第27話 ロウカスト
ハンディライトでトンネルの中を照らすと、大きく右に曲がっていて先が見通せなかった。何処も似たような作りのトンネルだなと思いながら歩みを進めていく。
ゆっくりと大きく右に曲がって行くと、ブレイドラビットが2匹ライトに照らされて見えた。立て続けにウサギ退治となる。
少しウサギに慣れてきたのか心の揺れは
紫黒の煙が消えると、一万円札とリップクリームぐらいの小瓶が落ちていた。
ようやく、ここでポーションを1本拾う事が出来た。ブレイドラビット6匹目にして1本。確率の方は、まだまだ検証が必要だが、ブレイドラビットがポーションを落とすという考えは間違っていなかったようだ。
トンネルが終わり先が開けると、また部屋に出た。
正面には下りの階段があり、他に進める様なトンネルは見当たらない。
ハンディライトを振り回し部屋の中をあちこちを照らし出すと、ブレイドラビットは5匹程いた。
敬太は急ぎ足で部屋の隅に陣取る。少し数が多いので安全策だ。
壁を背にし、ブレイドラビットに木刀を叩きつけていく。1匹倒すと、また1匹と連携をとるように次々に飛び込んできたので、思いの
少し息があがってしまったので、ゆっくりとお金を拾いながら息を整える。
リュックからお茶を取り出し、口にする。小休憩だ。グッと腕を伸ばしたりして体の具合を確かめるが、まだ大丈夫そうだった。もう少し頑張ろう。
この部屋には下りの階段しか進めるところが無いので、ハンディライトで照らして階段の様子を見てみる事にした。
階段を下った先には踊り場が見え、そこから先は見えない。ウサギや蜂が居る様子はなく、生き物は見当たらなかった。
何もいないので踊り場まで下りてみると、階段の先は折り返しており180度回れ右すると残りの階段が目に入ったが、そこにも何もいなかった。
階段を最後まで下ると、開けた場所に出た。
ハンディライトで照らし、左から右へゆっくりと光の帯を動かして様子を伺うが、何も無く、何も照らされなかった。軍用ハンディライトの光でも届かないぐらい広い空間のようだ。
迷子にならないように左手側の壁沿いに少し移動してみる。
「チキチキ・・・」
遠くから虫の鳴き声の様な音がする。
何の音だろう?見当がつかない。
ハンディライトで鳴き声の様な音がする方を照らすが、何も見えない。
「チキチキチキ・・・」
気になる。壁から離れてしまうと迷子になりそうなので壁際から離れたくないのだが、少し様子を見て来ようと思う。得体の知れない鳴き声の様な音に恐怖7割、好奇心3割だが、前に進まなければ始まらない。
木刀「赤樫 小次郎」を背中から抜き出し、地面を引きずりながら歩く。万が一、どちらから来たのか方角が分からなくなってしまった時の為に地面に線を引いておく。
「ガガガッ」
壁から手を放し、地面に線を引きながら音がする方向へ。
何もない空間を進んでいく。
「チキチキチキ・・・」
「ガガガッ」
地面に線を引く音と、虫の鳴き声の様な音だけが、暗闇の中響いていた。懸命に音がする方向をハンディライトで照らしながら進む。
「チキチキチっ」
突然、鳴き声の様な音が止まった。それと同時にハンディライトの光の帯の前を何かが横切って行ったのが分かった。
慌ててハンディライトを振り、影を追いかける。
「うわっでかっ!」
光が照らし出したのは、大きさが手漕ぎボートぐらいで、色は肌色と緑色。種類とか全然知らないけどバッタ系の生き物だった。
急いで【鑑定】を使う。
『鑑定』
ロウカスト
見た目はトノサマバッタ
地面を跳ねて飛んだ後に長めの翅を拡げて
数十メートル程も飛翔する
トノサマバッタのロウカストか。随分と大きなバッタもいたもんだ。
15mぐらい先でじっとしているロウカストを観察していると、鳴き声の様な音がした。
「チキチキチキ」
大きなロウカストはピョンと飛び跳ねたと思ったら、そのまま翅を大きく広げ、敬太に向かって飛んできた。
近づいて来るロウカストは翅を広げているせいか、ただでさえ大きいのに更に体が大きく見える。なかなかの大迫力だ。
「わああああ」
声を出して、横っ飛び。
ロウカストの飛ぶスピードはそこまで速く無いのか、簡単に避けられたが驚いた。
虫って急に飛ぶから嫌いなんだよ・・・。
飛んで行ったロウカストを見ると、先の方に着地していた。
急にバッタに飛ばれてビックリし、腹が立った敬太は、それを見てぶっ叩いてやろうと駆けだした。
背後からロウカストに迫り、木刀を容赦なく振り下ろす。
バスッと打撃音が響き、ロウカストの腹に木刀が炸裂する。
敬太は「決まったな」などと勝ち誇っていると、一瞬目の前が真っ暗になり、気が付くと地面に転がっていた。
「ううぅ・・・」
腹が殴られたように痛い。打撃系ダメージだ。
倒れたまま腹を押さえ丸くなる。
どうやら、ロウカストのあの大きな後ろ脚で蹴とばされてしまった様だ・・・。
チェンソー用の防護服を着て、防刃ベストも着ているが、打撃系の衝撃は貫通してしまう。
追撃されてしまったら堪らないので、地面に倒れたまま視線だけを向け様子を伺うと、ロウカストはピョンピョン跳ねて小さな円を描きながら、方向転換していた。どうやら小回りが利かない鈍臭い奴のようだ。
この隙に、敬太は痛めた腹を押さえながら立ち上がり、走り出すとロウカストとの距離を一気に詰める。
「【強打】!」
いい手応えだ。スキルを使った木刀が当たった翅の付け根は折れ曲がり、垂れさがる。これで飛ぶ事は出来まい。
しかし、まだロウカストを倒すまでには至っていなかったようで、煙が噴き出す様子は無い。威力不足だったようだ。
ロウカストは翅が折れているのにピョンと飛び跳ね、敬太の脇を抜けて行った。すれ違いざまに、太く大きな後ろ脚の蹴りに警戒して備えたが、ロウカストが蹴とばしてくることは無く、続けてピョンピョンと跳ねていった。
ちょうど敬太と正面で向かい合う位置にまでロウカストが方向転換して来ると、そこでピタリと動きを止め触覚だけを動かしている。こちらの様子を伺っているのだろうか。敬太も木刀を構えて向き合った。
ロウカストとの視線の高さはあまり変わらない。手漕ぎボート程の大きさのトノサマバッタ。大きな目、動く触覚、凶暴そうなアゴが目に入る。こいつに噛みつかれたら腕ぐらい引き千切られるんじゃないかと考えてしまう。
今更ながら怖くなってきた。
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