第18話 鳴き声

 改札部屋を出ると、左手側の壁を目印に先へと進んで行く。

 そこからいつもの隅っこに着くと、壁と同じ様に進行方向を90度曲げて、また先に進む。

 そうして、左手側の壁を目印にしたまま、しばらく進むと目的の横穴が見えてくる。車が1台通れるぐらいの大きさで、天井は丸くアーチ型になっているトンネル状の横穴。


 明かりで奥を照らすと、早速白い奴を見つけた。ブレイドラビットだ。


 背中から普通の木刀「赤樫 小次郎」を抜き出し両手で持ち構える。

 ウサギはライトに照らされても反応せずに、丸まったまま動かないでいる。

 昆虫系なら、このまま何も考えないで突っ込んで殺れるのだが、このウサギは未だに精神的にきつい感じがして、気が進まない。


 ウサギは噛みつくし引っかくし、危ない奴なのは分かっている。それに3万円も落とすのは知っているし、倒しても煙になるのも分かってる。だが、気が重い。


 ほら嫌だと思っているとダメなんだよ。ウサギがこっちに走って来てしまった。

 木刀を腰の位置で構えているが、覚悟が決まらない。


 そんな敬太を嘲笑うかのように、ウサギは足元に突っ込んでくる。前回と同じように、片足を上げなんとかそれを躱す。今回はウサギが軸足に当たることなく敬太の後ろに消えていった。

 

 ウサギの姿を追いかける様にして、敬太もグルんと後ろを向くと、ウサギは既にUターンしていて、さらに突っ込んできていた。それは、敬太の予想以上の動きだったので避ける間もなく、太ももにウサギの攻撃が命中する。 


「シャカッ」


 敬太の太ももには、ウサギがぶつかってきた重みだけが残り、ズボンからは擦れる様な音がした。多分噛みついてきたんだろう。

 新調した草刈り防護ズボンが早速仕事をして、ウサギの歯を防いだようだ。

  

 敬太は握っていた木刀で叩くというよりは、押しのけるような感じで、太ももからウサギを引きはがす。

 だが、ウサギは押しのけた途端に、またすぐに飛びついてくる。


 むむむ・・・となった敬太は、飛びついてきたウサギに合わせ、今度は蹴りを入れた。足の裏で押す様な喧嘩キックだ。

 カウンター気味に蹴とばされたウサギは2~3m先にまで飛んでいき、そこで動きが止まった。


 蹴とばしたウサギが穴の奥の方向にいるので、そちらを見ていると穴の更に奥の方から、もう1匹新たにウサギが近づいてくるのが見えた。


「また、増えた・・・」


 ウサギには仲間を呼ぶ機能でもあるのだろうか。2匹となると前回大怪我した時の嫌な記憶が蘇ってしまう。


 そう、分かっているんだ。殺るか、殺られるかだ。


 後ろから出て来たウサギは、敬太が相手をしていたウサギの脇を抜け、勢いそのままに、こちらへと迫って来ようとしている。


 敬太は左足を後ろに引き、腰を落とし木刀を上段に構え、覚悟を決める。

 それと同時に突っ込んで来たウサギが、ぴょこんと飛んだのが見えた。

 中途半端な攻撃は、精神的ダメージを受けるんだ。やるなら思いっ切りだ。


 飛んだウサギのタイミングを計り、上段から木刀を力強く振り下ろすと、カツンと硬い感触が木刀に伝わった。


 まともに木刀を喰らったウサギは地面に叩きつけられてから、一瞬起き上がるような仕草を見せたが、すぐに支えが無くなったかのようにして崩れ落ちた。


 敬太は良かったと胸を撫で下ろし、最初に相手をしていたウサギに目を向けると、丁度こちらに突っ込んで来ているところだった。ウサギ同士で通じているのか、コンビネーション攻撃をしてくるので驚いたが、納得もした。初めて大怪我させられた時も、連携している感じがしていたからだ。


 すぐに振り下ろしていた木刀を、腰を捻って横にスイングする。しかし、力任せだったので木刀にスピードがあまり乗らず、突っ込んで来ているウサギとタイミングがずれてしまった。その為、ウサギはそのまま敬太の脚に激突してしまってから、ウサギの腰辺りを木刀で打ち付ける感じになった。完全に振り遅れた感じだ。


「キー!」


 ウサギには発声する器官は付いてないらしいのだが、痛かったりすると悲鳴を上げる事がある。甲高い鳴き声だ。


 敬太が中途半端な攻撃で中途半端な事をしてしまったせいだ。

 ウサギの痛がる鳴き声を聞き、申し訳ない気持ちになってしまう。


 せめて手早くと、ススッと半歩近づき上段からの打ち下ろしを放つ。ウサギの動きは鈍くなっていたので、狙い通りの位置に木刀が吸い込まれて行く。


「コッ」


 弱点となる後頭部。剣圧にそのまま押し潰されるように、ウサギは地面に突っ伏して動かなくなった。


 しばらくすると、時間差で、2匹のウサギは煙に包まれ消えていった。



 ウサギは嬉しいときには「クークー」って鳴くんだよ。


 後には一万円札が落ちていた。

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