第34話 リンク

 息が整うまで床に倒れていたが、どうにか落ち着いてきたので体を起こした。


 ニードルビーの想像以上の数と圧力だった。敗走だな。


 装備を外しながら損傷が無いか確認していく。上着は穴などは開いてないようだ。少々の擦れた傷はあるものの破れていない。ズボンも同じ感じだ。パトロールグローブも損傷無し。念の為、体も調べたけど刺されたような跡は無かった。どうやら今の装備はニードルビーの攻撃に対し、十分に耐えられる強度があったようで問題はないようだった。


 汗をタオルで拭いて、お茶を飲んで心を落ち着かせた。

 あの蜂の巣のようにニードルビーが数多く蠢く部屋に、策も無く突っ込むのは少し考え無しではと思ったが、そうでも無かったようだ。防具がしっかりと防いでいたので体力が続けば、そのままニードルビーの殲滅もありえたぐらいだった。まぁ、そこまで体力が続かんのだけど。



 ふと時間が気になり時計を見ると午前3時40分。今日は、なかなか長い時間ダンジョンに潜っていた事になった。ポーションのおかげで体力が回復出来たのが大きいだろう。壊れた筋肉繊維を修復して筋肉痛、疲れを治す。そのおかげか元気も出てくる。凄い物だな。


 さて、今からポーションを飲んで、もうひと頑張りするのもいいだろう。

 だが、その前に何となく今日の稼ぎが気になったので、ATMを見ようと思ったら、画面が暗くなっていた。


(あれ?)


 チラリと改札の方を見ると、いつも光っているはずの緑色の矢印も消えていた。


(あれれ?バグったか?)


 いや、この状態には覚えがある。一番最初にこの改札部屋に来た時も、この状態だったのだ。

 それでどうやってこの状態が直ったかと言うと・・・分からない。何きっかけかは分からないけど、ちゃんと使える様になったのは確かなのだけど、どうすればいいかは分からない。


 どうしたもんだろうか・・・。


 ATMの画面を触ったり、改札にススイカ(改)をかざしたりしたけど、何の反応も無かった。だけどロッカーと物置は普通に反応して開いた。機能自体は生きているのかもしれないな。


 部屋をうろうろとして原因を考えてみたけれど、考えた所で分かる訳は無かった。




 時刻は進み午前4時。

 突然ATMと改札が復活した。ATMの画面がパッと点き、改札は緑色の矢印も点いた。


 敬太は出られなくなったかもという恐怖から、急いでススイカ(改)をかざし改札を使った。


「ピピッ」


 すると、普通に早朝の駅に戻ってこれた。


 まだ始発まで時間があるからだろうか、人の姿は見当たらず駅員さんを一人みかけただけだった。


(そうか、駅が開いたばっかりなんだな・・・)


 それで閃いた。駅の動きと連動しているのかもしれない?


 駅が閉まると電源が落ち、駅が開くと復活する。そう考えるとすんなりと腑に落ちた。思い返すと最初の1回目の探索の時以外、駅が開いてる時間帯にしかダンジョンに行ってない。

 それもそのはず、駅が閉まってれば改札は使えないのだから。


 たぶんそう言う事なんだろう。駅と連動して電源が入ったり切れたりする。当然と言えば当然の理由過ぎてチカラが抜けてしまう。あんなに閉じ込められたと思ってビビッて損した気分だ。


 敬太はヘラっと笑い、もう一度ススイカ(改)を使って改札部屋に戻った。


「ピピッ」


 そこには、先程と変わりない改札部屋があった。ATMの画面も付いているし、改札の緑色の矢印も出ている。問題は無いようだ。


 知らないって事は怖い事だ。ATMと改札に営業時間があったとは考えもしなかった。これからは気を付けるとしよう。




 さて、今日の稼ぎはどうなっているんだろうか。気を取り直して、ATMの前に向かった。


『レベルアップおめでとうございます』


 まぁ来るだろうね。あれだけ倒して回ったもの。


『レベルアップボーナス』


自動マッピング

ロッカー ➡自動取得➡ネットショップ

椅子

ヨシオ音声



 また矢印増えてる。ネットショップ?なんだろうか。スマホでママゾン出来るこのご時世にわざわざ・・・。そろそろ自動マッピングでもいいのかもしれない。う~ん悩ましいな。


「ピン」

『カードを置いて下さい』


 悩んだあげく、結局ネットショップにしてしまった。理由は自動取得が便利だったからで、矢印の先は強いのではないか説が浮上したからだ。


『登録が完了しました。カードのお取り忘れにご注意ください』


 ススイカ(改)を取ると画面が切り替わり、最初の画面に戻った。



チャージ   お引き出し

スキル    ネットショップ



 項目が増えていた。早速ネットショップのボタンを押して見たが、スマホと同じ様にママゾンが映し出されただけだった。


(あれ、これはやってしまったのか?・・・)


 ついにハズレボーナスを選んでしまったのかもしれない。


 まぁ、運任せだからしょうがないかと気を取り直して、次に残高を確認する。



残高 2,891,210円



 え・・・。凄いんですけど~。

 ハズレボーナスで沈んだ気持ちが一気に上がった。


 確かウサギで130万円稼いでいたので、その後のダンゴムシと蜂だけで150万円ちょっと稼いだ計算になる。


 とうとう1日で年収分稼いでしまった。


 内訳が詳しく分からないけど、蜂を100匹以上倒したんだろうか?

 そう考えると、やっぱりあの蜂の巣部屋は美味しかった事になる。

 ふふふ・・・また挑戦するのも吝かではないな。


 もはや金額が現実離れしてしまっていて、全然実感も湧かないが、増えた数字は嬉しかった。


 当然、昨日の今日では使い道なんか決まっているはずもなく、この日はお金は引き出さずにニヤニヤして帰って行くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る