Episode 017

俺たち2年1組の体育祭後の打ち上げは焼肉屋だった。


もちろん、事前に予約していたのだが正直いってこれは総合優勝前提で決めたものである。


ちなみに予約したのは俺。


そしてとりあえず立て替えて、あとで領収書と引き換えに理事長からその分のお金を貰うかんじだ。




総合優勝してなければもちろん自腹なので高校生としてはかなり痛い出費になるが、総合優勝したおかげで実質タダで焼肉が食える。


ちなみにクラスの人数分を立て替える身としてはお金が返ってくるまで財布がすっからかんになるので、困ったものだ。


返ってくるからいいけど。




「えーっと、とりあえず総合優勝おめでとう。カンパイ!」




怜がカンパイの音頭を取り、クラスみんなでジュースをカンパイしあう。




「90分食べ放題飲み放題コースだから元取れるまで食えー!」




一応幹事の俺がそういうと男どもは嬉しそうに、




「「「オォーーーー!!!」」」




と声を合わせた。




ちなみに俺は怜、快斗、涼平とテーブルを囲んでいる。




「元取れるまで食えなんて未亜らしい」




怜はトングで肉を網にのせていく。


ちなみにこいつ網にレモンをぬっていた。


どうやらクエン酸が肉を網にくっつきにくくするらしい。




「まぁ取れないんだがな。そういう値段設定にされてる」




「未亜は相変わらず現実主義者」




快斗は牛タンを少し焼いただけで口に入れた。


おい、それまだ赤かったぞ。


まあ牛だから大丈夫か……




「そうそう。こんなときぐれぇは、快斗コーラ頼んでくれ飲み終わっちった」




さっきカンパイしたばっかだろ。




快斗はタブレットでコーラを注文した。


ここではタブレットで注文するようだ。


しかも90分コースにあるものしか注文できないようになっている。


時代の進歩を感じた。




「牛タン追加する」




「快斗、カルビとハラミもおねがい」




普段の俺は肉を焼いて皆んなに配分するタイプなんだが、こいつらは勝手にやるので必然俺は食うだけのマシーンと化す。


まぁそれは涼平も同じなのでうしろめたさはない。




「未亜、ご飯大盛り頼んでおいたよ」




快斗め、さすがに俺のことよく分かっていやがる。




「はい、これ未亜の分」




いつのまにか小皿に俺の分の肉が積み重ねられていた。


怜のやつ、たしか涼平の家で鍋食ったときと鍋奉行を完璧にこなしてたよな。


ホント何やらしても凄い。




「どうかしたかい?」




「いや、なんでも。次は俺が焼くよ」




「分かった。じゃあ僕は食べることに集中する。快斗、烏龍茶おねがい」




快斗は頷いて素早く操作して烏龍茶を注文した。


このまま行けば画面を見なくても注文できるようになりそうでなんかこわい。




交代しつつ肉を焼いて、肉を食べご飯大盛りを2杯をたいらげて腹が満たされてきた頃、




「トイレいってくるわ」




俺は用を足し、トイレから出たときSNSで1通のメッセージが来た。




『話があるんだけど、今日会えない?』




ちなみに送り主はあの筧だった。


お前は俺の彼女か(しかも別れ話を切り出されそう)、とツッコミそうになったが本人にその意図は一切ないだろう。




『お互い打ち上げ終わったあとでな。ってかなんで今?』




『いいからこい』




強情な女だ。半田、お前絶対尻に敷かれるぞ。




『わかったよ』




『9時に駅前の公園ね。遅れそうならまた連絡して』




焼肉が8時までで、行きたいやつだけの二次会はカラオケの予定だけど今回は見送ろう。


幹事も怜あたりに任せれば問題ない。




『了解』




俺はスマホをポケットにしまい、席に戻った。


そして90分が経ち、俺は会計を済ませて店を出る。


クラス皆んなで『お疲れしったー』を言ったあと、二次会行く組は近くにあるカラオケへと向かった。




「怜、俺このあと用事できたから後頼むわ」




「それはいいけど、用事って?」




「用事ってほどのことでもないけど、今日親が2人とも遅いんだよ」




「亜依ちゃんが家で1人なんだね。わかった」




一応これは事実である。


しかし遅いとはいえ、さすがに帰ってきてるだろう。


それに亜依はしっかり者だし、心配はしていない。




「あぁ、そういえば。だからさっきまで未亜にしては珍しくスマホ触ってる頻度が高かったんだね」




…………まぁ、実は心配してたけど。


そうなると俺は筧のおかげで妹の安全確認をいち早くできるようになったわけか。


9時まで1時間あるし、一旦家に帰れるわけだし。




「そんじゃあな」




「じゃあね」




そのあと、他のやつらともお別れをして一旦帰宅した。


そして9時ぴったしに駅前の公園に着いた。


通学定期というのはこういうとき便利だと感じる。


1日に2往復してもその分のお金がかからないからだ。




「よ」




筧の方から話しかけてきた。




「こんばんは」




あえて丁寧に挨拶してみる。




「なんか気持ち悪い」




おい、今すぐ半田と別れろ。




「時間通りなんだけどさぁ、男なら最低でも5分前には待ち合わせ場所に来るもんでしょ」




なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。この彼氏持ちが。




「デートのときは10分以上余裕もって行くよ」




「デートのときは最低15分前よ」




それは頭おかしい。


その場合に限り、女の方は来ないよねぇ?何なら遅れてくるだろうが。




「ちなみにうちは30分前にはいる」




どんだけ楽しみなんだよ!




「半田にはデートのときは30分前より早く来いって言っとかないとな」




うわっ、半田かわいそう。大変だけどガンバレ!




てか30分以上前に来るんだったら元々の予定を30分早めればいいとは思いませんかー?有権者の皆さん!




「今日はそのことについてお礼を言おうと思って。ありがと」




そのこととは半田と付き合えたことか。


半田とは親しく話す仲だが、頼まれたときは驚いた。


なんせ両想いだったから。


まぁ、これについての最大の難関が筧自身にあったわけだが。


あそこまでやらないと照れで半田の告白を突っぱねる可能性があったのだ。




「お礼が軽い。一体どれだけ俺が頑張ったと思ってるんだこの素直になれないアバズレが」




なんかふと苦労を思い出して、強い言い方になる。




「あんたぶっ飛ばすわよ?」




おー、怖い怖い。




「流石にいいすぎた、すまん。てかお礼ならメッセでいいだろ」




「きちんとカタチとしてお礼するわよ。はい、ココア」




筧からカンのホットココアを手渡された。




「一瞬これだけかよとも思ったけど、元々ボランティアで引き受けたわけだしこれで良かろう」




「なんで偉そうなのよ」




「実際えらかったろ?今日だけのために帰宅部の皆んなと必死にバトンパスの練習したんだぜ?会ったときには他のやつにもお礼言っとけ」




あいつらもよく了承してくれた。


昼飯奢っただけじゃ釣り合わなかっただろうに。


あぁ、ホント今月は出費が多い。




「もう直接会っていったわよ」




俺は最後ってわけですか。




「てか、ホントにココアくれるために呼んだのか?」




「それだけじゃないわよ。あの噂について」




あの噂、ねぇ。




「葛西さんや美紅とその話になってね。同じ中学だからなんか知ってたりするって、美紅からさりげなく訊かれた」




探られてんなぁ。




「もちろん、何も知らないっていった」




ちゃんと箝口令は守ってくれたのか。




「まぁうちも含めて大林中だったみんなはあんたや神坂くんには頭が上がらないし、できる限りのことは協力する。でも、みんなあんたが例の噂で避けられてるのは見てられない」




「避けられてるっていっても女子だけだ。それに話せるやつもいる」




筧、お前も含めて。




「それでもだよ。今回の件も助けてくれたのに」




「俺は堂々としていていたいんだよ。あの噂だって本当のことだ。事実を否定して嘘ついてどうする」




「でもあれは!」




「もう終わったことだ。俺は一部女子に避けられてようが蔑視されようがその程度なんということもない。筧、それはお前の、お前たちのわがままだ」




「……!」




おっと、少し言い過ぎたようだ。




「気持ちはありがたく受け取るよ。だけどやっぱ、終わったことを蒸し返すほど女々しくなりたくないんだわ」




「……そっか」




納得した、というわけじゃないっぽいな。


これだから同中は困る。




「でも最近、あんたの汚名晴れてきてるけどね」




え、そうなの?




「それは不味いかなぁ」




「どうして?」




「なんでも。………少し目立ちすぎたな」




「あんたは悪い意味でとっくに目立ってる」




……聴こえてんじゃねぇよ。




この後、本当にたわいもない話をしてお開きとなった。


まだ9時台とはいえ、夜中の公園で彼氏持ちの女子と2人っきりというのは知り合いに見られると不味い。




…………これフラグにならないよな?




俺は足早に帰宅した。


ちなみにココアは飲んだときにはぬるくなっていた。


まぁ、ぬるくてもうまかったけど。

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