第36話 赤ちゃん猫

 とりあえずママゾンでも覗こうとスマホを取り出すが、改札部屋は圏外なのを思い出しATMからママゾンに、いやネットショップに接続した。


 画面が切り替わる時に「おめでとう」と表示されていたのは、ダンジョン端末機ヨシオの気持ちなのだろう、見なかった事にしておく。タイマーを表示させてビビらせてくるような奴の事など知らん。


 レベルアップボーナスでとったネットショップは、ほぼママゾンと変わらなかった。検索してポチるだけ。


 早速、子猫の粉ミルクと哺乳瓶をポチった。


『カードを置いて下さい』


 どうやらススイカ決済が使えるようだ。


「ピピッ」

「コトッ」


 ん?ロッカーの方から何か物音がした。振り返って見るとロッカーの隣、物置の黒い四角の上の部分が点滅していた。あれは「何か入っているよ」のサインだ。どういう事なのだろうか?


「ピッ」


 物置を開けると、そこには粉ミルクと哺乳瓶があった。

 うん、そういう事ね。驚かないよ、もう驚かない。卵から赤ちゃん猫が出てくるような世界観なんだ。もう何も驚かないさ。

 

 しかし、自動販売機のようにママゾンが使えるのは便利だ。

 色々と試したい事が頭に浮かんできた。


「ミャー」


 猫の鳴き声がしたので振り返ると、まだ目が見えていないと思うのだが、敬太の方に顔を向けて鳴いている。


「どうした、おい」


 赤ちゃん猫に「おい」と声を掛けてから気が付いた。名前を付けてやらないといけないだろう。流石に名無しのままでは可哀想だ。


 こしょこしょと指で頭を撫でながら名前を考える。

 う~ん、そういえば、オスかメスか分からないな。



『鑑定』

ゴルベ(オス)

森田敬太の契約獣



 ふむ。ゴルベと言う種類なのだろうか?猫ではないのかな?契約獣?なんだろうか・・・。性別はオスらしい。

 相変わらず鑑定の情報量は少ない。

 毛色は茶色に黒の縞模様のキジトラだ。その辺りも考慮して名前を考えよう。


 決めた「ゴル」でいいよね?


「お前の名前はゴルな」

「ミャー」


 ふっ。分かっていないだろうに一丁前に返事してきた。可愛いもんだ。

 ゴルベという種類の生き物の「ゴル」。実に分かりやすい。

 さて、昼も近いし家に帰りますかね。


「ゴル、帰るよ」

「ミャー」


 ゴルの下に敷いていたタオルごと持ち上げて、タオルごとリュックに入れる。


「すぐに着くから静かにしてるんだよ」

「ミー」


 リュックのチャックを閉めて、ススイカ(改)を使って駅に戻り、家に帰る。

 道中リュックの中のゴルが、一度も鳴かないので逆に心配になり、家に戻るとすぐにリュックを開けてゴルを確認したが、単に寝ていただけの様だ。


 潰してあったママゾンのダンボールを組み直してゴルの寝床にした。リュックの中からお引越しだ。

 ゴルは寝ているようなので部屋に置いていき、父親の世話なんかを済ませてしまう。


 終わってから、ちらりとゴルの様子を見るが、まだ寝ている様なので、敬太もお風呂に入ったりして寝る準備を整えた。


 風呂から上がると枕元にゴルの寝床を置いて、指先でゴルを撫でてから敬太も眠りについた。




「ジリリリリリリーーーーン」


 スマホのアラームで起こされた。まだ寝足りない、完全に寝不足だ。何故寝不足かと言うと、ゴルに寝ている途中で何度も起こされたからだ。


 布団に入ってウトウトしてきた頃に「ミャーミャー」と泣きわめき起こされた。撫でてやっても、まだ訴えてきたので腹が減っているのかと思い、布団から起きだして粉ミルクを作り哺乳瓶で飲ませてやると静かになった。

 それから口周りを拭いてやったり、ティッシュで排泄を促してやったりして、ゴルが眠るまで見守ってから敬太も眠りについた。


 だが数時間後には、また「ミャーミャー」と騒ぐので起こされてしまい、またミルクを与えて世話を焼いた。


 そんな感じで、数時間おきに起こされまったく眠った気がしない。ちょっと生き物を飼うことを舐めていたかもしれない。


 このままゴルを家に置いて仕事に行ったら、その間どうなってしまうのか恐ろしくなり、急遽仕事を休ませてもらった。いきなりの欠勤の連絡だったのだが、普段休む事など無かったせいか、敬太が拍子抜けする程あっけなく休みにしてくれた。電話口で「お大事に」なんて言われて申し訳ない気持ちが増したのは言うまでもないだろう。

 明日からは週末で元々2連休の予定だったので、これで3連休となってしまった。




 それから休みの間はずっとゴルの世話をしていた。

 「ミャーミャー」鳴かれてはミルクを作り、お股をティッシュで拭くように刺激を与えてオシッコをさせる。一日に7~8回、数時間おきにミルクを欲しがるので、その度に起こされ、ミルクを与えていた。


 一度、ゴルが満腹のタイミングで買い物に出かけたのだが、買い物から戻るとプルプル震えていて、凄い勢いで「ミャーミャーミャー」と鳴かれてしまった。どうやら置き去りにして離れてたのがご不満だったらしい。

 しばらくの間ゴルを撫でて不安を払い、ご機嫌取りをしていたら許してくれたようだが、それからは敬太がお風呂に入ったり、トイレに籠っていたりすると、すぐに「ミャーミャー」と鳴きだしてしまうようになってしまった。


 少し離れるだけで、これだけ鳴きまくられてしまうと、ゴルから離れるのが難しくなってしまった。

 赤ちゃん猫を飼っている人はどうやって世話しているんだろうか?


 結局、敬太が思いついた作戦は、ボディーバッグにゴルを入れて持ち歩くようにする事だった。上着をボディーバッグの上から着こめば隠せるし、仕事中もボディーバッグぐらいなら付けたままでも不自然さは無いはずだ。


 中に猫が入っているとバレて「虐待だ」とか叫び出すような仕事の同僚はいないと思うし、そもそも、そこまで他人に興味を持っているような人が少ない職場なので、その辺は問題ないと思う。


 早速ゴルにボディーバッグに入ってみてもらった。

 結果は鳴きもしないし、静かなままだった。

 試しに、そのまま家事をこなしたりしてみたが1回も鳴く様な事は無かった。静か過ぎて逆に心配になりボディーバッグを覗くとスヤスヤと寝ていたぐらいだ。ゴルが何か嫌がる素振りをしたらすぐに辞めるつもりだった作戦だが、思いの外悪くない感じのようだった。




 休みが終わりゴルをボディーバッグに入れて仕事に向かったが、鳴きだす事もなく誰にも気が付かれる事も無かった。

 休憩時間に魔法瓶に入れてきたお湯で作った粉ミルクをあげると、哺乳瓶を抱えるようにして吸い付いていた。それからトイレを済まさせ、またボディーバッグに入ってもらうとスヤスヤと寝ていた。この子は意外と手のかからない子なのかもしれない。


 このままボディーバッグに入れ一日中連れまわしたが、何事もなく仕事を終える事が出来た。一時はどうなる事かと思ったがこの調子ならば問題なく育てられそうで安心した。

 まだまだ気の抜けない小さな命だが、すくすくと大きくなってくれたらいいなと思う敬太であった。

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