第37話 ダンジョン行きたい病

 謎のゴルべ種という猫のような生き物「ゴル」が家にやってきて2週間。

 茶色と黒の縞模様のフワフワな毛に、パッチリと開いたクリクリな眼。

 気が付いたら目を開ける様になっていて、コロコロと転がっている。成長が見られるのは嬉しい事だ。


 一方の敬太はと言うと、ダンジョン行きたい病になっていた。

 何故かと言うと、新しいATMの機能「ネットショップ」の可能性と、赤ちゃんのゴルがいるからダンジョンに行けないという状況から、出来ないと余計にやりたくなるという謎の衝動が沸いてきていたのだった。


 今すぐお金に困るような事は無いけれども、稼げるときに稼いでおきたいと思うのは仕方がない事だろう。


 ゴルはまだよちよち歩きしか出来ないし「ミャーミャー」と鳴くのがお仕事なので、ダンジョンに連れて行くのは危ないと思っていたのだが、改札部屋に置いて行くって手もあるだろう。あそこならばうるさく鳴いても苦情は来ないし、危険な物もない。


 ゴルが置いて行かれるのを嫌がるようだったら、ブレイドラビットやロウカストのような大物とやり合う様な場所には連れていけないが、ニードルビーやピルバグ辺りなら連れて行っても問題ないような気もしている。


 という事で、週末にはダンジョン行きたいと思う。

 その為にママゾンで買い物もしており、今も装備に手を加え準備をしているのだ。




 仕事が休みの日。

 2週間ちょっとぶりに改札部屋に来た。

 かなり久しぶりな気分だ。ゴルが産まれた時、以来になるのだろうか。

 改札があり、ATMがある。相変わらず殺風景な何もない部屋だ。


 さて、今日はやりたい事が何個かあるので、忙しくなるだろう。

 早速、背負ってきた荷物を床に置き、ATMに向かいネットショップに接続させた。


 まずは、ランタンを5個。手軽にポイッっと置ける明かりが何個か欲しかった。次に100円ライター、着火剤、薪ストーブ用の薪、車のタイヤ4本、コンパネ3枚、ノコギリ、鉛筆、角材4本、ハンマー、釘、ゴミ取りトング。

 後は水とお茶を1ケース、レトルト食品各種と缶詰の詰め合わせ、レトルトのご飯、カセットコンロにガスボンベ、片手鍋。


 思い付くのはこんなものだろうか、カートに進み全部を購入する。自転車に積み駅構内を運んでくるのは無理な量を注文した。


『カードを置いて下さい』

「ピピッ」


 ススイカ決済で済ませる。


『カードのお取り忘れにご注意下さい』


 すかさず物置からゴトッと何かが置かれる音がして、取っ手部分の黒い四角の上の部分が点滅する。

 物置にススイカ(改)をかざし中を確認すると、ネットショップで頼んだものが所狭しと置かれていた。よしよし、この自動販売機のようなスピードはありがたい。


 物置の中身を全て取り出し、邪魔にならない部屋の隅にまとめて置いておく。

 今すぐ使うものはライター、薪、着火剤だけかな。


 ロッカーを開けていつもの装備に着替える。

 モトクロスのヘルメット、チェンソー用の防護服に木刀が入ったバットケース。いつもなら普段使っていたリュックを背負うところだが、今日は先日ママゾンで買って手を加えておいたハードシェルバッグがある。


 ハードシェルバッグって何?って思うだろう。堅苦しい名前だが、なんてことない。バイク乗り御用達のリュックだ。バイクで転倒した時に背中を守る耐衝撃性があって、プラスチックのようなテカテカした素材のリュック。28,000円と少々お高いのだが防水、耐衝撃で見た目は空気抵抗を減らすように丸みを帯びており、流線形がカッコよくて一目惚れだった。


 このリュックは箱型で上に人が座っても形が崩れず、中身を守る事ができるので、ゴルを入れて背負い、間違って後ろに倒れてもゴルが押しつぶされるような事はない様になっている。

 ゴルにお伺いをたてて、事前に何回か中に入ってもらったのだが、嫌がるような事はなくハードシェルバッグの中で転がって遊んでいた。

 リュックの底や内側には緩衝材として緩衝ウレタンを張り付けたので、多少乱暴に扱っても中に入る事になるゴルが怪我をする事は無いと思う。


「ゴル。お留守番できる?」

「ミャー」


 家からハードシェルバッグの中に入っているゴルに話しかけてみると、起きていたようで元気な返事が聞こえて来た。

 静かだったので寝ているのだろうなと思っていたのだが、どうやら起きていたらしい。中を覗くとつぶらな瞳で見つめ返してくる。


 ゴルが寝ていたなら改札部屋に置いて行こうと思っていたのだが、起きていたなら連れて行くしかないだろう。どうせ敬太から離れると「ミャーミャー」鳴き出すのは分かっているのだ。新しく導入したハードシェルバッグの性能テストだと思えばいいだろう。

 

 ゴルが入ったハードシェルバッグを背負うと、いつものように体に付けてあるライト類のスイッチを入れて、実験用の薪と着火剤、ライターも持って改札部屋を出発した。



 扉を出ると右手側に進み階段を上がり、体育館ぐらいの大きさの部屋に着いた。

 部屋の中にはニードルビーが飛んでいて、ピルバグが転がっている。いつもの光景だ。


 一抱えもあるダンボールに入った薪ストーブ用の薪を運んできているので、つるはしは持ってきていなが、今日の実験はニードルビーで行う予定なので問題は無い。


 部屋の隅の方にダンボールを降ろし、薪を取り出す。それを適当に組み上げて着火剤に火をつける。

 ちょっと前まではジェルのような着火剤が多く、薪に火をつけるまでが大変だったが、最近はモナカのような固形の着火剤が主流らしくライターで火をつけると勢いよく燃え上がり、しばらくの間、火を維持してくれる。

 それを組んだ薪の隙間に置くと、あっという間に薪に火が付いた。


 火が大きくなっていくと、部屋が暖かい明かりに照らされる。ライトのような鋭い光ではなく、自然の柔らかい光が心地いい。



 さて、まずは実験からだ。

 何処までが敬太の報酬として扱われるのか?



 これは後々に考えてある作戦に必要な検証なのだ。

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