第28話 世界観
少し「怖いな」などと考え始めてしまうと、突っ込まれてしまった。物理的に。
ロウカストの大きな体の凶暴そうなアゴが現前に迫ってくる。敬太は後ろに倒れるようにして、なんとか躱す。
「危なっ!」
突撃してきたロウカストが後ろに通り過ぎると、敬太はお返しとばかりにすぐに追いかけ飛び掛かって行ったが、ただの木刀の振り下ろしでは、ダメージが入っているのか分からないぐらい外見に変化が見られなかった。
それならばと、2度目のスキルを使う。
「【強打】!」
ロウカストが飛び跳ねる為に使っている後ろ脚に木刀をジャストミートさせた。
どうだ?ダメージは与えられたのか?見た感じでは微妙に見えるけど。
「パキッ」
直後、ロウカストが飛び跳ねるのに失敗したのか、音を立てて地面に転がっていた。後ろ脚を見ると、木刀を当てた辺りから変な方向に折れ曲がっている。
おそらくロウカストが飛び跳ねようと脚にチカラを入れたら、その荷重に耐えきれず、スキルでダメージを与えていた脚が折れてしまったのだろう。
地面にひっくり返り奇妙な動きでのたうち回っているロウカストに、止めを刺すべく近づく。木刀を振り上げ頭部に狙いをつけた。
「【強打】」
どうだ?
ロウカストの目の辺りにへこみが見えるが、煙が吹き出しては来なかった。
スキルを使ってもワキワキと脚を動かし続けている。止めが刺せていない。
「【強打】」
バキッ!っと今度は前脚をへし折る事は出来たのだが、まだ煙は噴き出してこない。
このままではスキルの回数制限に達してしまいそうなので「赤樫 小次郎」を背中にしまい、代わりにもう1本の木刀、水に沈む木刀を取り出した。
背中から抜き出すと、凶悪な重みが腕に伝わってくる。柄よりも太い刀身、見た目は舟を漕ぐ「櫂」のように分厚く、硬く重い角材に取っ手を付けたかのような野暮ったい感じだ。
グッとチカラを入れて「水に沈む櫂型木刀」を上段に持ち上げて狙いを付ける。この破壊力がありそうな木刀ならば、期待が持てそうだ。
「【強打】!」
ドバン!っと凄い勢いで櫂型木刀が地面に当たった。
一瞬狙いを外したのかと思ったが、違っていた。ゴロゴロと何かが転がって行くのが見えたのだ。ちょうどロウカストの頭部と胸部の繋ぎ目辺りに木刀が当たったのだろう。頭を千切り飛ばし、それでも木刀の勢いが収まらずに地面を叩いてしまったようだ。
程なくロウカストの大きな体は煙に包まれ、離れた場所に転がっていた頭部と共に消えていった。
1匹に対してスキル5回は使い過ぎたが、どうにか倒す事ができた。
後には一万円札と小瓶が残されていた。
「3、4、5。・・・5万円か。」
蜂が1万円、ダンゴムシが2万円、ウサギが3万円ときたから次の階のロウカストは4万円かと思ったが何故か5万円だった。まぁ多い分には文句はない。ありがたく頂戴します。
それから落ちていた小瓶を見る。中身はポーションかと思ったのだが、どうも色が違うようだ。ポーションのように赤いワイン色ではなく、ブルーハワイのように青いのだ。
『鑑定』
マジックポーション
マジックパワー回復(小)
飲み薬です
ほほう。マジックパワーとな。
マジック・パワー。
略してMPかな?もしかしてMPで管理されているのか?そうなのかな?
だとすると・・・もしかして・・・。色々な可能性が頭に浮かびあがってきた。
「【鑑定】」
考えていなかった訳じゃないが、ありえないと思っていた事を実行した。
自分自身への鑑定だ。
『鑑定』
森田 敬太 37歳
レベル 7
HP 12/22
MP 3/8
スキル 鑑定LV1 強打LV2
ほほう!そう来るのか。
今まで自分自身に鑑定をかける事は試していなかった。
「なぜ?」と言われれば、そんな気が起きなかったとか、この結果を想像出来なかったとかになってしまうだろう。これと言った明確な理由は無いので「何となく」というのが一番近い理由になる。
しかし、よくよく考えてみればダンジョンはゲームの世界観だったのだ。モンスターを倒すと、お金とアイテムが残る。もう無茶苦茶な事だし、意味不明な現象だ。そう、まるでゲームみたい。と言うか完全にゲームなのだ。
なんだかスッキリした気がした。数字化され簡単に管理出来そうなゲームの世界と現実、頭の中で上手い事折り合いがついた気がした。
とりあえず、今日はこれ以上のロウカストの相手はスキルの回数制限的に、いや残りMP的にきついだろう。
木刀を引きずり、地面に残した線を辿り壁際に戻り、階段があった場所へと戻り、改札部屋に戻った。
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