第33話 蜂の巣部屋

 次の部屋も体育館ぐらいの大きさの部屋で、前の部屋と作りは変わらない。

 部屋の中にはニードルビーが飛び回り、ピルバグが転がっている。


 この部屋も作戦は変わらない。ニードルビーを木刀で叩き落してから、ピルバグをつるはしで突き刺していく。




 最後のピルバグにつるはしを突き刺した頃には、握力は無くなり大汗を掻いていた。


「ふぅ~」


 動くものが居なくなった体育館部屋を見渡し、休憩を入れる。


 お茶を飲もうと思ったが、すでに腕はパンパンになり握力が限界に来ているので、ここはポーションの出番となった。スポンと蓋を外し、小瓶の中身を飲み干す。


「くぅううう」


 熱いねぇ。


 しばらくの間、ポーションの効果が体中を廻っているのを感じていた。


 落ち着いた感じになったので、お茶も飲み水分補給を済ませる。

 それから手を握ったり開いたりして見ると、先程まであった筋肉の疲労は消し飛んでおり、グッと腕にチカラが入るようになっていた。


 ポーションヤバい!


 バリバリの筋肉痛になる感じだったパンパンの前腕が、何事も無かったように動かせるし、チカラも入るようになっていた。心なしか体も軽い感じがする。


 これ24時間戦えちゃう。


 ブラック企業のお偉いさん達に渡してはならない物だ。

 このポーションの凄さを体験してしまうと、手放せない物になってしまう。




 ひとしきり驚きと感動をしたので、休憩をやめ先に進む。


 先の部屋に進む道順は一直線だから間違いようがない。正面の壁にあいている洞窟のような穴を抜けると、またもや体育館ぐらいの大きさの部屋に出た。正面には上りの階段が見え、左右の壁には出入口になるような穴はない。


 ここまでの全体図を思い浮かべると、真っ直ぐに体育館ぐらいの大きさの部屋が3個連なっている形になる。階段から階段まで一本道、この階層は単純だ。


 辿り着いた新しい部屋も、見渡せばニードルビーが漂いピルバグが散乱している。前の部屋と何も変わりは無った。


 なので、いつもの手順で殲滅させた。




 さて次は正面にある階段だ。上り階段になっていて、しばらく上がると踊り場があり、そこで180度方向転換。折り返してさらに上って行く。そして、階段を上りきると、部屋に出た。


 部屋は一目で見渡せるサイズで、コンビニぐらいの大きさ。正面には通路、右にも通路、左にも通路があるようで、言うなれば十字路部屋だろうか。


 この部屋にはニードルビーが6匹いや7匹飛んでいたが、背中の木刀を抜き出し、あっという間に全てを叩き落した。ニードルビーだけだと、今や大したものではない。


 改めて部屋を見るが、他には何も居なかった。

 なんだか肩透かしを食った感じだった。


 さて左、正面、右と、先に進む通路が3か所もある訳だが、迷っても意味が無いので、気が向くままに左の通路に向かう事にした。


 そこは、人が一人が通れるぐらいの狭い洞窟のような通路で、手を伸ばせばすぐに天井に手が届くぐらいの大きさだった。


「ブーーーンブーーーンブーーーンブーーーン」


 通路を歩いていると、ニードルビーの大音量の羽音が聞こえて来た。

 通路の先の方から蜂の巣に近づいた時の様に、激しい羽音がしている。


 ハンディライトで先を照らし様子を伺うと、通路の先の部屋でニードルビーが20~30匹飛んでいるのが見えた。「あれぐらいの数なら大丈夫だな」と考えながら何となく先の部屋の床を見たら、床一面にニードルビーが蠢いているのに気が付いてしまった。


「ちょいいいいいい!」


 見た感じ何百匹、いや、もしかして千匹ぐらいいるかもしれない。それ程の大群だった。予想以上の数に腰が引け、逃げ出そうと思ったが、相手はあのニードルビーなのだ。これは案外美味しいのかもしれないと、考えをすぐに改めた。


 防護服のチャックを最後まで上げて、肌が出ている場所を無くす。

 それから、覚悟を決める。



『鑑定』

ニードルビー

その巨体を飛ばすのに精いっぱいで、方向転換が下手

刺されると痛いが毒は無い



 大丈夫。毒は無い、もし刺されてもちょっと痛いだけだ。


「おらあああああああああ!」


 声を挙げニードルビーが蠢いている部屋の中に飛び込んだ。

 「赤樫 小次郎」を夢中で振り回し、足はバタバタとさせ、下にいるニードルビーを踏みつけ、暴れるように動き回る。すると、床に這っていたニードルビーが驚いたのか飛び上がって来て、羽音が更に喧しくなっていた。部屋の中が物凄い事になってきてしまっている。


 叩かれ、踏みつけられたニードルビーが、部屋のあちこちから吹き出す紫黒の煙に視界が埋め尽くされる。だが、体にダメージ的痛みは無いので、必死に体を動かし続けた。



 5分、いや10分ぐらいは暴れただろうか。踏み潰し、木刀を振り回し、纏わりつかれないようにグルグルと体を動かし、部屋中を回っていたが・・・もう限界だ。息が上がってしまい、太ももや肩なんかはパンパンになってしまった。


 それで、部屋にいるニードルビーの数が減ったかと言うと、うじゃうじゃと、まだまだいた。減ったのかどうか何てまったく分からないぐらいいる。

 

 マジもう無理・・・撤退します。


 走って通路に戻る。ブンブンと羽音が激しくて、どういう状況になっているのか分からないが兎に角走った。


 ひとつ前の部屋に飛び出し、勢いそのまま階段を飛ぶようにして下りていく。

 自分の呼吸する音も五月蠅くて、羽音が分からなくなってしまっていたが足を止めずに走った。


 1個目の体育館部屋を走り抜け、2個目の体育館部屋でもう走れなくなり足を止めてしまった。恐る恐る後ろを振り返ってみると、走ってきた通路の方からニードルビーの群れが追って来ているのが見えた。


 「クソ!」っと悪態をつきながら再び走り始める。バタバタと重くなった足を動かし、張り裂けそうな胸を押さえ、どうにかこうにか前に進む。


 3個目の体育館部屋がやけに長く感じる。


 なんとか下り階段に辿り着き、転がるように下りて行き、最後のチカラを振り絞り改札部屋の扉まで走った。


 扉を開けて改札部屋に飛び込み、すぐに扉を閉める。

 聞こえてくるのは「ヒューヒュー」という敬太の荒い息遣いだけ。部屋の中を見渡しニードルビーが入って来ていない事を確認して、モトクロスのヘルメットを脱いで床に倒れ込んだ。

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