Episode 016
『いよいよ、これが本当に最後になります。部活動対抗リレー男子の部がもうまもなくスタートです』
そして体育の先生がスターターピストルを構えます。
「位置について」
パァーーーン!
『今スタートしましたぁ!真っ先に抜けていったのは陸上部!容赦がありません!』
やはりといいますか流石は陸上部です。
他の方と比べて群を抜いています。
『続いてサッカー部、野球部、帰宅部、柔道部となっています。ですがまだ拮抗している状態!陸上部にいち早く食らいつくのはどこでしょうか!?」
そして第2走者へとバトンが渡ります。
ここでは大きな順位の変動はなく、まだまだ拮抗しています。
それにしても柔道部員の方たちがここまで速いことに驚きました。
身体は大きいといっても、やはり筋肉が凄まじいのでしょう。
『おーーっと!ここで野球部バトンを落としてしまった!その間に柔道部と帰宅部が順位を上げます!』
野球部の方たちはどうやらバトンパスがうまく行かなかったようです。
『いやー、それにしても帰宅部が3位につけていますねー。解説の杉野先生どう思いますか?』
『ん?え?なんで俺?』
偶々近くにいたのでしょうか?
あの杉野先生が少し焦っています。
マイクに声入ってますし。
『え、あぁ。多分だが帰宅部の奴ら、バトンパスが上手い。今の野球部みたいにバトンパスひとつで結果は大分変わる。陸上部ほどじゃないが、やつらかなり仕上げてきてるな。そこに努力が見える』
『ありがとうございます。そんな解説を横にバトンはアンカーへと渡ります!最初に走り出したアンカーは陸上部!続いてサッカー部!ほぼ同時に帰宅部と柔道部がアンカーへとバトンをつなぎました!野球部もまだまだ食らいつきます!』
アンカーが走るのは200m。
『ここでサッカー部が陸上部を抜いたー!神坂怜、速い!』
邸くんの、あんな必死そうな顔を初めて見ました。
『おっ、桑田やるじゃねぇか。素人高校生なら完璧といっていいバトンパスで邸のすぐ後ろにもうつけてやがる。……こいつは評価を改めないとな。だがお前のすぐ後ろにもまたつけてるやつがいるぜ』
桑田くん、邸くん、武石くん、この3人の競り合い。
互いが競り合って、神坂くんとの距離が縮んでいます。
『神坂のやつ、容赦ねえなぁ。あいつ更に速度上げやがった』
距離的にもう神坂くんに追いつくのは難しいでしょう。
波乱が起きるとしたら2〜4位の争いです。
そして最後の直線。
さらに神坂くんが距離を離し、その他の3人が完全に並びました。
そして、最初にゴールテープを切ったのは神坂くん。
その約1秒後、邸くんはそのまま、武石くんは手を伸ばし、桑田くんは転びながらも、ほぼ同時にゴールしました。
そのすぐあとに野球部の方もゴール。
『こ、これは……えー、1位はサッカー部、5位は野球部です。2から4位までの結果は少々お待ちください』
体育の先生と、その場にいた体育祭実行委員の方々が話し合っています。
その話し合いはすぐに終わり、
『改めて結果を発表します。1位サッカー部』
この場にいる皆が知りたいのは次からの順位です。
わたしもつい固唾を飲んで耳を傾けます。
『2位帰宅部、3位陸上部、4位柔道部、5位野球部となりました』
少しの間の静けさの後、
『『『オォーーーーーッ』』』
校庭のあちこちから歓声が湧きました。
『あの野郎!最後転んだんじゃなくて腕を伸ばしながら飛び込んだのか!』
漫画やドラマなどでありそうなものですが、実際にそれをやって接戦を制すなんてできるんでしょうか?
それも走った勢いのままタイミングよく。
『まさかの帰宅部が2位をもぎ取ったー!あの陸上部が3位、野球部が5位という大波乱!そんな大波乱の中、完全にリレーを制したのはサッカー部!おめでとう!』
それぞれの部活動が固まって話しています。
サッカー部では先輩が神坂くんの髪の毛を笑いながらくしゃくしゃにしています。
神坂くんもまんざらでもなく、笑っています。
野球部の皆さんはバトンミスをした部員を励ましています。
柔道部は結果をそんなに気にしてないようで、なぜか武石くんは先輩と笑いながら組み合っています。
……ここで投げ技が決まらないと良いですが。
陸上部は顧問の先生に叱咤激励を受けているようです。
もしかして帰宅部に負けてしまっからでしょうか?
その帰宅部の皆さんはハイタッチを交わしています。
そして桑田くんを含め3人が1人の男子の背中を叩いて、桑田くんが彼の向きをわたしたちのいるテントの方へ変え押し出します。
口の動きから『いってこい』と言ったようです。
そして彼はこちらの方へ走って来ます。
彼はわたしと同じクラスの
筧さんは3組女子のリーダー的存在で今時の女子高生って感じの方です。
……そういえば彼は同じクラスの半田くんです。
彼は真剣な表情で筧さんに言いました。
「好きです!付き合ってください!」
まさかの、というか彼が筧さんの元へ走ってきたところで分かってはいましたが、告白です。
「リレーかっこよかったよ。返事はその、オッケー、です」
わたしたちのクラスから黄色い歓声が上がりました。
それを聞いた他の帰宅部の皆さんはガッツポーズをしています。
半田くんは嬉しさを露わにしながら桑田くんたちの元へ駆け寄り、なぜかそのまま桑田くんに飛びつき2人は倒れました。
2人は起き上がり、またハイタッチを交わします。
「桑っちが帰宅部でリレー参加したのってこのためだったんだ」
「そうみたいですね。ですが、どうして部活動対抗リレーだったんでしょうか?」
「まぁ半田くんクラス対抗リレーにも出てたけど、かけっちも出てたし、いくら気になる男子が走っててもそれどころじゃなかっだろうし〜」
筧さんのことは『かけっち』と呼ぶんですね。
「なる、ほど?……え、筧さんって」
「そう!2人は両想いだったんだよ!」
顔が近いです美紅ちゃん。
「多分だけど、桑っちはキッカケさえ作れればよかったんだよ。両想いならあとは勇気出せばいいからね」
「では桑田くんもお2人が両想いだってこと知ってたんですね」
「まぁ、かけっちは分かりやすい方だし。それに桑っちのアンチじゃない数少ない女子だから面識あるのかも」
「そうなんですね。正直意外です」
「それはかけっちが桑っちのアンチじゃないってこと?」
「っ………えっと」
そういう意味で言ったわけではないつもりでしたが、もしかしたら無意識のうちにそのことも含めていたのかもしれません。
「かけっちもたしか大林中だったから、何か知ってるのかもね。例のウワサについて」
「噂、ですか」
「ゆきっちはホントだと思う?」
「わたしは、そうは思えないというのが今の考えです」
桑田くんはあの噂のことは本当であると言っていましたが、今のわたしは信じられないのです。
「でも桑っち自身は認めてるよ?」
「それでもです。わたしは仮に噂が本当だとしても、そこにはきっと訳があります」
そうでなければ、神坂くんの親友であるはずがありません。
「そっか。実はあたしもなんだ。考えてみれば色々おかしいし」
おかしい、わたしたちが抱いたこの違和感を忘れてはならない。
そんな気がしてならないのです。
『どうやらハッピーなサプライズがあったようですが、時間も押してるのでそろそろ閉会式へ移ろうと思います。生徒の皆さんは校庭に整列してください』
こうして閉会式がはじまりました。
早速結果が発表され、各学年での優勝クラス。
そして部活動対抗リレーでは神坂くんたちサッカー部とわたしたち茶道部が表彰されました。
『総合優勝 2年1組』
「「「よっしゃー!!」」」
2年1組の皆さんは喜びを露わにし、わたしたちは拍手を送りました。
『代表者2名は前に』
神坂くんと桑田くんが前に出て、校長先生よりそれぞれトロフィーと賞状を受け取りました。
そして校長先生による閉会の言葉です。
『えー、例年通り何事もなくこの体育祭が終われたことにわたくし自身ほっとしております。先ほど総合優勝の賞状を受け取った者を除いて倒れたものもいないとのことで』
「おい」
1組の男子を中心に笑い声がもれます。
『皆さんお疲れのようなので、こんなところで締めようと思います。皆さん、本当によく頑張りました』
『以上をもちまして、曲輪田高校体育祭閉会式を終了いたします』
ようやく体育祭が終わりました。
今日は後片付けのあと、クラスで打ち上げに行くことになるでしょう。
片付けは毎年2年生がやることになっています。
男子の皆さんは主にテントを、わたしたち女子はパイプ椅子やコーンといったものを片付けました。
「ようやく、おわったーーー!!」
武石くんが両腕を上げながら言います。
帰り道は美紅ちゃんと神坂くん、そして桑田くんに邸くんも一緒です。
「急に大声出すなよ」
桑田くんはより疲れているようであくびもしています。
「それにしても未亜は相変わらずだったね」
「怜、その相変わらずってなんだよ」
「半田を後押ししたこと」
「あぁ、あれか。実のところあれは筧が黒幕なんだよ」
桑田くん以外皆んな驚きを見せます。
「どういうことだい?」
「はじめに筧が俺を頼ってきたんだよ。半田と付き合うにはどうしたらいいかって」
これは、なんとも意外な事実です。
「まぁ俺は2人が両想いなのは知ってたからな。素直に告白すればって筧に言おうとも思ったんだが、あの性格だし個人的にもやっぱ男から告った方がいいと思って、半田を焚きつけたわけだ」
たしかに筧さんは素直になれないタイプかもしれません。
それこそ気になる異性とならば尚更。
「これでも大変だったんだぞ?まず半田をさりげなく焚きつけることから始めて、あいつらのことだから2人っきりにさせても素直にならない可能性があるから体育祭という舞台で告白させるために奔走したよ」
そこまで考えて、部活動対抗リレーに参加したんですね。
「帰宅部つくるとこからやって、予選勝ち上がらなきゃ意味ないし、部活やってないやつで足速いやつ集めてバトンの練習を何度も繰り返したんだ。むしろ成功しなかったらどうしてやろうかとも思った」
「成功しなかったらどうしてたんだい?」
「ほぼ100%成功するようにしたに決まってるだろ。前々から筧には半田が告るから素直に応えろって言っておいたからな。今思ったけど作戦を考えたのはたしかに俺だけど、これ筧の自作自演みたいだな」
言われてみれば、そう捉えることもできなくはありません。
「ところでなんでバトンの練習したの?」
美紅ちゃんが訊ねます。
「そりゃ怜のいるサッカー部や陸上部と競うんだから練習するだろ。無様な結果じゃ意味ないし。短期間で出来ることといったらバトンパスの練習ってわけ。理想的なのは1位の大金星だったんだが、隣のイケメンのせいでやっぱり叶うことはなかったわけだが」
それでもやはり2位も凄いことだと思います。
「そこは真剣勝負だからね」
「おかげでボクたち陸上部は顧問に怒られたけどね」
「それについては俺から何も言うことはない」
「なんて怒られたと思う?帰宅部のやつらみたいなバトンパスをしろだってさ」
それは、なんとも……
「あれは帰宅部みんなの努力の成果だからな。隠れて練習するのも大変なんだぞ?」
「これでもボクは悔しいのさ」
もしかして、邸くんは自分に責任を感じて……
「少なくともお前のせいじゃないさ。単純に相手が悪かったな」
桑田くんは背後から神坂くんの肩に腕をかけながら不敵に笑いました。
「それもそうだね。たしかに、相手が悪かった」
「おいおい、オレだって悔しかったんだぜ?結局、お前らみんなに負けちまったわけだしな」
「むしろ短距離走で柔道部が他の部活と張り合ってる方がおかしいっての。そのガタイで後ろから迫られたら恐いっての」
「そのぶん筋肉があるからな!」
「違いない」
本当にこの4人はお互いのことを尊重しています。
これを人は友情と呼ぶのでしょう。
今日を振り返りながらたわいもない会話をしているうちに最寄りの駅に到着しました。
わたしや美紅ちゃんの3組と神坂くんたち1組では打ち上げの場所が違うので、ここでお別れです。
「じゃあねー皆んな」
「ではまた来週」
わたしたちが手を振ると、神坂くんたちも手を振りながら、
「2人ともまたね」
「あばよー」
「また来週」
「痴漢には気をつけろよー」
桑田くん、最後のは余計なお世話です。
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