だ。何かしら関係があるんだろうけど、それ以上の事は分からないので、頭の片隅に留めておいた。


 気を取り直し、木刀を壁に立てかけて作業を続けようと思ったが、背中のゴルが「ご飯ー」っと鳴き出した。今のニードルビー退治で起きてしまったんだろう。悪い事をしたね。


 壁に置きかけた木刀を拾い直し通路を戻り、ゴルのミルクを作りに改札部屋へ戻っていった。



 その後も、黙々と蜂の巣部屋で柵を作る作業をしていたのだが、この日には終わらす事が出来ず完成は持ち越しとなった。





 翌日、午前3時58分。

 先程どうにか熊用電気柵の設置が終わり、熊用電撃装置と電線をつなぎ電源を入れた。電源はもちろん改札部屋から引っ張ってきたもので、午前4時にならないと作動しない。なので設置したのが上手く作動するか見守る為に、この時間にここに居るのだ。


 スマホを見ると午前4時ジャスト。熊用電撃装置に目をやると電源ランプが光っており、作動している事を示している。

 本当ならばこの時に、テスターとかで電線にきている電圧なんかを計って確認するのだが、ココならばそんなことしなくても調べがつく。


「バチッバチッバチッバチッ」


 突如何かがはじけ飛ぶような音が響き渡った。

 見ると沢山のニードルビーがリポップするや否や地面に落ちて、ひっくり返りながら煙を吹き出していた。どうやら電気柵の設置は上手くいったようだ。


「バチッバチッバチッ」


 その後も、紫がかった霧から現れるニードルビーがすぐさま感電して墜落して行くという不思議な光景をしばらく眺めていたが、程なく今日の分のリポップは打ち止めになったのかニードルビーは現れなくなっていた。






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 電気柵について。


 本物の電気柵にはこれ程の威力はなく、ビリッとさせて追い返すぐらいだそうです。本当に殺傷能力があるような電気柵も作れるのですが、日本でやると法に触れる場合もあるらしいので詳しく書くのもどうかなと思い、適当に「熊用=強い」にしました。

電気柵にこんなに威力あるか?と思った皆さん、ご都合主義ですみません。

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