Episode 015
体育祭は残すところあと1種目になりました。
エキシビジョンとして行われる部活動対抗リレーです。
男女別で行われ、各部活の代表者4人がリレーをつなぎます。
もちろん全部活が参加できるわけではなく、事前に行われた予選を勝ち抜いた5つの部で行われます。
『最後の種目は部活動対抗リレー!一位の部活には総合優勝のクラスとは別に打ち上げ代を理事長が贈呈します!先ずは女子の部です!予選を勝ち抜いたのはバスケ部、ダンス部、陸上部、茶道部、吹奏楽部です』
なんと文化系の部活が2つも入っています。
ちなみに私は今、茶道部代表者としてスタート地点にいたりします。
「まさか予選を勝ち上がってしまうなんて」
何度も言いますが私はそんなに速くありません。
ですが、先輩方をはじめ茶道部には運動もできる人がいるのです。
ちなみに同じく茶道部の柏原先輩はアンカーです。
「ゆきっち、おたがいがんばろうね!」
美紅ちゃんはバスケ部代表として私と同じ第1走者として走ります。
「あ、センパイ方も出るんですね」
「三方さん?」
「はい、三方花実です!おふたりには負けませんから!」
「そっか!はなっちは吹奏楽部だったね」
まさか、三方さんも同じ区で走るとは思いませんでした。
『おっと!なんと『四大天使』が全員そろい踏みです!エキシビジョンとしては申し分ないでしょう!』
男子の皆さんからの歓声が少し恥ずかしいです。
一体誰が『四大天使』だなんて言い出したのでしょうか?
その人とはじっくり話し合いたいものです。
『間も無くスタートです!』
ついに始まります。
「位置について」
パァン!
スターターピストルが鳴ると私たちは走りだします。
他の方より遅いのは分かっています。
ですが、せめて距離を離されなければアンカーである先輩がなんとかしてくれます。
『いち早く抜けているのはバスケ部の高柳さん!続いて陸上部です!』
私は情け無いことに第1走最後にバトンを渡しました。
1番速かったのは結局陸上部の方で、美紅ちゃんが2番手でした。
「3位でしたか。やっぱり美紅センパイは速いですね」
「はなっちも中々だったよ!ゆきっちも!」
たしかに私は5番手でしたが、茶道部になんといったって柏原先輩がいます。
『第2、第3走では順位の変動はありません!アンカーにすべてが託されます!茶道部逆転なるか!?」
「ゆきっち、不安そうな顔してないね」
「はい、柏原先輩は凄い人ですから。神坂くんぐらいに」
アンカーである先輩が走り出すとどよめきの声が上がります。
『茶道部速い!柏原夕美先輩速いです!』
短距離走ではやはり本気を出されてなかったようです。
「あの人速っ!あんなの反則です!」
「こりゃ、やられたなぁ」
先輩は5番手から4人を抜いて、そのままゴールしました。
『なんと茶道部!一気に4人抜いての1位!』
さすが先輩です!
私や他の茶道部員たちは先輩の元へ走ります。
「やはり先輩はさすがです!」
「別に、たまたま本気出しただけで………体育祭で出番なかったし」
最後の方は聞き取れませんでしたが、相変わらずの照れ隠しです。
先輩は気づいていませんが私を含めて茶道部皆んな先輩のことを尊敬しています。
たしかに日本人離れした見た目と近寄りがたい雰囲気はありますが、優しいですし何でもできます。
普段はクールに振る舞っていますが、照れ隠しなのは茶道部員の中ではバレバレなのです。
いわゆるクーデレです!クーデレ!
「打ち上げどこに行く?」「そりゃもちろん柏原先輩の好きなところで!」「え、わたしが決めるの!?あなたたちが決めていいわよ……」
私が少し遠目で先輩と部員皆んなとが話しているのを見ているとなぜか桑田くんがそばにいました。
「桑田くん?」
「いやぁ、先輩ちゃんといるじゃないですか」
「なんのことですか?」
「葛西か、いや何でも。ただ先輩が部員に慕われているなぁと思っただけで」
たしかに知らない方からすれば意外かもしれません。
「ところでなぜ桑田くんはここに?」
「何でって、リレーに出るからに決まってるだろ」
「桑田くん部活入ってたんですか?しかもここアンカーのところですよ?」
「あぁ、うん、まぁすぐに分かるよ」
私はよく分からないまま、とりあえずクラスのテントに戻ります。
『次で本当に本当の最後です!部活動対抗リレー男子の部、出場するのはサッカー部、野球部、陸上部、柔道部、そして……え?これマジ?』
何やら放送部員の方が戸惑っているようです。
『え、間違いじゃないの?……えーっと、最後の部活はぁ』
少しためたあとに、
『帰宅部だぁ!』
『『『『はぁ?』』』』
意味が分かりません。
…………も、もしかして。
『えーっと、なんと部活動未加入の生徒たちが集まって帰宅部として参戦したそうで、正式に予選も勝ち上がったそうです。ぶっちゃけたことを言いますと、どうせ予選は勝ち上がらないと思った体育祭実行委員長がテキトーに許可した結果、見事予選を突破してしまったとのこと。ちなみになぜこのことが知られていなかったのかというと実行委員長より箝口令が出されたという経緯があります』
なんとまぁ……
『ちなみに帰宅部部長は桑田未亜とのことです』
や、やはりそうでしたか。
『ともかく!部活動対抗リレー男子の部は間も無くです!』
なんとも言えない空気のまま、最後のリレーが始まろうとしています。
アンカーの第4走にいるのは、
『おっとこれは、先程クラス対抗リレーで共に走っていた神坂怜、桑田未亜、武石諒平、邸快斗選手がアンカーにて対決です!』
仲の良いこの4人の対決。
見てみたかったと思っていた方もいたでしょう。
「サプライズ成功だね、未亜」
ちょうどクラスのテントがアンカーの位置と近いので4人の声が聞こえます。
「思ってたのとは違う空気になったけどな……」
「予選のとき一緒だったけど、まさかだったね」
「僕と諒平は予選の日が違ったからね。話を聞いたときは驚いたよ」
たしか予選は放課後に2日間かけて行われていました。
「未亜、お前にしては珍しいことしたな。なんでだ?」
「特に理由なんてないさ。ただちょいとばかし面白そうだと思ったからな。こんなのもたまにはいいだろ?俺らが競い合うこと自体レアなんだから」
たしかにそうかもしれません。
「それに俺からすればなんで快斗がリレー出てんのかが不思議だ」
「ボクはどうにもハンデ扱いらしい」
「まぁ、たしかに全員陸上部のスプリンターだったら怜のいるサッカー部にも難なく勝てそうだしな」
先程のクラス対抗リレーを見ると本当にハンデなのでしょうか?
「そうだね。僕も短距離専門の先輩には勝てないからね。……もう始まるみたいだ。できれば全力をつくしあおう」
「なんだできればって?」
「…………それは未亜が一番良く分かってるはずだよ」
それは一体どういうことなんでしょうか?
それにしても今更ながら盗み聞きしているみたいでなんだか悪い気持ちです。
ふと隣にいる美紅ちゃんの顔を見ると、何かを訝しんでいるような顔をしており、こちらに気づくといつものような笑顔を見せます。
「何のことだ?俺には分からん」
「そうか。せっかくだし、悔いなくやろう」
私は最近思うことがあるのです。
私は神坂くんのことさえ、ちゃんと知らない。
親友である美紅ちゃんのことも。
私にはどうしても踏み込む勇気が出ない。
…………そして桑田くん、私は彼のことを神坂くんの親友だということと、流れている噂程度しか知りません。
私はふとそこに不気味さといいますか、頭の中のどこかで引っかかっているように感じました。
もしかして、美紅ちゃんも…………?
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