第15話 卵
改札部屋に戻り、つるはしをカモフラージュしていたダンボールをお尻の下に敷いて座った。
「14だから今日の稼ぎは15万円か!」
ウエストポーチから、今日拾ってきたお金を全部取り出し枚数を数えてみた。
ホームセンターでつるはしを買った時に1枚使っているので、手元には14枚だが、プラス1枚と考えて15万円稼ぎになる。
今の時間は23時40分、約3時間でこの稼ぎだ。時給5万円だぞ。
稼ぎ的には満足したが、目的のポーションが出てこない。運が良くないのか、何か手順があるのか。どちらにせよ金属バットが曲がってしまったので、今日は帰るしかあるまい。素早いウサギを相手にして、つるはしを振り回せるような腕力は持ち合わせていないのだよ。
大きな装備だけを外し、帰り支度を始めようとしたが、ふとATMの画面に文字が写っているのが見え、手を止める。
『レベルアップおめでとうございます』
お、来たな。前にもあったやつだ。
『ペット開放ボーナス』
『スタートボタンを押して下さい』
ん?ペットとな。相変わらず意味が分からんし、画面からキャンセル出来ない仕様だ。何か押さないと先に進めない。半ば強制だよね、これ。
「ピン」
『スタート』
仕方なくスタートボタンを押すと、画面にデフォルメされた動物とかの絵が映し出され、ルーレットの様に次々と絵が入れ替わっている。
『ストップボタンを押して下さい』
画面にはストップボタン以外押せる所は無い。
「ピン」
『テ・テ・テ・・・テテーーーン』
「ガタン」
『忘れずにお持ち帰りください』
一瞬、何かの絵がルーレットで止まったのだが、その直後にATMから自動販売機で飲み物が出てくる様な音がしたので、そっちの方に気を取られてしまい、何の絵だったかを確認する前に、画面が切り替わってしまっていた。
融通の利かない画面は今に始まった事では無いので「何だよ!」と思いつつも諦め、ATMの音がした辺りをよく見てみた。すると、そこが開くの~?ってところが開き、中を覗き込むと、茶色い卵が1個入っていた。
とりあえず「持ち帰れ」って言われたので手に取ってみと、それはニワトリの卵と変わらない大きさで、冷たくも温かくも無く、常温のものだった。
卵を手にしたまま、切り替わった画面に映し出されている、ペットの扱いに関するであろう注意事項を一応読んでおく。
要約すると、卵は割れちゃうけど肌身離さず身に着けていてね。卵が孵ると仲間になるよ。って事らしい。
まさかATMから生モノが出てくるとは予想してなくて、思わず受け取っとてしまったが、正直育てるのは面倒臭い。かと言って、ATMの中に戻せそうもないし、割ってしまうのも忍びない。
手のひらで転がる卵を見て困り果てるが、注意事項にある「仲間になるよ」との一文から、それはそれで面白いかもと思い直し、やっぱり卵を持って帰ってみる事にした。
割れないように、持っていたタオルで包み込み、ウエストポーチにそっと入れる。
ATMの画面を見ると、いつの間にか、また切り替わっていて「チャージ」とだけある、いつもの待機画面に戻っていた。
「は~、帰ろか」
ひとり呟き荷物をまとめる。
リュックを背負いヘルメットを拾い上げたのだが、その時、ふと思った。荷物がガチャガチャとあると卵を割ってしまいそうだなと。
なので今回は、つるはしや曲がった金属バット、ヘルメットなどの大物はこの部屋に置いていく事にした。まだポーションを手に入れられていないので、また来る事になると、見越しての事だ。
おいていく荷物を部屋の隅にまとめ、改札を使う。
「ピピッ」
翌日、案の定、激しい筋肉痛に襲われた。特に前腕がバキバキで、箸を動かすのも大変だったぐらいだ。だが、密かに翌日に筋肉痛が来てくれたので、まだまだ若いななどと喜んでいたのは秘密だ。
父親には悪いが、ポーションはもうちょっと待ってもらおう。こんな状態では、つるはしどころかバットも振れない。安全第一、急がば回れだ。
そんな訳で、今日は父親の世話をして、ゆっくりと過ごす事にした。
しっかりとご飯を食べて、時間をかけてお風呂に入り筋肉をほぐす。戦士の休養日だ。心身ともにリフレッシュ、いい休日を過ごした。
眠る前にママゾンを漁る。なんだか最近の日課のようになってしまっている。
欲しいものは2点。1つは「く」の字に曲がってしまった金属バットの代わりに、手軽に振り回せる武器になる物。もう1つは卵入れだ。何か入れ物に入れておけば、卵を持ち歩いている時に割ってしまう確率を減らせるだろう。
まずは武器を思い浮かべる、ゴルフクラブとかバール、鉄パイプ、後は木刀辺りだろうか。腕力がなくても、ブンブンと振り回せる物。
思い浮かんだ物を一つ一つ検索して眺めていく。重さとか長さが数字で表示されているのだが、いまいちピンと来ない。どれぐらいの感じなんだろうと想像は出来るけど、それ以上が分からない。この辺がネットショッピングの不便な所だよね。
そんな中一つピンと来るものがあった。素振り用木刀というものだが、レビューの評価が高く「硬くて、いい重さ」ってのが大半だった。商品名は「日本刀より重い 水に沈む木刀素振り用115cm(2,5kg)」だ。お値段9,800円。何か水に沈むってフレーズが気に入った。いいね~っとポチる。
ついでに今のが重すぎた場合を考え、関連商品にあった普通の木刀も1本ポチっておく。「赤樫 小次郎」ってやつだ。レビューの評価が高かったからで、思い入れは特にない。
続いてペットの卵の箱を探す。
これはすぐに見つかった。宝箱型の小物入れをポチる。
これで箱の中に梱包材と一緒に入れておけば、卵が簡単に割れてしまう事は無いだろう。
ついでに防刃ロングTシャツもポチった。29,820円と高かったが、肩が無防備だったので欲しかった物だ。値が張るがケチって怪我したら、元も子もないからね。
こうやってお金を稼いでは、少しづつ装備をグレードアップさせていくのも悪くないなと思ったのだった。
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