第13話 金属バット
地面に落ちている一万円札を拾い、先に進む。
階段の踊り場から折り返していた先を上り終えると、開けた場所が広がっていた。
軍用ハンディライトで照らすと50mぐらい先に石の壁が見え、その壁の一部には人が通れそうな穴が開いている場所があるのが見える。部屋の横幅もライトが届く距離に石の壁があり、部屋の広さ的に言えば体育館ぐらいはあるだろうか。
そんな部屋の中には、ダンプカーのタイヤの様な物が何個か落ちている。
それが何なのかはここからでは判断が付かない。
とりあえず、部屋の中に羽音が聞こえるので、漂っているニードルビーに無造作に近寄り、野球のノックをするように金属バットを振り回し、煙に変えていく。
落とした一万円札を回収し終えると、今度こそ、気になるタイヤの様な物に近づいた。
直径は120cmぐらいと結構大きく、厚みは50cmぐらいあるタイヤの様に黒い物。感触を確かめるべく足で踏んでみると、ゴムでは無い。思っていたよりも硬い感触が返って来る。
これは何なのだろうか?
似たようなタイヤみたいな物が部屋には6個程転がっている。
正体が分からず、首をかしげながら金属バットで軽く小突くと、タイヤの内側からワラワラと、棒状の枝のような物が無数に飛び出して来た。
「わあああぁぁぁ!」
突然の事に、驚きの声を上げて、タイヤから距離を取って様子を見る。
ワラワラ、ワキワキ動いていた枝は、よく見ると見覚えがある物だった。
ありえないサイズなのだが昆虫の足のように見える。
タイヤの外側もよく見てみるとキャタピラのような形状をしている。
これってでかいダンゴムシなのだろうか?
『鑑定』
ピルバグ
硬い
まさか落ちているダンプカーのタイヤの様な物がモンスターだったとは夢にも思わず【鑑定】を使うのが遅くなってしまったが、どうやらこの地面に転がっているタイヤのような物は、でかいダンゴムシでピルバグっていう名前なのが分かった。
それならばと、先程小突いて足をワラワラ動かしていたダンゴムシに向けて金属バットを振り上げ、渾身のチカラで叩いた。こういう昆虫系なら何も思う事無く容赦なく殺せる。
「ぐわぁ!」
しかし、ダンゴムシの外殻は非常に硬く、振り下ろした金属バットはパカンと情けない音を出し思いっきり弾き返されてしまった。それと同時に手には痺れが走り、思わずバットを手放し、放り投げてしまう。静かなダンジョン内にカランと金属バットが転がる音が響き渡る。
一方、叩かれたダンゴムシは、足をワラワラ動かすだけで反撃などはして来なかった。
「弱ったなぁ」と痺れた手を振りながら、少し離れた位置からダンゴムシを観察すると、金属バットを当てた外殻の所が少し凹んでいるのに気が付いた。
どうやら少なからずもダメージを与えられているのを確認出来たのだが、果たして金属バットで倒せるのものなのだろうか?
どうにも攻撃している方がダメージが大きい気がするんだけど・・・。
リュックの中からタオルを取り出し、バットの持ち手の所にぐるっと巻き付けて、そのタオルの上からバットを握りしめる。そして、未だに丸まったまま動き出さないダンゴムシに狙いを付けて、餅つきをする様に金属バットを振り下ろす。
手応えあり!少々鈍い音を響かせ、金属バットがダンゴムシにめり込・・・んでない。叩いた金属バットの方が「く」の字に曲がってしまっていた。
あぁ・・・中学生の頃、父親に買ってくれと言えなくて、お年玉を握りしめ近所のホームセンターで買った3,980円の金属バット。野球部だったのでグローブは買ってもらったのだが、バットはチームに1本あれば足りる物なので別扱い。バッティングセンターに野球部のみんなで行くと、金持ちの家の子が自慢気にマイバットを見せびらかせていて、うらやましかった。だからマイバットを買った時は嬉しくて、その日から毎日100回振ろうと決めて素振りをした青春の日々・・・。
そんな苦楽を共にしてきた相棒が無残な姿に・・・。
ダンゴムシはそれを嘲笑うように足をワラワラ動かしていた。
この恨みはらさでおくべきか・・・。
「く」の字に折れ曲がったバットを抱きかかえ、上ってきた階段を飛ぶようにして下りて行き、勢いそのまま改札部屋まで帰って来た。
ちくしょう。オレの大事な相棒を・・・。あのダンゴムシ野郎だけはぶっ倒さなければ気が済まない。
画面を直したばかりのスマホの時計を見ると21時40分。
私の記憶が確かならばホームセンターの営業時間は22時までだったはずだ。
急いで装備を外し、ススイカ(改)を使い駅へと戻る。そこから駐輪場まで駆け足で向かい自転車に跨ると、競輪選手並みのケイデンスで回し、夜道を爆走して行く。
息を切らせてホームセンターに駆け込んで行くと、店内には既に「蛍の光」が流れていた。しかし、ここで慌ててはいけない、既に武器として何を買うかは決めてあるのだ。
ダンゴムシの外殻をぶち破って倒すには、1mぐらいの柄がついたハンマー、そう「大ハンマー」クラスの攻撃力が必要だろうと当たりをつけていたのだ。
すなわち向かう場所は「工具売り場」だ。迷っている時間などない。
注意されない程度の小走りで店内を移動する。
ホームセンター内を移動していると、ドライバー、チェンソー、バール等、色々な物が目に入ってくる。これらも武器としては使えるのだろうが、今回必要なのは硬い外殻を叩き壊す攻撃力なので、足を止める事なく進んで行く。
工具売り場まで辿り着き、そのまま壁際の方まで進んで行くと、目的の大物コーナーがあった。
一際大きな大ハンマーはすぐに見つかり、早速手に取り具合を確かめる。手に吸い付く様な木製の柄に、ずっしりとした重みのある赤いハンマー部分が付いている。これならば、あのダンゴムシの外殻を叩き潰す事が出来るだろう。値段も3,800円とお手頃価格。
そのまま大ハンマーをレジに持って行こうと2~3歩足を踏み出したのだが、ここで大物コーナーの端に鎮座する幻の一品と出会ってしまった。
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