第7話 帰宅
とりあえず、この部屋から脱出をするのにキーになりそうなススイカを【鑑定】で見てみる事にする。
手に持つススイカに意識を向けて【鑑定】するぞと集中する。
『鑑定』
ススイカ(改)
魔改造されダンジョンに入る為の通行手形としての役割も果たしている
もちろん従来のICカードとしての機能も損なわれていないのでご安心を
(なるほど。こう言う感じになるのか)
実際に、先程獲得した【鑑定】を使ってみると、想像通りの効果が見られたので、他にも気になっていた物を見てみる事にする。
『鑑定』
改札(改)
魔改造されダンジョンに入る為のゲートとしての役割も付いている
ゲート稼働後は認識阻害をさせる機能が付いているので
人が突然消えたり、現れたりを認識出来ないようになっている
もちろん従来の改札としての機能も損なわれていないのでご安心を
『鑑定』
ダンジョン端末機ヨシオ
一見するとATMのようだが実はレベルアップやスキル授与などなど
ダンジョン生活を向上させる為に大いに役に立つ優れもの
一家に一台ダンジョン端末機はいかがでしょうか
ススイカ(改)に改札にヨシオ・・・。
思っていたよりも、色々な情報を知る事が出来た。
今の状況から考えると、拾ったススイカでダンジョンなる場所に迷い込んでしまった感じなのだろう。
拾った物をネコババしようとした罰なんだろうか、ひどい怪我もしてしまったし、悪い事はするもんじゃない。
他にもこの部屋を脱出するヒントは無いかと、ATMもとい、ダンジョン端末機のパネルを覗き込むが、画面には何も映らなくなり、これ以上の情報は引き出せない様だった。
なので今度は、起きたら電源が入っていた改札まで移動し、とりあえずススイカ(改)をかざしてみた。
すると「ピピッ」っと電子音が鳴り、一瞬、目が回りそうになったかと思うと、昨晩ススイカを使った最寄り駅の改札に戻ってきていた。
しかし、それはあまりにも一瞬の出来事だった為、突然の変化に頭が追い付かず、しばらくの間棒立ちになってしまう。
心を落ち着かせ、現状把握に努め出すと、辺りからは喧騒が聞こえ始め、券売機やコインロッカーが見え、いつもの駅の景色が広がっていた。
「あぁ・・・戻ったぞ・・・戻った・・・」
ここでやっと間違いなく、いつもの日常へと戻ってこれた事を確信し、半泣きになりながらも、忌まわしい改札から逃げる様にして離れていった。
駅の構内をゾンビのように足を引きずり歩く。
身なりは爆発でもあったかのようにボロボロ。
破れた服の隙間から地肌が見えてしまっている所は、固まった血がドス黒く変色していて、血のりでは出せないリアリティーがあった。
時刻は午前7時26分。昨日は忘年会だったので今日は12月30日になるはずだ。年の瀬の少し朝早い時間だとは言え、ひとりハロウィンはあまりにも目立ってしまう。すれ違う人々は奇異の目を向けて来るし、中にはスマホを向けてくる奴もいるが、気にしたら負けだ。
日常に戻ってこれた事に安心し、ぼんやりと歩いていると、ついつい、いつものクセで駐輪場の方向に向かってしまっていた。だが、果たしてこの怪我をしている足で自転車を漕ぐ事が出来るのだろうか?という疑問が生まれて立ち止まる。
自転車に乗り、バランスを崩して、おっとっとパックリって映像が簡単に想像出来てしまう。ここは無理せず回れ右をしてバス乗り場へと足を向ける事にしよう。
バスの発着場があるロータリーに着き、時刻表を確認すると、次のバスは7時58分発の様だ。今は7時42分なので少し待つ事になる。
周りを見て、後ろのベンチが空いているのを見つけたので座って待つ事にした。
冬の朝は震える程寒く、ボロボロになっている上着の通気性が憎らしい。
寒いのでポケットに手を入れるとグシャリと何かが手に当たってくる。一瞬何かと考えたが、すぐに答えは出た。ダンジョンとやらで拾ったお金だ。
お金をポケットから取り出し、明るい場所で改めて見てみると、所々に血が付いていて汚れてしまっていた。
しかし、これって使える本物のお金なのだろうか?・・・。
暗闇の中で拾った時から思っていたのだ。あんな得体の知れない所に、お金が落ちている事があるんだろうか?それも、8万円。結構大金だ。質の悪いいたずらだとしか思えなかった。
これがもし偽札だとしたら、使ってしまった時の罪は最上級に重い。
簡単に人生を棒に振る事になるだろう。
なので、おいそれと使える物じゃなかった。
だけれども・・・。
はたしてコレにも【鑑定】は通用するのか?さっそく見てみた。
『鑑定』
日本銀行券
本物です。使えますよ
なんという・・・これは嬉しい。
ついでに、お金と一緒にポケットに入っていた、リップクリーム程の大きさの小瓶も見てみる。
『鑑定』
ポーション
回復(小)
飲み薬です。
これ、お薬だったんだ。回復って事だから「青まむし」とか「ユンゲル」とか「レッドフルー」みたいなものだろうか。
丁度、昨晩の激闘で疲れ果てていたので、疑いもせず、一気に小瓶の中身を飲み干した。
味は甘いシロップ薬みたいな感じで嫌いじゃないのだが・・・熱い。
度数が高いお酒を飲んだ時の様に、喉そして食道から胃にかけて通って行くのが分かるぐらいに熱い。
「くぅぅううううう」
っと、しばらく声を出し、1人で悶えた。
気が付くとロータリーにバスが入ってきて、バス停の前にやって来ていた。
「プシー」っと独特な音を鳴らしバスの扉が開くと、並んでいた人達が乗り込んで行く。
敬太も遅れまいとベンチから立ち上がると、スッと体が異様に軽かった。そして2~3歩前に進むと、足に痛みが無いのに気が付いた。
どうしたのだろうと、太ももにある傷に手を触れようとしてみたが、そこには傷が無くなっており、指先は滑らかになっている肌を撫でるだけだった。
あれ?っと思い作業ズボンにあいてしまっている穴から自分の太ももを
ならばと、一番酷かったふくらはぎをズボンを捲り上げ見てみた。だが、こちらも同じで、傷はうっすらと赤い線を残し消え去っていた。
そうやって敬太が自分の体を撫で回している間に、待っていたはずのバスは行ってしまったが、独りバス停にとり残されても、まだ自分の体を撫で回していた。
ようやく正気に戻ると、ベンチに戻り腕を組み考える。
あれは夢だったのか?怪我などしていなかったのか?しかしポケットにある一万円札がそれらを否定している。
しばらくの間、うんうんと独りで唸っていたが、答えなど出るはずもなく、いい加減諦める事にした。分からない物は分からない。
敬太はベンチから立ち上がると颯爽と歩き、駐輪場から自転車を引っ張り出して、家へと帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます