第16話 体育館部屋
休日が終わってからは、仕事が忙しくなり、ダンジョンに行く時間を作れないまま、あれよあれよと1週間が経ってしまった。
だが、その間に何もしていなかった訳ではない。
ママゾンから荷物が届き、木刀が2本という事で二刀流剣士みたいだとテンションがあがってしまい、どのようにして木刀を2本帯びればカッコいいかと考え、あーでもない、こーでもないと試行錯誤に時間を無駄にしていたのだ。
始めは腰に差すのがいいと思い、バットケースを改造して腰の辺りにくるように紐やベルトで調整して作ったのだが、どうしても歩く時に足に絡まるので断念。ならば忍者の様に背に斜め掛けにしようと、ベルトの長さを調整し紐などでバランスをとり、納得がいく仕上がりになったが昨日という感じだ。
なので今回の探索も仕事が休みの日、丸々一週間ぶりにダンジョンに向かう。
夜の19時に起きてご飯を食べて、父親の世話をし洗濯機を回し、家の用事を粗方済ませて20時半に家を出た。
途中いつものスーパーに寄り、半額弁当と特売のペットボトルのお茶を3本買って、颯爽と自転車を走らせ駅に向かう。
今日の出で立ちは、背中に斜め掛けのバットケース、中身は木刀2本。その上にリュックを背負い、腰にはウエストポーチ。手には半額弁当が入ったスーパーの袋を持つ。
はい、敬太です。
ススイカ(改)を取り出し改札に進む。
「ピピッ」
パッと改札部屋へ辿り着く。ぐるっと部屋を確認するが、何の変化もなかった。
つるはしやヘルメットなどの装備品は部屋の隅に置いたままの状態であるし、血で汚した茶色い床、床に敷いたままのダンボール。全てが前回来た時のままの状態だ。
何故こんな確認をしているかと言うと、敬太は拾ったススイカで、たまたまこの改札部屋に来る事が出来ただけで、本当の持ち主では無いからだ。
勝手に人のススイカを使ってダンジョンへ行き、勝手に自分のススイカをダンジョンに登録してススイカ(改)とさせ、それを使って勝手にダンジョンを荒らし回っている状態なのだ。
今のところ、誰か人が来たような痕跡はないし、拾ったススイカを求めて敬太にコンタクトを取ってくる人もいない。だけど、そのうち正当なススイカの持ち主に見つかり「出ていけ~」って言われるだろうなと思っている。
あの時拾ったススイカは、まだ敬太が持っているが、拾ったススイカ以外の何かしらの方法でも改札部屋に来る事が出来るかもしれないので、何時、正当なススイカの持ち主に出会うかは分からない。
『鑑定』
ススイカ(改)
魔改造されダンジョンに入る為の通行手形としての役割も果たしている
※※※※専用
相変わらず名前が隠されている拾ったススイカの鑑定結果。
正当なススイカの持ち主は、困っているのか、放置しているのか、はたまた死んでしまっているのか。何も分からない。
とりあえず、いつか誰かが現れて、ダンジョンを追い出されてしまうまでは、頑張って行こうと思う。
ネックガードにフルフェイスのヘルメット。今日は防刃ロングTシャツも着こんできている。背中には木刀2本、肩にはつるはし。
ポチポチと各部のライトを点灯させ、扉に手をかけて、グイっと押し開けると広がる闇の世界。ライトで照らさなければ何も見えない漆黒の闇。
恐ろしい場所なのだが、夥しい数のライトを身に付け、金に目がくらんだ敬太は先へと先へと進んでいく。
一番恐ろしいのは人間の「欲」かもしれない。
「よいしょっとお」
威勢のいい掛け声とともに、つるはしの柄を持ち上げる。
改札部屋を出て右側へ進み、階段を上ってピルバグの住処に来ていた。
この部屋まで来る時に、階段でニードルビーを2匹。
部屋にはピルバグが3匹いて、今その3匹目を煙に変えたところだ。
蜂×2 ダンゴムシ×3
早くも合計8万円を稼ぎ出す。美味し。
この調子で滞納している市民税も払ってしまいたい。
大分つるはしの扱い方が分かってきて、無駄なチカラを使わなかったからなのか、今の所まだ体力に余裕がある感じだ。
ポーションの為にも支払いの為にも、もう少し先の部屋に進んでみよう。
今いる体育館ぐらいの大きさの部屋には、階段を背にして正面の壁に穴が開いていて、そこから先に進める様になっている。
軍用ハンディライトで穴の中を照らすと、10mぐらい先に、また開けた空間があるようで、そこにもダンプカーのタイヤことダンゴムシが転がってるのが見える。
穴の中は2人並んでは歩けない洞穴って感じで、天井も手を伸ばせば届くぐらいの高さで、小ぢんまりとしている。
テクテク歩き穴を抜けると、天井が高くなり広い開けた場所に出る。広さ的にはここも体育館ぐらいあり、体育館部屋を抜けるとまた体育館部屋だったって感じだ。
正面の壁には、また穴が開いていて、そこからまだ先があるようだ。
部屋には結構な数のダンゴムシが地面に転がっていて、蜂も何匹か浮かんでいる。
背中から普通の方の木刀「赤樫 小次郎」を引き抜き、つるはしは地面に置く。
まずは蜂を先に片付けようと思う。
「赤樫 小次郎」は程よい重さで、金属バットと同じ様に振り回せるので良い。
剣道のようにして上から振り下ろしたり、野球のスイングのように横に振り回したり、自由自在に使える感じだ。
体育館部屋の中を歩き回り、蜂を5匹程煙に変えた。
耳を澄ませるがブーンって羽音は聞こえてこない。
残っているのはダンゴムシだけとなっている。
「ひぃふぅみぃ・・・」
ダンゴムシは11匹。
なかなかの作業量だが、頑張りますか。
木刀からつるはしに得物を変えると、端から順に殺っていく。
途中で一度休憩を挟んだが、何とか全てのダンゴムシを煙に変える事が出来た。
肩で息をし、ヘルメットのシールドを曇らせながら来た道を戻って行く。
肩にはつるはし。今日も頑張った。
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