7.終末は主にポエムを書いています
一日目【言葉を失った】
「二度とその面見せんなよこのクソガキども! 解散! 帰れ!」
高校二年生。香風ノノは四限授業担当であり、担任の細川の中指を立てたその叫びを聞いて事態の深刻さを理解した。
それは一週間後に隕石が落ちて日本とアジア大陸の一部が海に飲まれてしまうという話。
半信半疑の生徒たちは、逃げるように教室を出ていく細川の様子を見てパニックに陥った。親に電話・無意味に抱き合う・うおおおと叫びだす・泣きだす。ノノは一応親に電話を入れたが出なかった。
名残惜しくその場に残る生徒たちを横目に、彼女は教室を出ていく。まだ皆冷静でいられるのは、既に国によって海外への移民、海外ではその受け入れの準備が始まっているという情報があるからだろう。
思い出の場所がなくなるだけで、私たちは生きていられるのだ。
だからこそ、ノノはこの終末気分を少しでも味わっていたかった。ノスタルジーにひたり、やりたいことをやってやる。そんな意気込みを持っている。
花の乙女、香風ノノはポエマーだ。詩でも歌でもなく短文の中に思いを込める。誰にも見られることはなく、彼女は中学時代から書き続けている。
ノノにとってこれはチャンスだったのだ。終末気分を味わい、自己を満たせる作品を書く。そして、終わりゆく日本に置いてゆき、今まで書き溜めた思いが、この土地と共に、思い出の場所と共に死んでいく。想像するだけで、描きたい思いが止まなかった。
家に帰り、母が作ってくれた弁当を食べる。料理が苦手な母の弁当は冷凍食品が多いが、チョイスは悪くなく旨かった。
口に運びながら、この世の終わりのような。いや、この世の終わりを語るニュースをノノは見ている。どうやら、テレビ局の人たちは最後までこの国に残り、記録を残そうとしているようだ。
移民活動は五日間で行われ、落下二日前からは移動時に災害に巻き込まれる可能性があり、日本は閉鎖されるという。
なら急いだほうがいいのかな。と不安を募らせたノノは一応もう一度親に電話することにした。
今度はちゃんと繋がった。しかし、出たのは母ではなかった。
「ノノちゃん? あなた、ノノちゃんでしょ? どうしよう、貴方のお母さん……チエリさんが」
「? どうしたんですか。貴方誰ですか」
「ごめんなさい。ごめんなさい。私、甲斐です。お母さんの同僚。それでね、落ち着いてきいて欲しいの」
「……甲斐さんが落ち着いてください。どうしたんですか? お母さんは?」
嫌な汗が流れる。ふとテレビの方に目を向けると、パニックによって各地で事故や暴行・犯罪が起こり始めているというものだった。
中継のキャスターに向かって石を投げつける男の人が写るっていたりもした。
――ここが日本? どこ、ここ。
「チエリさん、動かないの。私の目の前で、変な男に刺されて。救急車呼んでも来ないの。もう、一時間も経つの。私どうしたら」
「……え?」
「ごめんなさい、ノノちゃん。ごめんなさい。私も、息子がいるの。今日迎えに来てくれるの。これ以上待てないの。ごめんなさい」
唐突に切れた。何度もかけ直したが、繋がらない。代わりにかかってきたのは、見知らぬ電話番号。その正体は警察だった。
「香風ノノさんだね。今家? 学校?」
「……家です」
「今そこにお母さんは? 誰か大人の人いる?」
優しい声音だが、何処かイラつきが感じられる威圧的な言い方だった。焦っているようにも見えた。彼らも同じ時間に生きて、終末に追われているのだ。それなのに、テレビの人達みたいに働いている。
「いないです。私一人」
「お母さんの電話、繋がらないけど、今どうしているかわかる?」
「お母さんは……死んだっぽいです」
自分で言ってみたものの実感がわかない。でも、電話の向こうの男は憂いを帯びた憐みのようなため息を吐いた。その後の声音には優しさしか感じられなかった。それがノノには痛々しくて、どうしようもない。
「ごめんね。こっちも時間がないんだ。だけど、自棄にならないで。君は僕が迎えにいく。絶対に」
「どういう……ことなんでしょうか」
「君のお父さんも、今お亡くなりになったんだ。事故だ。もう、どこにも法が効いていない。道路では法定速度を無視して車たちが走っている。事故がたくさんの場所で起こっている。僕たちは、渋滞になった人々を誘導することしかできないんだ。君のお父さんに、何もできないんだ」
それでも、彼はノノに電話をしてくれた。感謝をしたいのに、言葉が出なかった。
「大丈夫。四日……いや、三日後だ。必ず、君のところに行くから。自暴自棄になってはだめだ。親御さんは絶対それを望んでいない。いいね」
「……大丈夫です。避難は友達の家に相談します。すぐに出ていくみたいなのでそちらに同行することに」
「……そうか。何かあったらまたこの番号に電話をしてくれ。一応、落ち着いたら僕からも電話させてもらう。何度も言うが、君は生きるべきだ」
「はい」
今度は自分から。携帯を切った。
自分の部屋まで向かい、ベッドの上で横になる。終末週(エンドウィーク)と呼ばれだしたその一週間の初日を彼女は無で過ごした。
誰かを待つように、起こしてくれるのを待つように。
二日目【失われた魔法】
朝は最悪だ。人は幾度の辛酸に対し段階を踏んで乗り越えていく。しかし、朝の真っ白な脳は、一気に忘れていた物事を詰め込んでくる。ナーバスな朝に襲い掛かる数々の苦しみをノノはため息で一蹴した。
もう寝れない。お腹もすいたし。どうにかして、この国から出ないと。
食べ物は困らない。料理が苦手な母はやる気がないときのために、レトルト食品を買い込んでいた。弁当用の冷凍食品もある。
食パンをトースターに入れ、冷凍食品のハンバーグを温める。できたものをパンで挟んでサンドイッチにして食べた。
食った感は強いが、特別おいしいわけでもない。
ニュースをつけたノノは、変り果てたこの国の現状を見た。レポーターはヘルメットをかぶっており、当たり前のように周りからは煙が上がっていた。そこらで、車が乗り捨てられている。
特別荒れた地域であり、そこの住民たちは残ることを選択しているという。レポーターは彼らがなぜ残る選択をしたのかを取材しようとしているようだった。
「お前たちは愛国心がない。この地が滅びるなら、我らも滅びるべきなのだ」
「私はねぇ、こんな時だから言えるんだけど。昨日慌てていてね。子供を一人、ひき殺して逃げてしまったんだよ。もう、いいんだ。のこのこと生きていられない」
ノノは期待していた。自分と同じような境遇で残ることを選択した人はいないかと。その人の言葉が自分を変えてくれるのではと。しかし、そんな人は出てこなかった。
「本当に危ない奴らは夜に出ますね。この時間に出ている人たちは空き巣狙いや、単に残ることを選択した人たちくらいじゃないですか」
ノノがテレビを消そうとした瞬間、カメラに映った男に手を止めてしまう。その男は彼女の知るある男と同じ雰囲気を持っていた。
「僕ですか? はははっ。僕はただの引きこもりですよ。成人はしてますよ? ……はい、ニートですね。親にも置いていかれまして、最後に散歩でもしようかなって。でも、僕からしたらこの世界の方が生きやすいんですよね。常識に守られた人は正直怖いです。無法だからこそ、そういう楽しみ方もあるんだと思いますよ」
やたらハキハキと喋り、見るからに無害な彼にカメラはついて行く。どうやらもともと営業の仕事をしていたが、ひどい職場でのいじめにより退職。両親から、罵倒されながら生きていうちに外に出られなくなったという。
「僕みたいに今だからこそ、人生をやり直せる人はいると思うんですよ。それこそ、引きこもっていたような人たち」
ノノは、体が疼くのを感じていた。両親がいなくなったことにより、人肌が恋しくなっていた彼女は心の片隅で一人の幼馴染を思い浮かべていたのだ。
彼に会いたいと強く願う反面、彼に会うことが、縋ることが両親の死を受け入れることのような気がして怖かった。
でも、テレビに映った男の言葉で、違う目的を手にした。幼馴染、花咲キクノはもう一度人生をやり直せるのではないだろうか。
心臓の鼓動が早まる。彼との終末生活を妄想してしまった自分にノノはまだあの頃の淡い感情を見つける。
――もし、キクノが人生をやり直すのなら。その傍に置いてくれるなら。私は、終わりを受け入れるかもしれない。
花の乙女はシャッター街となった商店街を走り抜ける。ネコ一匹しか見ないほど、人の気配がない。もしかしたら、彼ももういないかもしれない。
元電気屋の店前の隣に二階へと続く階段がある。細い階段をノノは駆け上がると、その先のドアを乱暴に叩いた。
「キクノ! いる?」
すぐに慌てたような足跡が帰ってくる。その音に一気に安心感を覚えてしまう。すると、ため込んでいた悲しみや辛さが押し寄せてくる。吐き出させようと込み上げてくる。
ドアが開いて彼の顔を確認した瞬間。全てが壊れた。膝をついて泣き出してしまう。
「香風。お前、何でまだここにいるんだよ」
両肩を掴んで大声を上げたキクノだが、ノノの様子を見て発したかった幾重もの言葉を飲み込んだ。
「とりあえず、入れよ。なんか飲む?」
「うん」
前会ったときは激しく拒絶され、一発殴られた。でも、今の彼はそれよりも前のように優しく落ち着いている。ノノはそれが嬉しかった。それが、ノノにとってこの絶望的な日常の小さな希望となった。
「香風は、残るのか?」
ココアを差し出してきたキクノはまず最初にそれを聞いてきた。自身にはコーヒーを淹れている。自分もコーヒーでよかったのにと、そんな彼と自分の止まった時間を感じ、ノノは落ち着きを少しだけ取り戻した。
「わからない」
「わからない? 親はどうしたんだ」
それを聞かれた瞬間。鎮まってていたものがまたうごめきだす。また涙が出てきて、ノノは答えられなくなってしまう。聞かれるのはわかっていたはずなのに。
「置いていかれたってわけじゃないよな。お前んとこは、どちらかというと過保護だったし。となると……」
「うん、死んじゃったの」
それだけは、彼に言わせるわけにはいかなかった。自分で伝え、自分で認めるべきことだ。だから、声を絞り出した。聞いたキクノはぎこちなく手を差し出したが、撫でることも触れることもなく引っ込めた。
「じゃあ、俺ら同じだな」
「そうだね」
それからしばらくの間沈黙は続いた。冷めたココアをちまちま飲むノノはだいぶ落ち着きを取り戻していたが、まだ肩は震えている。
キクノがコーヒーを一気に飲み干して、ゆっくりと机に置いた。一瞬、ノノと目を合わせて見つめ合い、視線を逸らして彼はぎこちなく言葉を紡いだ。
「なあ、じゃあさ。一緒に死なね?」
言った瞬間彼は後悔したように慌てだし、狼狽していた。それに対しノノは目を丸めて言葉を飲み込む。
「ごめん」と謝ろうとしたキクノの腕をノノは掴んだ。流れる涙はさっきみたいな冷えたものじゃなく温かみがあった。
「うん。いいよ」
数秒固まっていたキクノだがその答えに満足したように頷く。『本当にいいのか』『やっぱり聞かなかったことにして欲しい』そう言った言葉はすぐに捨てた。
「ありがとう。だったらさ、ただ死ぬだけじゃ物足りない。そう思わないか」
ノノは、そういって手を握り返してきたキクノの顔に、ニュースでみた残ることを選択し、街を徘徊している人々をみた。
「最後にとびっきりの犯罪をしようと思っているんだ」
最高の終末になりそうだ。その予感がひしひしと二人を奮わせた。
なおも止まらない涙はあったが、笑顔を交えてノノはキクノの計画を聞いた。
「本当に出来るの?」
「簡単なものなら、できる。どう、協力してくれる?」
「……うん、少し恥ずかしいけど。どうせ死ぬんだもんね。でもさ、一つ条件があるんだけど」
「なに?」
「あともう少しだけ、書きたいの。待ってくれる?」
「それなら大丈夫だ。ギリギリまで待てる。終末初日でも。だから、香風は最高のポエムを作ればいいよ」
「……ハッキリ言われると恥ずかしいな」
「全世界にさらされるんだ。こんなんで恥ずかしがったら、成仏できなくなるかもな」
計画について色々話し合ったあと、ノノはキクノに帰ることを告げた。キクノはとどめようとしたが、一人の方が書けるからと、彼女は強引に出ていった。
強引な様子に、キクノは首を傾げたが、パソコンの画面を見てすぐに理由に気づいた。
「そうか、飯の時間か……」
香風家には、ある決まりがあった。簡単なようで学生と共働きの両親には厳しい掟。しかし、今の今までそれを成し遂げてきたのだから、それだけ家族としての愛があったのだろう。
『晩飯は家族全員でそろって食べる』
米を炊いていなかったから、ノノはコンビニで弁当を買って帰った。最寄りのコンビニはなぜかギターを持った店の制服姿のおばちゃんが店番をしていて、普通にお金を払って持ち帰った。
暗い部屋の電気をつけるその動作だけで、孤独が襲ってくる。キクノといた時には忘れられたことが、ジワリと浮き上がってくる。
でも、ノノはそれと対面するために帰ってきた。この辛さ。この苦しみ。それが、大切だった。
一人で「いただきます」をして、弁当を口につける。しょっぱかった。涙が止まらなかった。今日、泣いてばっかりだ。
「おいしくないよ。全然。おいしくない……」
こんなに味気ないものだっただろうか。その時、ノノは母が言っていた一つの言葉を思い出した。
『お母さん。なんか、これ前よりもおいしくなってない? バージョンアップしたのかな? 別に変ってないみたいなんだけど』
『当たり前じゃない。ちょっとした手心がおいしくするのよ』
『なに? 隠し味とか入れたの? すごい、テレビの料理人みたいじゃん』
『ううん。それよりもおいしくなる、とっておきの魔法があるのよ』
結局その魔法の正体は教えてくれなかった。でも、今ならわかる。ノノは、食べ終えた器をごみ箱に捨て、すぐに自室へと向かった。そして、携帯のメモアプリの中から、『ポエムフォルダ』を開き新規ページに文字を打ち込み始めた。
綴ったその言葉を抱いて、ひとしきり泣いた彼女は小さな子供のように、泣き疲れてこのエンドウィーク二日目を終えたのだった。
★魔法の正体は好きな人と一緒にいる温もりだった。コンビニの弁当でもレトルトでもおいしかった。今はそうでもない。
――また魔法を掛けてよ。私を、一人にしないでよ。
空腹の狼みたいに。私はもう、吠える気力すら残っていないんだ。
三日目【責任と罪の重み】
二日もあれば世界は変わる。既に、外の世界は無秩序を受け入れつつあった。テレビでは、ニュースの間に『貴方が生きることでこの世界は大きく変わる』『諦めることはかっこ悪い。皆で生きよう日本』といったようなテーマで、残る人々に訴えかけるような内容の映像が流れた。避難の準備方法や、この地域の最寄りの移民船の船乗り場。その、一日の出発時間をローカル番組では度々挟んできた。
それでも、大きく変わった日本という無法国家は元気に死ぬ準備をしているように見えた。テレビの前でラジオ体操(香風アレンジ)を行っている花の乙女、香風ノノも同じであった。
早寝、早起き、朝ご飯に加え、軽めの運動。健康会の最強コンボを決めた彼女は、死を待つには不釣り合いな鼻歌と共に家を出た。
向かうは終末を共に過ごす幼馴染の花咲キクノのもとだ。
途中で、作業をしているキクノのために甘いものと栄養剤でも買おうとコンビニへと寄っていく。
「らしゃーせ」
ジャン。
「こんにちわー」
ジャジャン。
ノノの最寄りのコンビニは、秩序無いこの日本の中でも絶滅危惧種。店員のいるコンビニだった。昨日来た時よりも、商品は確実に減っているが荒らされていない。
歳は四十か三十後半。ハキハキと人当たりはいいが、裏では腹黒そうなその女性は、なぜかギターを弾きながら、店番をしていた。
「あんた、昨日も来たわねぇ。しかも朝っぱらからこんなものかって。まぁ、甘いものを好きな時間に食べたいってのはわかるわ」
会計するにあたって話しかけてきた彼女に対して、ノノもハッキリとモノを言って受け答えする。いつの間にか彼女の横に座って世間話へと発展していた。
「そうなのよね。昨日の夜はオールって張り切っていたんだけどね。結局寝ちゃったのよ。でも、店のものは何も盗られたりしてなかったわ。思っていた以上に、この街はあれていないみたいね。あんたみたいな若い娘が一人で出歩けるんだもの」
「確かに、というか人と会うこともないんですよね。皆出ていったんでしょうか?」
「とおもうでしょ? でも結構お客さん来るのよ。皆、何処かに隠れているの。探せばゴキブリみたいに湧いてくるわよー」
人がゴキブリみたいにいたるところから湧く姿を想像して、ノノは少しだけ体を震わせる。そのリアクションに満足したように女性は話を続ける。
「でも、一人も盗みに来ないのは意外だったわ。お客としても来ないなんて逆に怖いし」
「こんな時にこの場所で一人でいたら、誰だって怖いですよ。何で、おばさんはまだ残っているんですか?」
「おばさんじゃないわよ。サチコよ、サチコ」
おばさんだ! 名前がおばさんだ! ノノは心の中で叫んだ。
「まぁね。責任みたいなものよ。一応ここの店長なの。それだけだったんなら、こんなことしないんだけどね。ちょっとウチは特殊」
語りだしたサチコは更に老けたような表情を作る。
「ウチはね、なぜか求人を出しても夜の部だけは全く集まらなかったのよ。でも、私の話の合う人たちって朝から夜までだったから、私もその時間だけしか働かなくて、少ない人数に無理やり夜の部の仕事を押し付けていたの」
おもむろに彼女はギターを弾き始めて、雰囲気を作り始める。悲哀に満ちたような音色にノノは騙されそうになる。
「ある日、夜バイトの子が一人倒れちゃってね。そしたら、他の子たちの不満も爆発しちゃったの。何人辞めても、私は逃げられないし。辞める人が増えるたび、求人出して集まるまでその枠を少ない人数で補う。集まっても人がいないのに、研修しないといけない。管理ができてないって上の人からも怒られて。もう、ボロボロだったわ」
ギターを止めて、ここでといったとこでサチコは「そんなときに隕石の話がでたの」と目を伏せて言う。
「おかげで、みんなこの地獄から解放されたわ。でも、私はどうしてもラッキーで逃げることはできなかった。無理をさせた分。せめてもの償いをしたかったの。ただの自己満足」
話し終えたサチコは年相応に柔和な笑顔を作りノノの手を取った。
「でも実際はね。こんな狂った世界で生きるには何か縛ってくれるものが必要なのさ。私にはたまたまこの場所と責任があっただけ。普通に暮らしていても、海外にはいかないわ。今更人生をやり直すのも一苦労だし、絶対に差別とかも問題になるじゃない? それなら文字通り死ぬ方がまし」
ジャジャンとギターを鳴らして終わりを告げる、ノノは、呆けたような顔を見せ、サチコは笑って肩を叩いた。
「人肌は恋しいのよ。聞いてくれてありがとう」
「よくわからないですけど、私も聞けて良かったって思います」
「いいこね」と微笑んだサチコはタダで商品をくれた。
帰り際、思い出したようにノノは振り返った。
「そういえば、何でギター?」
「若いころの夢だったのよ。あんたよりもイケイケだったんだから。もう未来はないんだから、過去を楽しまなきゃ」
ジャジャン。
それを聞いたノノは晴れやかに気分になった反面。少しだけの覚悟を抱いた。過去と向き合うべき日は遠くない。
丁度、そのタイミングでやつれた女性が一人店に入ってきて、ノノはすれ違うように出ていった。一瞬背筋が凍るように寒さを感じ。急いで、キクノのもとに向かった。彼の部屋に入る前にノノは、サチコの話を聞いて感じたことを言葉にして綴った。
エンドウィーク三日目。彼女は自分が狂った世界で生きていることへの奇跡を感じたのだった。
★彼女は言っていた。償いという枷があるから、この終わりを生きていられると。
納得したんだ。私も今やろうとしている罪があるから、この重さを背負っているから。今日を進んでいけているんだって。だから、悲しい今も過去もきっと重さにして、明日を生きれるはずなんだ。
四日目・五日目【雨の記憶は彼らの一部】
隕石が届く前に、日本は既に終わっていた。もはやこの場所は国ではない。小さなコミュニティーが点々と各地に存在し、ネットやテレビがあれど、ほぼ繋がりのないの世界となっている。
隣の芝生の青さなんて気にしていたら死んでしまう。
だからこそ、各地で起こった奇跡や怪奇の数々に証拠は出ない。小さなグループまたは一個人の身に起こったことなのだから。
後に生き残った元日本人のジャーナリスト武井シゲルはエンドウィークの間に残された数々の記事からその怪奇を掘り出し、本を出したが笑い話でとどまった。
『エンドウィークをループした少年』『なぜか日本に戻ってしまう移民船』『土地神の降臨』『海外に逃げた鬼の一族』そのほか数々の幽霊目撃情報。
一言で言うと、その手の怪奇が好きな人たちにとって、この語り手のいない伝説『エンドウィーク』はネタの宝庫だった。後にシトラス・C・パーソンが書いた小説の中では日本の終末、隕石そのものが怪奇により発生したものとして扱われている。このようなエンドウィークの二次創作は文学の一時代を築くこととなったがそれは別の話だ。
さて、舞台は戻りエンドウィーク四日目の日本。今日を懸命に生きる花の乙女、香風ノノは最寄りのコンビニの前で立ち止まっていた。
「ノノちゃんどうしたんだい? 入ってこないの……えっ?」
店前で立ち止まるノノを見つけたサチコはゆっくりとした足取りで外に出てきたが、それを見た言葉を失った。
「……やっぱり貴方たち、僕が見えているんですね」
「「ぎゃぁぁぁぁあぁあぁ」」
ノノとサチコはお互いに抱き合い、その場にぺたりと座り込んだ。二人ともその場から動けない。
「落ち着いてください。私は悪い幽霊じゃありません!」
「じ、自覚あるんだ。幽霊って」
パニックで変な相槌を打ってしまったノノだが、それが功を成してか少しだけ冷静さを取り戻せた。
目の前にいるのはまさしく幽霊。半透明で、全裸。だけど全身タイツを履いたように、真っ白いだけで特徴も何もない身体。顔はパーツの大きさがちぐはぐで、アシンメトリー。恐怖心を煽ることに全力を込めたスタイルだ。
「とりあえず、このくらい離れているから。落ち着くまで待つから。僕も自分に慣れるまで時間がかかったからわかるよ。怖いよね」
それから、数十分してやっとノノは動けるくらいに回復していた。サチコは気を失いそのまま眠ってる。疲れているのだろうと察したノノは、とりあえずサチコと抱えて幽霊と共に店に入ると、店番ついでに幽霊の話を聞くことにした。
極力目には入れたくなかったが、店のところどころにある鏡のせいで嫌でも存在を意識してしまう。
「夜中だったら、見えることは多いみたいなんだけどね。こんな朝っぱらからも見られるなんて今までなかったな。しかも、結構ハッキリとみえているんだろ?」
「はい、見えます。本当に幽霊なんですか?」
「うん、死んだときの記憶はハッキリとあるから。雨の日だった。この店の前で、付き合っていた彼女と喧嘩して、逃げた彼女を追って道路に飛び出したら車に轢かれてしまったんだよ。色んな人に迷惑かけてしまった」
「……もしかして、それからずっと店の前に?」
「まあね、その時持っていたビニール傘に憑りついちゃって。あの、傘立てに刺さっている」
ノノはそういうことかとため息をついた。サチコが寝ていてもコンビニに誰も来なかったのは。そもそも、夜の部のバイトが集まらなかったのは、この幽霊のせいなのだろう。
「君さ、もうすぐ死ぬんだろ? 流石に、日本が終わることぐらいは知っているからね。だから、僕が見えるようになったんじゃないかな」
「あぁ、ありえそうですね」
「もし、君に時間があるなら。協力して欲しいんだ」
「彼女さんに会いたいんですか?」
「……あぁ。彼女も結構このコンビニに来ている。だから、まだ残っているんだ。僕のことを引きずって残っているなら、考えを変えてあげたい」
「そうですね。日本が閉鎖されるのは明日ですし、時間もないです」
「そうなのか? じゃあ、急ごう。傘を持ってくれれば僕も移動できる。彼女の家へ向かわせてくれ」
ノノは、隣で横になっているサチコの方を見て、ため息を吐く。
「協力してあげますけど、一時間くらい後ですね」
「はぁ?」
「大元たどれば、この人は貴方のせいで疲れているんですよ」
サチコが起きた後、約束通りノノは傘を持って幽霊の元カノのところに向かうことにした。
「あれ? ノノちゃんその傘持っていくの?」
「この傘に、幽霊が憑りついていたらしいんですよ」
「ああ、だからね。片づけてもすぐに誰かが忘れていくと思ったら。戻ってきていたのね」
「幽霊は触れたり持ったりとかできないんだけどね。憑りついたものは少しの距離だけ動かせるんだよ。流石に彼女の家まで運ぶことはできないんだけどね」
とりあえず、ノノは心配をかけないためにキクノの家に向かい。お菓子とエナジードリンクを置いていった。作業は順調の様だった。
幽霊の彼女は、小林モエカという名前で、キクノの住んでいる商店街からそう遠くない場所に住んでるという。ノノが幽霊の名前を聞くとトシユキと名乗られる。
モエカとトシユキは駅近くのアパートの一室で同棲するほどまで仲を発展させていたのだという。
「彼女は、もはや僕の一部だったよ。阿吽と言っていいほど息もあっていた。彼女も働いていたから家事も分担。お互いゲーマーだったから休日は二人で遊んでいたよ。もはや、欠けたら人生そのものが大きく変わってしまうような存在だった」
「そして、トシユキさんは欠けてしまったわけですね」
「そうなんだよ。本当にずっと心配でさ。そしたら案の定、日本がこんなことになっても残っているし」
「多分ですけど自棄になっているわけじゃないと思うんですよ。私も自暴自棄になるな! って言われましたけど、そういう気持ちで残っているわけじゃないですし」
本当はあるかもしれないけどと、ノノは軽く視線を逸らす。
小林モエカとは、偶然にもアパートにつく前に出会ってしまった。駅前公園を突き抜けてアパートまで向かおうとした二人だったが、公園のベンチに座ってサンドイッチを食べている彼女がいたのだ。
我先にとモエカのもとに飛んでいったトシユキだが、彼女は反応を示さなかった。まるでそこに誰もいないように、モエカの視線はトシユキを貫通し、ノノに刺さった。
「こんにちは」
ノノの挨拶に対して軽く会釈をしたモエカは不思議そうに傘を見ると、苦笑いで聞いてきた。
「もしかして今日雨降るの?」
「あっ……えっと。いえ、護身用です」
見える幽霊が憑いてるからある意味本当に護身用だが、重要なのはそこではない。彼女は、完全にトシユキが見えていないのだ。
一か八かの思いで、傘を渡してみるがやはり見えることはなかった。傘を渡されたモエカは、晴天の下ビニール傘を開くとくるくると回し始めた。
「私、ビニール傘嫌いなの。まぁ、雨の日が嫌いだから傘全般嫌い。雨の日は外に出ないから、家には傘も合羽もないのよ」
自慢げにそう語る彼女の後ろで、トシユキは複雑そうな表情を見せる。「私、小林モエカ」「香風ノノです」と名乗り合う二人。この時点で、ノノはモエカの中に人恋しさがあることを察した。
「モエカさんは残るんですか?」
それは、今の日本では挨拶の一つだ。傷の舐め合いがコミュニケーション。モエカは、語る前にノノに質問を返した。ノノは両親の死により、生きていく希望を失ったと返すと彼女の態度は、たちまち柔和な仏のように受け入れる姿勢を見せた。
「大切な人が死んじゃうのは辛いよね……。私は親じゃなくて彼氏が死んだんだ。結構前だけど。彼が死んだのは私のせいだった」
「違う! 僕が悪いんだ。何も考えず飛び出した僕が」
トシユキの声はやはり届かない。
「まだ、慣れないんだよね。一人の生活が。彼と出会う前はできていた当たり前ができないの。趣味にも手が付けられないし。雨の日は怖くて外出できなかったわ。それで、仕事もクビになって、派遣の仕事をやりながら、彼と住んでいたアパートで今も暮らしている。もう、私に逃げるところなんてないの。死ぬのは怖いけど、生きるのも辛いもの」
その後互いを慰め合うように言葉を交わし、ノノはモエカと別れた。トシユキが見えない誤算があったため、一時撤退を余儀なくされたのだ。
「どうします? 今日知り合った私が何を言っても、考えは変わらないと思うんですけど」
「待ってくれ、これは僕も予想外だ」
「明日の最終便的に午後までにはどうにかしておく必要がありそうですね。勝負は朝でしょうか」
「……いや、その前だ」
トシユキの言葉を聞いてそうかとノノは手を鳴らした。トシユキは、深夜なら一応姿は見えるのだ。でも、なぜモエカさんには見えなかったんだろうとノノは首を傾げる。その答えもすぐに出た。
コンビニでトシユキと話した『死ぬのが近いから見える説』。
となると、案外彼女の決意は揺れているのかもしれない。
「まさかだよね」
丑三つ時。真っ暗な外からは、雨の音が聞こえていた。
「どうせ死ぬから、誰かがラブレターでも燃やしたのかな」
「なんですかそれ?」
「んー、おまじないみたいなもの。まぁ、いいじゃないか。どうせ傘は持っていくんだし」
「そうですね、よく考えればこうなるとモエカさんは絶対にアパートにいるでしょうし、変な人たちがうろついていることもないでしょう」
「もしもの時は、僕が守るよ。物理的に干渉はできないけど」
「最後に、こういう冒険のドキドキを味わえるのも儲けもんです」
「幽霊がいる時点でドキドキもなさそうだけどね」
そういうことで、ノノはトシユキが憑いた傘を開き懐中電灯を構えると、暗闇の世界に突撃していった。
日本が閉鎖される五日目。花の乙女は、静かな町と雨音に少しだけ興奮を覚えていた。よく考えれば、キクノが言っていた通り両親は過保護な部分があった。だから、こんな真夜中に出歩くなんてできなかった。
公園を抜けて、アパートにつく。彼女の部屋は一階にあるらしい。想像以上に綺麗な建物だった。トシユキはノノに向かって一つ助言をする。
「ノックをするときはラッシュ。言った通り僕らはゲーマーでね。家では常時ヘッドホンをしてたから、帰宅を気づかせるためにわざとうるさくしていたんだよ。苦情がきて辞めちゃったけど彼女なら気づくはずだ」
言われた通りノノはおらおらと、非力にドアにラッシュをかける。ドタドタ。という殴る音に夢中で、モエカが飛び出した瞬間全身に罪悪感が巡って急速に冷えた。
ノノの姿を確認して困惑したモエカの表情はノノと同じくらい青ざめ始める。
「きゃあああああ」
「モエカ! 僕が見えるんだね」
両肩に手を置こうとしたトシユキだが、幽霊故にすり抜けてしまう。モエカが後ろに倒れるのを支えることは死人にはできなかった。ドミノのピースのようにモエカは倒れて、白目を向けている。
「よくよく考えれば、モエカさんは雨が怖いって言っていましたよね。こんな状況で夜に死別した彼のノックが聞こえるって。かなりのホラーじゃないですか。しかも、実際に幽霊がいるんですし、倒れますよコレは」
「ははは、確かに」
笑いごとじゃない。打ちどころが悪ければ、彼女も幽霊になっていたかもしれないのにとノノは怒る。でも、トシユキは笑っていた。不気味な怪異の姿だというのに、本当に幸せそうに笑っている。
いたずらに成功したように。
「まぁ、上がって。すまないが、彼女を引っ張ってリビングまで連れてきてよ」
部屋の中は聞いていた通り荒れ果てていた。本当に何もできなくなっていたんだろう。ゲームの機器が散乱して配線でごちゃごちゃして、その上に色とりどりのゴミが散らかっている。
「私帰っていいですか? 後はおふたりで」
「どうやって帰るの? この雨で」
「……そうでしたね。この人傘持ってないのか」
大きくため息を吐いて、ごみを足でどけスペースを作り壁際に腰かける。
「多分、夜だからと言ってこうもハッキリとした幽霊は余りいないんだと思うんだよね。これは、多分。やっぱり彼女は僕の一部であり、僕は彼女の一部であったということ。故に愛の証明。彼女が僕を必要として生きてくれたから。こう強く現世にとどまれたんだと思う。でも、だからこそ、終わらせないといけないんだ。辛い選択かもしれないけど、失ったものを埋めることを恐れず、彼女には生きて欲しいんだ。幸せになって欲いしんだ。くだらないことで喧嘩したり、笑いあったりして欲しい。だからさ、ノノさん。僕は、貴方に対しても、そう思うんだ」
「大丈夫だよ」
長々と話すトシユキに相槌を打ちながら、ノノの眠気は限界に来ていた。元々早寝早起きが体に染みついているのに無理をし過ぎたのだ。
「……幸せになるために。残るんだから」
ノノは思う。トシユキは埋めてくれる何かを探してほしいとモエカに願っているが本当にそれで幸せになれるのだろうか。代わりは代わり。所詮偽物じゃないだろうか。
そう思うと、ノノの心は少しだけ安らぐ。ノノはモエカと違い失ったと思った幸せが、今ここにあるのだから。確実に幸せに向かっていけるのだから。
幸運の実感と共にノノは眠りについてしまった。
「晴れてよかった」
「ですね、旅立ちには丁度いい晴れ晴れとした空です」
「貴方は来ないの?」
「はい、やりたいことが残っているんで」
「そう。……そこに、彼はまだいるのよね?」
「ええ、いますよ。泣いていますね」
「言わないでくれよ!」
「……トシユキさん。私は、貴方のことを忘れることはできない。あの部屋を捨てたことで少しはスッキリしてるの。でも、やっぱり雨はあの日のことを思い出させるし、今日のことも蘇ると思う。でも、その時ざまあみろって思えるくらいに、貴方が願った以上に、幸せになるから。そうなれるように、ちゃんと私は生きるから」
「さようなら」と言葉を残して、彼女は迷彩柄のトラックに乗り込んだ。運転手の青年は、心配するようにノノを見下ろしたが、彼女は微笑み顔を横に振った。
何か言われる前に、逃げるように走り出す。手には、一本にビニール傘を握り。後ろには大号泣する幽霊を連れていく。
「よろしくお願いしますよ。トシユキさん」
「はははっ、まいったね。人生の最後に幽霊と働くなんて」
「任せてくれ。これまで、多くの人を遠ざけた百戦錬磨の幽霊だからね」
トシユキのビニール傘は元通り、サチコのコンビニの傘立てに置かれることになった。トシユキは別れたことで成仏できると思っていたが、そう簡単に言葉だけで人は別れられるものではないようだ。
目的を達した彼に深夜の間サチコを守る役目をノノが頼んだ。サチコも「退屈しそうにないね」と笑って、受け入れた。
ことが済み、やっと一息。ノノはコンビニでいつも通り買い物すると、キクノの家にいく前に自宅に戻り、朝飯、日課の体操、ニュース。少し狂った生活を立て直すために毎朝のルーティーンを行った。
そして、精神統一の後、携帯を取り出すと。思い思いに浮かぶ言葉たちをかき集め。画面に落としていく。彼女にとって、今日という日が死と生の分岐点であることに意味はないのだ。
生の可能性を含んだ最後の一日が簡単に過ぎていく。残り二日。エンドウィークは活況に入る。
★初めて見た幽霊は、自身の一部である想い人の幸せを願い。切り離れることで、彼女を生かした。そうじゃないと彼女は空っぽのままだった。
勝手ながら君は私の一部なんじゃないかって思う。悲しみを埋めても釣りが出るほどの存在である君と、もう一度があったのはこの国が終わるくらい。奇跡に満ちているんだ。
★雨の日の女性はある意味自分と向き合っていた。恐れていたが、遂にそれを受け入れて進み始めた。
自分も文章を通して自分と向き合っているのだろうか。彼女が雨に囚われていたように、文章に囚われているのだろうか。でも、私はこの中にいる自分が大好きだ。だから、大好きなそれだけは残してゆくのだ。
六日目【世界の生き違い】
少年は、一度死を味わった。彼の母親は、彼が外に出る前に死んでしまった。元々危険な出産で、承知の上で家族は望んだ。結局彼女は。我が子を抱くことが出来なかった。母の一部であった彼はその時一度死を味わい、そこから外に連れ出された。
父と二人暮らし。しかし、そこに愛情はなく。だからと言って父は子に何をぶつけることもなっかった。
そんな、少年には幼馴染の少女がいた。なぜか、近所の女性が、度々家にやってきて家事などをしてくれていた。その人の娘である同年代の少女は、小学校・中学校へと上がるたびに距離が近づいていく。
中学生になったころには男女意識が芽生え、そうなるといよいよ少年は少女の距離の近さに戸惑うことになる。彼女からハッキリとした恋愛感情を抱かれていた。
それでも絶妙なバランスで関係は保たれていた。しかし、中学二年の新学期が始まったその日に事件が起きた。
少女は、少年に告白した。「付き合ってほしい」と。少年は答えを出せなかった。「少しだけ待って欲しい」。
彼には、何か悪い予感があった。今は、頷く時じゃない。何もわからないまま流されるべきではないと。その予感はある意味的中してしまう。
少年の父親が逃亡したのだ。完全な行方不明ではない。手紙と、少年の引き取り手を残して。
『お前はもう立派だ。私は、お前をここまで育てた。これ以上はもう、限界なんだ』
引き取り手は父の友人であり、商店街の小さな家電屋を継いだ男だった。男には、家庭があり家もあった。少年は、その家に入れてはもらえず、家電屋の上の物置だった場所に部屋を用意してもらい、その後は金だけ供給され、それ以外は放置された。
学校にも行かず、ずっとそこにいた。そんな、少年のもとに来たのは、どこで知ったのか。告白してきた少女だった。
「ずっと探していたの」「学校行こうよ」「まだ告白の返事聞いていないんだから」と、事情も知らずにいつも通りの口調で話しかけてくる少女に。少年は訳も分からず怒りを覚えてしまった。
父親は、少年に暴力をふるうことはなかった。それなのに、少年は少女を殴ってしまった。
「お前は僕を馬鹿にしている。僕の全てをずっと馬鹿にしてきたんだ」
少女の見せた顔は言葉にできないほど絶望に満ちていた。鼻血を流しながら真剣な顔で謝罪をして彼女はゆっくりと帰っていった。
それでも、彼女の思いは変わらなかったのだろう。翌日、今までの謝罪とそれでも学校に来て欲しい、力になりたいといった内容の手紙が、ドアに差し込まれていた。
その後も手紙は不定期で差し込まれていたが、とうとう高校生になった彼女からの連絡はなくなったのだった。
日本が終わるニュースが流れた時。下の店から、慌てた様子で部屋をくれた家電屋、睦実がドアを叩いてきた。
「俺は、ぶん殴っても家族は連れていくぞ。お前も連れていきたいと思っているが、いまさら家族って言われたくはないだろ。だから、お前は自分の意思で決めろ。俺らに付いて来てもいい、別れて一人で逃げてもいい。必要なものがあれば、今日中に連絡しろ。俺らは明日出るから、そのときに下に置いていく」
キクノは結局残ることを選んだ。
世界の終わりを知った時、すぐに思いついた計画。どうやっても、伝えることができなかった言葉の数々。キクノは部屋の奥から、大量の紙の束を取り出して、パソコンに打ち込み始める。
それは、支えようとしてくれた幼馴染に送るはずだった謝罪や自分の気持ちを描いた手紙たちだった。何もない自分を救ってくれた大切な人へ隠した思い。
キクノは、この国の終わりと共にこの思いを世界中にばらまいてやろうと思った。キクノにとってこの手紙たちは自己中心的で、身勝手な醜いもの。彼は、これでウイルスを作り。世界に晒し多くの人々から非難を受けることで自分を戒めようとしていたのだ。
再び、その部屋のドアがノックされるまでは。
彼女、香風ノノと再会したとき、キクノの目にはノノの姿が違って見えた。彼女は変わらず、本当に何も変わっていないように写るのに。
変わったのは、キクノ自身だった。この引きこもりの生活の中で、自分は多くの物を失ったんだとその瞬間になって気づいた。
そして、同じ境遇となった二人は計画を始める。
キクノにとってそれは。戒めのための計画だった。しかし、キクノはこういってノノを計画に誘ったのだ。
「俺は香風に生きて欲しい。お前が死んだとしても。だから、香風の思いを、言葉を。世界中にばら撒くんだ。お前が生きた人生を俺は残したい」
そう伝えると、ノノは口を滑らせポエム趣味のことを言ってしまった。それが最後、その全てを世界中にばら撒くことになった。
消えた国の言語で書かれた文章をばら撒くウイルス。その文章を解読すると、一人の少女のポエムという最高のジョーク。
面白そうと笑いあう。二人だったが、キクノはこれに真剣だった。ノノの幸せは共に終末を過ごすだけだった。でも、彼女には生きて欲しかった。だからこその、人生最後の償いでもあった。
「俺のことなんて、全部忘れてくれてもよかったのにな」
ノノと計画を約束した翌日。キクノは駅近くの公園で、自分の書いた手紙を燃やし、その炎を見つめて呟いた。
「ねぇ、君? それ手紙っぽいけど、もしかして渡せなかったラブレターとか?」
離れた場所で、ベンチに腰掛けボーっとしていた女性が、そう声を掛けてキクノに近づいてきた。
「まぁ、そんなもん」
「うわ、ヤダ。辞めてよ。渡せなかったラブレターを燃やすと、雨が近づくの知らないの? 私、雨が嫌いなの。死ぬ前に雨が降るとか最悪なんだけど」
やっぱり変な人しか残らないんだなと、キクノは適当に返事をしていく。そんな、話聞いた事がなかったし、本当だとしたら世界は雨だらけだろうと。
「じゃあ、晴れるように頑張りますよ」
「……そう」
興味なさげに女性は去っていく。案外人が恋しかっただけかもしれないと、キクノは首を傾けた。
手紙たちは既に燃えカスと化していた。
「ねぇ、今日は泊っていい?」
「いいよ。っていうか、本当はずっとそうして欲しかったんだけどな。外はどんな感じだった?」
「なんか、前よりも愉快だよ。変な話、残ってよかったかもって思えるくらい」
花の乙女、香風ノノも流石に明日が終末当日となれば死について意識を膨らませてしまうものだ。それを払うように笑みを作る。
「もうウイルスは完成したんだよね」
「ああ、後は香風の新作を待つだけだ。進捗どうだ?」
「なにその言い方。大丈夫、上々だよ」
「じゃあさ」と、ノノは立ち上がり外の方に向かって歩き出す。ドア前で振り返ると是非も言わせないように言葉を放った。
「学校に行かない?」
懐かしき母校。遠土中学校は、抜け殻のように空っぽのまま虚空にそびえ立っていた。鍵は開いていた。自分たちの教室・特別授業の教室の数々を回り、体育館でバスケットボールをした。
二人とも、運動をしない人種だったためすぐにくたびれた。
階段を上がり、あの頃は校則に縛られ入れなかった屋上へと向かう。その扉は、頑丈なものではなかったようで、誰かによって破壊されていた。
ソーラーパネルと、酒やお菓子のゴミが散らかる屋上は想像以上に美しい場所ではなかった。
「もしかしたら、ここの生徒が最後に遊びに来たのかもな」
「青春だねぇ」
風に吹かれながら、ノノは歩き出す。わざわざ学校に来たのはあの頃の自分の願いをかなえるのと、止まった時間を動かそうとしたから。前者は叶えた。ノノは、後を追ってくるキクノに振り返り、後者を成し遂げる覚悟を胸に宿す。
「私ね、まだキクノのことが好きなんだ」
放った言葉。少年の表情。あの日のどうしようもない思いがよみがえる。
彼に母親がいないことは出会う前から知っていた。母に連れられてキクノの家で出会い。小学校ではずっと一緒にいた。中学になった時、少女はある不安をいだいた。
少女は自分が彼の母親の代わりになろうとしているだけなんじゃないだろうかと。この思いはただの同情が肥大化したものなんじゃないか。そういった形で尽くすことで自己を満たそうとしているのではないかと。
そしてまた、この思いは純粋な恋心であるのではないか。
思いを伝えるべきか、関係を続けるべきかは一年間悩んだ。結果としてノノは伝えた。しかし、今までの全てを「馬鹿にしている」と彼から言われた拒絶された。
その後からだった。この思いが本当に恋だったと気付いたのは。手紙を書き、なんども悩み。出来のいいものは彼に送った。これが、ポエム趣味の始まりだった。
そんな日々が続き高校生。その時、母親の「あんたも大人だし話すべきね」という一言から始まった会話。それによって、二人は完全に離れ離れになる。手紙という糸すら切られてしまう。
『もう、キクノくんと関わるのは辞めて欲しいの』
『どうして?』
『少し、辛い話になるけどね。お母さん、キクノくんのお父さんと付き合っていたの』
付き合っていたのがいつ頃の話かは語られなかったが、ノノには想像ができた。自分が同情で、過ちを犯したように。娘にも過ちを犯してほしくない。それが母の言い分だった。
ノノはそれに従った。手紙を書くことを辞めて、いつしかポエムの目的も自己満足に変わっていた。
時間が止まったように感じるのは、今から過去に戻っていくからだろうか。一歩を踏み出し、正真正銘の恋を伝える。
「明日の一日だけでもいいから、私のことを好きでいてくれない?」
止まらなかった、もはや後戻りはできない。ノノは人生をかけていた。彼に向かって歩を進め、腕を握った。
「色々あったんだ。学校でも家でも、嫌なことがたくさんあった。聞きたくないことを聞いて、言いたくないことも言った。日本が終わるとか、お母さんとお父さんが一日で死ぬとか。……明日死んじゃうとか」
沸き上がる涙をノノは必至でこらえた。キクノと別れたあの日のように、最後まで真剣な顔で、濁すことなく彼を見ていたかった。
「わかっているの。キクノは、変わってしまったんだって。もう一度あの日からやり直すなんてできないんだって。それでも……」
いつの間にか、腕を包んでいた手は、彼の両肩に置かれている。キクノは、ノノの言葉をゆっくり飲み込むかのように、下を向いていたが『変わってしまった』という言葉が、嫌に刺さって思わず顔を上げてしまった。
そこには、涙が流れてもなお真剣な顔で、見つめるノノがいた。鼻血を垂らしながら、謝罪をしてきたあの日の彼女と。重なり、キクノ自身もあの日にいた。
「……それでも、好きって想いが終わらないんだ」
強い風が吹き荒れた。
キクノは真っ暗な世界にいた。目の前で炎が燃えている。炎の中には、いくつもの手紙が燃えている。彼はその手紙を見下ろしている。
ゆっくりと、手紙は燃えていく。燃えるごとに、煙のように文字が浮かんでくる。ふわりとあがった文字は地面に下りると這うようにキクノに近づいていく。
足に絡みついて文字たちは、ゆっくりと上がってくる。手紙はどんどん燃え、言葉があふれ、足元から這い上がってくる。
顔まで到達した文字たちは、彼の目に吸い込まていった。
「あ……ああぁ」
そこで、キクノは両目を瞑り、絞り出すように、不器用に泣いている自分に気が付いた。
錆びついた機械のように。ぎこちなく、ノノの両肩に手を置き返す。そして、お互い。ゆっくり抱き合った。
彼女の。彼の。少女の。少年の。ゆっくりとした鼓動がそこにある。生きている。
「ずっと、ずっと前から。俺は……恋をしていたんだ。いつからかはわからない。でも、一人の日々の中でも、今も、明日もそれだけは変わらないんだ。だから、ごめん。こんなことになるまで、待たせてごめん」
あの、手紙。言葉たちは自分を戒めるものではなかったのだとキクノは気づく。唯一自分を救える。償える言葉だったのだ。
★君の見る世界は、あの日にもう一度戻っても色付くことはなかった。私たちは違う世界に住んでいる。
でも、気持ちだけは同じだった。君の無くした世界も私の色付いた世界で全部残していきたい。大好きなあなたの世界が、私の世界で色付いて上書きされるように。
最終日【確証不可能な未来に生きる】
チュンチュン。
「ナイスチュンチュン」
今日で日本は終わるというのに、鳥が元気に鳴くいつも通り健やかな朝を花の乙女、香風ノノは迎えていた。
一分一秒が惜しい思いだったが、昨夜徹夜でウイルスを完成させ現在ぐっすりと眠っているキクノを起こす気にはなれなかった。ノノがエンドウィークの中で書いた作品たちをウイルスに反映させていたキクノに、夜中の二時ごろに思い浮かんだ最後の一つを急遽追加で入れてもらったのは彼女自身だ。
無理を受け入れて頑張った彼を労おうと、ノノはお菓子を買いにコンビニへと向かった。
「おはよう、ノノちゃん。いよいよだね」
「気分はどうだい?」
早速テンションの高い店員と幽霊に迎えられる。
「最高ですね。なんか無駄に気持ちが高ぶって、じっとしていられないって感じです」
「わかるわー」
店員のサチコは軽快にジャジャンとギターを鳴らした。
「そういえば、昨日今日でトシユキちゃんと一曲作ったの。貴方がこの歌を聞く最初で最後の人物になるんだけど。どう?」
「……めっちゃ楽しいことしてるじゃないですか。ぜひ聞かせてくださいよ」
それ来たと、サチコがギターを弾き始めると。ふわふわと揺れながら、幽霊のトシユキが野太い力強い声で歌い始める。今日というひにぴったりな。この世の終わりの様な歌だった。
「どう?」
「すごい時間を無駄にした気分になりましたよ。私は、キクノと一緒にいる時間を一秒でも大切にしたいんです。返してくださいよ」
「キクノって、ノノちゃんが差し入れ持って行っていた男の子? マジ、付き合っているの? 終末過ごしちゃうの?」
自慢げにノノが頷くと、トシユキが軽快に口笛を鳴らし、サチコがジャカジャンとギターを鳴らした。
「じゃあ、祝福に一曲」
「永遠にさよならです」
ノノはコンビニから出ていく。その、楽し気な背中を見つめて。残された二人は、少し喜びを感じ。またその若さに大きくため息をついた。
「青春だねぇ」「いいですよねぇ」
その瞬間二人に衝撃が走った。
「おもむろに最高のフレーズが!」「最高の歌詞が!」
幽霊と店員は終わりゆく日本で一番愉快に最後を飾る。まるでその姿は、勢いにあふれ、虹を見たらその足元に走り出すような懐かしき過去の姿の様であった。
一人は、失ってしまった自由を歌い。一人は、悲しい別れを歌う。最高の終末を二人は謳歌したのだった。
コンビニからの帰り道。ふと、ノノは携帯を取り出して電話を掛けた。自分を迎えに来てくれるといった警察官。連絡を入れると言っていたが、結局かかってきていなかった。
「誰だ、お前」
つながった先にいたのはかすれた声の男性だった。あの警察官の優しい声音とは違い、力なく不気味な声だった。
「まぁ、誰でもいいや。一応伝えておくが、この携帯は拾ったんだよ。周りに、持ち主らしい死体はなかった」
どうやら警察官は避難の誘導で忙しく、携帯を落としたようだった。男の言葉を信じるなら。ならば、用もないと携帯を切ろうとしたとき、電話先の男は「待ってくれ」と叫んだ。あまりの剣幕にノノは切ることはできなかった。
「すまない。まさか、最後に人と話せるなんて思っていなかったんだ。どうか、少しだけ時間をくれないか。俺には、誰にも言えなかった懺悔したいことがあるんだ」
本当に嬉しかったのだろう。男の声はハリを取り戻していた。どこかで聞いたことのあるような声。ノノはキクノの部屋の前まで着いていたが、中に入らず階段に腰かけて。男の懺悔を聞くことにした。
このエンドウィークの間。彼女は、何人かの言葉を聞いてきた。だから、今日が今日だからといって男を見捨てることはできなかった。
「ありがとう。時間もない。単刀直入に言う。俺は、男で一人で育てていた息子がいたんだ。多分、今は高校生くらいの。生きていたらだけどな」
「どういうことでしょうか」
「俺は、逃げてしまったんだ。妻は、ムリな出産でそいつを産んで死んだ。俺も、両親も反対したのに。妻は自分より子供を選んだ。それを止めることはできなかった。妻には子供への愛があったんだ。でも、俺にはなかった。寧ろ恨んでいた。息子が大きくなるたびに、殺したくなった。息子と俺自身のため、これも一つの愛。そんなことが頭に浮かんだ瞬間。俺は、逃げ出すことを選んでいた」
男は、ノノのことを子供だと見抜いていた。故に、自分のような親はどうかと聞いてしまった。ノノは、静かに目を伏せた。沸き上がる感情を押さえつけて。冷静に答える。
「私は、今日死ぬ道を選びました。両親たちが望んでいないのはわかっています。子供失格です。だから、貴方を悪くいうことはできないです。……貴方は、私をどう思いますか?」
――キクノをどう、思いますか?
「……もし、私の息子が君と同じ道を選んだのなら、それはそれで憎いよ。妻が死ぬ思いで産んだんだから。でも、その命を捨てた私だ。何も言えないよ。君と同じだ」
「……違います」
「えっ?」
「私と貴方は違います」
そういうと、ノノは電話を切った。
「私は、キクノから逃げなかった」
いくらキクノが憎くても、そこに愛があれば。逃げることはなかったはずだ。なぜ、男は愛した人が愛した息子に同じ気持ちを向けられなかったのだろう、最後の最後まで。人のお母さんには向けられたというのに。
考えるとイライラしきて、ノノは携帯を投げ捨てた。
「ノノ……どうしたんだ。こんなところで」
急にドアが開き、そこにはキクノが立っていた。彼が自分のことをノノと名前で呼んだ。それだけで、ノノはどうでもよくなった。
「いなくなっていたから、探そうと思ったんだけど」
「ごめん、お菓子買いに行ってたの」
「そっか」
二人で部屋に戻り、お菓子を食べながらぼんやりと他愛のない話をする。開き直って、もしもっと早くにお互いの気持ちに気づけて二人で避難したらとかの話も。
今になって。生きたいと思える自分がノノは本当に嬉しかった。そう思えば思うほど、二人の計画に意味は出てくるのだから。
「ねぇ、キクノ。手を握ってくれない?」
「うん、いいよ」
「このまま、死ぬまで」
遂にノノは泣き出してしまう。泣き虫な自分だ。泣くだろうとは思っていたが。急にそれは襲ってきた。怖くて、冷たい。
キクノもつられて泣いている。お互い手をつなぎながら、互いの温もりだけを感じる。
この数日間色んなことがあった。その全てをポエムにして、言葉にして自分の人生として残していく。果たして、成功するのだろうか。不安と共に、彼女は最後の作品を思い出し、なぞっていた。
★言葉という密室の中で私は眠り続ける。その魂が生きるかどうかは受け取り手次第だろう。
密室の中には私の人生が詰まっている。関わった全てが。だからこそ、生きたいと強く願える。見つけて欲しいと祈れる。
終わりゆく世界と、未来を行く世界へ。
――『私』はここに、生きていました。
【短編集】我が世の青 岩咲ゼゼ @sinsibou-r
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