Episode 018

LHRロングホームルームの時間、2年1組ではとあるクラス会議が行われていた。


「えー、はい。今から今年の文化祭何やるか会議を始めまーす。司会は文化祭実行委員の桑田で、書記は神坂怜くんです」


うむ、役割が逆だろと自分でも分かっている。

ただ怜が『そういうのは未亜の方が向いてる』と頑なにやろうとしないようだったので仕方なく俺が司会をやっている。

ちなみに今は体育祭も終わり、本格的な夏が訪れた7月の今日この頃。

セミの鳴き声が響いているこの時期から10月に開催される文化祭の準備が始まるのだ。

というのも2学期入ってから始めても間に合わないかららしい。


「最初はできるかどうかを無視してどんどんやりたいやつ言っててくれ」


まず候補だけ出して、そのあと議論しながら消去法と多数決で決めようという考えだ。


「はい、山田」


「え、俺!?手あげてないけど……」


下の名前は忘れたがこいつはうちのクラスのムードメーカー的存在だ。多分。


「5秒以内に答えないとお前の性癖を暴露する。5、4」


「は!?ふざけんな!」


そのリアクションがすでに女子が引くレベルの性癖を持っていると言っているようなものだ。


「3、2」


「あーもー!お化け屋敷」


怜が黒板にお化け屋敷と書いた。


「無難だな。はい次」


「桑田てめぇ、あとで覚えてろよ」


悪いな山田、これが俺のやり方だ。


「佐藤、なんか言え」


「次はオレかよ……」


「なんだその反応は?むしろ意見を言う権利を与えてやったんだから感謝しろ」


「お前覚えてろよこのクソ暴君が……」


静かに怒るタイプか。


「喫茶店?とか」


怜はすぐさま黒板に書く。

そして俺も少し考える。


「喫茶店か。これについては色んな意見が出そうなものだが具体的にどんな喫茶店が良いと思う?」


「「「メイド」」」


反応が速いかつ真顔だよこいつら。


「多数決によりメイド喫茶に決まりました」


「ふざけんなー!」「ホントいい加減にして!」「最低のクズ!」「クソムシ!」「クズ最低クソ暴君!」


うちのクラスは男子が多いため、男子がみんな賛同するつもりは民主主義に基づいた多数決により決定したと判断したんだが。


「まあ、流石に冗談として。怜、一応書いといて」


喫茶店の下に(メイド)と書かれた。

そしてクラスメートたちは思うのだった。


(((さてはこいつ、諦めてないな)))


そして、クソ暴君の横暴はまだまだ終わらない。


「仕方ない。そこまで言うのであれば女子の方からも面白いアイデアを出してくれ。男子も納得するような」


この暴君の厄介なところは、ただの暴君ではなく狡賢くもあるのだ。

先程のメイド喫茶は男子から先にアイデアを出し、女子はこれに反対した。

そして一応の決定権を持つ未亜の投げかけた言葉は、女子に対して反対したぐらいだから素晴らしいアイデアがあるんだよなと圧をかけた。

それでいて女子から意見が出なかった場合、なぜか女子が反対だけしてアイデアを出さないみたいな空気になるのだ。

しかも女子側はそれこそこの空気の中、面白いアイデアじゃなく普通のアイデアを言おうものならメイド喫茶をゴリ押されてしまう。


未亜の意図に感づいたクラスメートは思う。


(((クソ暴君すぎる!!)))


そして、1人の男が立ち上がった(二重の意味で)。


「怜、未亜が暴走してるけどいいの?」


邸快斗である。


「未亜、最初は皆んなから意見を引き出すためにやってたのに。途中から皆んなを掌握しようとするのは未亜の悪い癖だよ」


怜の言葉に気づいていなかったクラスメートは戦慄する。

ちなみにだが、ほぼ同時に……


(((ってか、どんな癖だよ)))


と思った2年1組である。

そしてクラスメートの中には怜の親友というだけであまり目立っていなかった(多少悪目立ちしていたが)未亜のこんな一面に驚く者もいた。


「まぁ未亜のやり方はともかくとして、女子側の意見は欲しいかな。もちろん男子も」


怜の一言により、何人もの手が挙がりはじめた。

なんだかんだ黒板いっぱいにまで候補があがった。


「無難なところだとやっぱりお化け屋敷か。脱出ゲームに縁日、演劇、多種多様な喫茶店、映画上映、休憩所、そしてカジノなどなどと。……ってか誰も模擬店は言わないんだな」


「模擬店は3年生とか部活動での参加しかできないよ」


え、そうなの?

もしかして知らなかったの俺だけ?


「そのジト目をやめろお前ら」


「去年もやってたし実行委員なのに知らないのはちょっと」


怜が厳しい!


「あ、そういえば。今年は近くの女子校と合同でやるんだけど」


「何それ聞いてない」


俺を無視して怜は話を進める。


「僕たち以外でもう1人実行委員が必要になったんだ。女子でね」


「おい、まさかその女子校……」


嫌な予感しかしないんだよなぁ。


「そこ男子禁制であっちで打ち合わせとか連絡のやりとりには女子が行くんだけど、女子の実行委員が足りないんだよね」


「ただでさえ人手不足なのに合同でやるからだ」


「そこで文化祭実行委員が2人とも男子のクラスから1人ずつ女子を引き抜くことになったんだ。僕たちも情報共有はしないといけないしね」


なるほど、つまり女子の文化祭実行委員は基本的に女子校関係を担当するわけか。

情報伝達をスムーズにするためにも各クラス1人は女子の実行委員が欲しい。

だから俺たちのクラスのような男2人のところから無理矢理引っ張り出すことにしたと?


「やってくれる人、いるかな?」


複数の女子が即座に勢いよく手を挙げる。

中には席を立ったやつも。


「まさかこんなにやってくれる人がいるなんて思わなかったよ。でもクラスのこともあるし、とりあえず1人に決めたいんだけど」


「ジャンケンだな」


一番平和的に行こうか。


「うむ、ここまで決まらないか」


まさか5分の間もあいこが続くとは思わなかった。


「まだクラスのことも決まってないし、今日のところは保留にしようか」


まぁ急ぐほどのことでもないのだろう。多分。知らんけど。


「とりあえずお化け屋敷、脱出ゲーム、喫茶店、演劇、映画上映、休憩所、カジノの中から決めるか。その他はよくわからんし」


「古本市は!」「同人誌発売会」「美術展も!」


おい、お前らマジか。


「古本市は図書委員会でやるし、同人誌発売会も漫画研究同好会がやるし、美術展は言わずもがな美術部がやるに決まってるだろ」


うちのクラスの数少ない帰宅部のやつらは少し変だな。

なぜか怜がジト目でこちらを見てくるのはなぜだろうか?


「まぁ、とりあえずさっき未亜が言ったやつからまた候補を削ってこうか」


怜は黒板消しで俺がいった7つ以外を消した。

ちなみに喫茶店は1つにまとめた。


「まずできなさそうな映画上映は却下」


「えぇ!?」


1人の男子が声をあげた。

多分こいつが言ったんだろう。俺は覚えてない。


「悲惨な未来しか視えない。なら演劇でいいまである」


これには何人か頷いて同意してくれる。


「僕的には休憩所も却下だね。実行委員会に通らないよ」


なん、だと……!



「あとこのカジノってどうするのか気になるんだけど」


「あぁそれも俺だな」


実はカジノを提案したのは俺である。

言っておくが休憩所って言ったやつは俺じゃないから。これマジだから。信じて欲しい。


「カジノというかカジノ風だな。なぜかうちにはおもちゃのルーレットがあってだな。それを使えるし、なんならトランプがあれば色んなゲームもできる。ポーカー、ブラックジャックにバカラ。サイコロがあれば尚よろしい」


「それ準備あんまりいらないけど、未亜が楽したいだけだよね?」


鋭いやつめ。

そう、実はこのカジノ。

トランプとルーレット、あとはチップのようなものがあれば最低限成り立つのだ。

あとはテキトーに教室を装飾して、それっぽくすればカタチになる。

だがうちのクラスにとっては利点だ。


「でも面白そう。何より準備に時間取られないのはいいこと」


反応したのは快斗だった。


「まぁ、オレも楽したいからな。柔道部の方もあるし」


続いて諒平が。


「それをいったら私も部活と掛け持ちになる身からしたらたしかに準備が楽な方がいいかも」


「おれもだわ。部活の方とバンドの練習あるし」「おまえバンドやるの?」「他クラスのやつとステージで演奏すんだー」

「うちらもステージの練習したかったしちょうどいいかもね」「だねー」


快斗や諒平もそうだが、うちのクラスのほとんどがなんらかの部活動に入っている。

俺のような帰宅部は数人しかいない。

クラスのことをやりながら部活動の方も手伝うとなると時間的にも余裕がなくなってしまう。

クラスの方の比重が小さくなれば部活動の方の手伝いや有志の方にもチカラを入れることができるのだ。

そして現帰宅部は文化祭というイベントに関心のないやつが大抵なので尚良し。


「はーい、多数決取るまでもなくカジノに決定」


「一応は取った方がいいんじゃないかな?」


まぁ、それもそうか。


「じゃあカジノがいい人、挙手」


クラスのほとんどが手を挙げた。


「決まりだね。具体的なことはまた後日話し合おうか。僕たちの側がまだ書類揃えられてないからね」


「今日決めたのは来週のミーティングで何やるか被らないように示し合わせるためだしな」


「カジノはさすがに被らないだろうね。毎年のことだけど学年の中で被らなければ問題ないから」


よし、まとまったな。


「未亜、決まったことだし先生呼んでこようか」


「そうだな」


俺たちは暇になってくつろいでいるであろう担任のいる職員室へと向かった。


「上手くまとまったな」


「上手くまとめたね」


「偶々な」


「まとめたのは否定しないんだね」


だからなんだというのだ。


「僕たちのクラスは運動系の部活入ってる人が大半だから体育祭のときはやる気に満ち溢れてたけど、文化祭に対しては少し消極的だよね。だからって、わざわざあそこまでしなくても良かったのに」


「何の話だ?」


「みんな乗り気じゃないから意見が出ないと思ってあんなやり方をしたんだね。強制的に指してとりあえず候補を出させる。まあ途中で自分の欲求に走ってたけど」


な、なんのことかな?


「紆余曲折を経て、それでも最終的には皆んなの思いを汲み取ったアイデアを出して、いい方向に持ってたじゃないか」


「そんなに俺は計算高くないっての」


「未亜、もう何年の付き合いだと思ってるんだい?」


久々に見たな、その鋭い眼をした顔は。


「快斗も気づいてたみたいだね。快斗は未亜の思惑を汲み取って発言してた」


「そうかよ。まぁ、決まったんだからそんなことはいいじゃねーか」


「それもそうだね」


あ、そういえばだ。


「いやー、それにしてもかの女子校と合同文化祭かぁ。…………文化祭実行委員になんかならなければ良かった」


「仕方ないよ。僕たちにはどうしようもない」


「でもなー……」


「今からナイーブにならなくても。会う可能性があるってだけで」


「俺の勘はよく当たるんだ。特に悪い方に関してはな」


「そうなったら運命だって受け入れるしかないよ。それに彼女・・があの女子校にいるってだけであっちの文化祭実行委員になってるとは限らないじゃないか」


怜よ、それをフラグというのだ。


「帰りに神社寄ろ」


「そこまでしなくても……」


そして後に俺は神様を恨むことになる。







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俺の親友は超ハイスペックでイケメンなのでやはりモテる。 榊原 計 @realgame

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