第12話 ライト

 ようやく辿り着いた改札部屋だが、何も無いし落ち着ける場所でもないので、さっさと帰りの準備に取り掛かる。


 ヘルメットを外したら袋にしまい、金属バットもバットケースにしまう。


 チラリとATMの画面を覗き込み変化が無いか確認するが何も変わってなかった。

 改札も動いている様なので、ススイカ(改)をかざし駅に戻る。


「ピピッ」


 時間的に言えば、そう長い時間入っていなかったのだが、見慣れた駅へと戻ってくると「戻れた~」と安心する。

 暗闇の中を歩き回るのは意外と緊張し、なかなかに疲れるものだった様だ。




 家に戻ると、いの一番に風呂に入った。小一時間で4万円を稼ぎ出した充実感を感じながら、心と体をリラックスさせる。


 風呂から上がると、父親の世話をして、すぐに寝床に入った。そして眠る前にママゾンを漁る。今日、不便に感じたライトを見ておこうと思ったのだ。


 一言にライトと言っても色々とある様で、首にかけるネックライトとか、ジョギングする時に胴体につけるランニングライト。広範囲を照らす作業灯、ランタン。


 とりあえず目に付いたものは全てポチった。

 ライト系、計10個で27,000円。先行投資だ。

 今日は怪我もせずに、ダンジョンで簡単に稼いでしまったもんだから、財布の紐がガバガバになってるみたい。




 2日後。

 仕事から帰り、家の事をやっているとママゾンから荷物が届いた。

 今日の夜と明日の夜は仕事が休みなので、これでゆっくりと探索が出来る事になるだろう。


 早速届いた荷物を開梱し、箱に詰め込まれていた物を裸にしていく。

 最近のライトはとても軽く、おもちゃの様に小さかった。一昔前だとヘッドライトに単三電池が4本とか必要で、電池がクソ重くて使い勝手が悪かったもんなのだが。

 

 ライトの進化に驚きつつ、付ける位置を決め細工をして行く。

 頭にはヘッドライトを3個、横並びにして照らす範囲を広げる様にする。

 首にはネックライトを2個、重なり合わないようにクリップで固定しておく。

 ウエストポーチのベルトに作業灯を2個、左右に付けて広範囲を照らせるようにする。

 リュックにはランタンを1個。軽いのでキーホルダーのように気にならない。

 胴体にはランニングライトを2個。たすき掛けの様にして体の左右に付ける。

 最後は手持ちで頑丈な物をひとつ。電池を入れて使えるようにしておく。


 これだけライト類を持っていけば大丈夫だろう。

 今は昼間で部屋が明るいからライトの威力の程は確認できないけど、これだけあれば十分な明るさが確保出来ると思う。

 万が一これでもダンジョンの中を暗く感じてしまったら、暗視ゴーグルに手を出すしかないだろう。7万円からと言う高額商品なので、今回のライト達で何とかなるのを祈るばかりだ。



 なんだかんだと言いながらも、着々とダンジョン装備が整いつつある。

 近々の目標はポーション。父親の床ずれを治してあげたい。それから余裕があればデイサービスを週2のところを週3にして2日に1回ぐらいは風呂に入れてあげたい。


 とりあえず、出来る事から小さくコツコツとやっていこうと思う。




 昼間に睡眠をとり、19時になると起き出して、父親の世話をする。

 それから、夜なのだが敬太的には朝ご飯を食べる。

 夜勤の仕事は休みだがダンジョンに探索に行くので、いつもの様に支度をし、身に着けられる装備品は身に着け、増えたライト類をリュックに詰め込み、仕事の時よりはゆっくりとしてから家を出た。


 駅へと向かう途中で、仕事の時も毎日寄っているスーパーに行き、いつもの様に半額弁当と飲み物を多めに買っておくのも忘れない。



 リュックにウエストポーチ、それからバットケースを肩に掛け、ヘルメットを小脇に抱える。手にはスーパーの袋を持ち、改札へと向かうには大荷物なおじさんがいた。


 はい、敬太です。


「ピピッ」


 今回も問題無く改札の部屋に到着した。

 すぐにフリーマーケットのように荷物を広げると、ライトや装備品をそそくさと装着していく。


 買ってきた弁当と余分な飲み物は部屋に置いたまま、前回に比べれば、随分と軽い足取りで扉の外に出ると、そこでライトの最終調整を行う。


 ヘッドライト3個良し。

 ネックライト2個良し。

 ランニングライト2個良し。

 ウエストポーチに付けた作業灯、左右共に良し。

 リュックに付けたランタン良し。

 最後に懐中電灯、もといハンディライト。最強、軍仕様の物をスイッチをオン!


「まぶし~い!」


 凄い、あんなに暗かったダンジョン内が嘘のように明るくなった。

 作業灯が照らし出す光の範囲の広さ、軍用ハンディライトの光が届く距離。これらは驚きものだった。

 これだけ明るいとダンジョン内の景色が違って見え、前回とは違う所にいる様な気さえしてきてしまう。

 多少、身に着けているライト達が嵩張かさばる気がしないでもないが、この明るさと安心感を引き換えなら安いもんだろう。



 とりあえず今日は、扉を背に右手側にあった階段を攻めようと決めていた。

 迷子にならないように右手の壁を目印に、壁沿いに移動して行く。

 ライト達が地面まで明るく照らしてくれるので、足元が良く見え、とても歩きやすい。街中を歩く様に、普通の早さで歩く事が出来てしまう。


 圧倒的な明るさを堪能していると、すぐに階段の所までやって来ていた。

 右手に軍用ハンディライトを持ち、階段の先を照らし上って行く。


 しっかりとした足取りで、前回下から見えていた踊り場まで上ってくると、例の大きな羽音が階段の先から聞こえてきた。


 前回の様に、音がする方向をいちいちライトで探る様な事をしなくても、増強したライト達のおかげで、振り返るだけでニードルビーの姿を捉える事が出来ていた。


 明るくなった環境で見るニードルビーの動きは、思っていたよりも遅かった。鳩ぐらいの大きな体に比べ、心許ない控えめな小さな羽。本当にギリギリで飛んでいるんだなと思わせる移動速度で、フワフワと空中を漂っている様に見える。


「よいしょ!」


 キンと甲高く金属バットが音を鳴らすと、ニードルビーは地面でひっくり返り、紫黒の煙を吐き出し始める。

 ほぼ空中に止まっている様な物ならば、素人だって簡単に当てることが出来るのだ。


 何であんなのに刺されたのか。逆にあの動きでどうやって刺してきたのか不思議でしょうがなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る