Episode 006

俺はショッピングモールの本屋でラノベを2冊購入したあと、それを早く読みたいがためにモール内にある喫茶店に入ることにした。


そこはモールの端っこにあり、尚且つ目に留まりにくい装いなのであまり人がいない俺にとっての穴場だ。

別にコーヒーを飲むだけなら缶コーヒーでも買えばいいとさえ思ってる俺だが、やはり物静かな喫茶店の雰囲気の中、読書(ただしラノベ)するのはオツなものである。


いざ入店すると女性の店員がこちらに気づき、


「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」


幾度か来ているので、1人でも別段緊張とかはしない。

初めて1人で来た時は緊張したけど。


そして空いている席で良さげな席を探していると、またもや見知った顔と目が合ってしまった。

今日はよく知り合いと会うものだ。

といっても2人目なんだけど。


「桑田くんだ、ヤッホー」


若干悩んだがさすがに無視するわけにもいかず、彼女の元へ歩んだ。


「高柳か、こんなところにいるとは意外だ」


ただその2人目も『四大天使』なわけだ。

高柳美紅、『天真爛漫を絵に描いたような美少女』とよく言われている。

というか、高柳がこんな喫茶店で1人お茶してるとか想像つかないんだけど。

まぁ、目の前でスコーンと紅茶を嗜んではいるが。


「せっかくだしお喋りしようよ。ほら、そこに座った座った」


促されるままに高柳のテーブルを挟んだ正面にある椅子に座る。


「……………」


こう相席したはいいが、高柳とこうして会うのは初めてでどうにも気まずい。

葛西のときはまだその手に少女漫画があったから話題をふれたけど。


「むふふ、そんなにジロジロ見て、わたしの私服姿がそんなに良かったのかな〜?」


うむ、たしかにフリルデザインの白いトップスに黒いミモレ丈スカートはなんともフェミニンって感じで大人可愛い。

服装に合わせてか、髪型はポニーテールでシュシュでとめられている。

彼女自身が前にアイデンティティと言っていた緑リボンはどこへやら。

似合ってるんですよ?でもトレードマークは大事だと思うわけで。


「否定はしない」


「桑田くんってホント正直だよね」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


「もうなにか頼んだ?」


話題転換が突然すぎる。


「いや、まだ。今から注文する」


俺は店員を呼びホットコーヒーを頼んだ。

数十秒たらずで店員から運ばれてきた。

俺は砂糖とミルク両方入れて一口飲んだ。


「もう6月なのにホットコーヒー……」


「別にいいでしょうが」


「まぁ、まだ暑くはないけど。でもそろそろジメジメーっとしてくる時期だよね。わたし蒸し暑いの苦手なんだよねー」


「そりゃ好きな人はいないと思うけど」


俺は袋から先ほど買ったラノベ(カバー付き)を取り出して読み始める。


「ところで桑田くんは好きな人いるの?」


唐突にもほどがある。

なんなの?1つの話題が1分も保たないって。


「彼女は欲しいと思ってる」


「わたしが見る限り、桑田くんの言動は彼女が欲しい人のそれじゃないと思うんだけど」


そう思うなら、どうしてこの話題振ったんだよ……


「まぁいっか。じゃあ質問を変えよう」


話題がコロコロ変わるなホント。


「わたしのことどう思う?」


「なんだその質問?まさか俺が高柳のこと異性で好きとか勘違いなされてるんですか?」


「違うよ!もしそうならゴメンね?わたし神坂くん一筋なのっ」


「だから勘違いだって……まぁいいや、それで?」


ダメだ、高柳との会話はどうにも疲れる。

ただでさえ少し苦手な人物なだけに余計。


「単純にわたしのことどんな人に見えるかってこと」


単純にと言うが、余計に面倒な質問だ。

そんなことを俺に訊いてどうするのだろうか?

そもそもこの類の質問はなんとも答えにくい。

気をつかうのもそうだが、何より具体的な言葉で言い表わすのが難しい。

そして何より、俺は高柳のことをあまり知らない。

ぶっちゃけ答えようがない。

邪推はできるが、それをしたところで何にもならないのだから。

だから俺は正直に言った。


「分からないよ、そんなの」


これが事実なのだからしょうがない。


「テキトーに答えないあたりはやっぱり神坂くんと一緒にいるだけあるね」


ちょくちょくこの娘上から目線だよね。

気にしなければいい話なんだけど、一応ね?


「桑田くんって、優しいよね」


今度はなんだ?


「いきなりの褒め言葉どうもありがとう」


「そして優しくない」


おいおい、日本語大丈夫?

…………………とか思ったけどその表情を見る限りどうもふざけて言ってるわけじゃないのか。


「それ矛盾してないか?」


俺は素直に思ったことを口にする。


「そう、桑田くんって矛盾してるんだよ。基本自分勝手なのに他の人への思いやりがあったりね」


「貶されたのか褒められたのか分からないんだが」


「だから両方だって」


急な真面目トーンにも戸惑ったが、俺、高柳にそこまで看破(?)されるほど話した覚えがない。

やっぱりどうも苦手だ。

俺はコーヒーに口をつける。

すでに冷めかけていてぬるい。


「ねぇ、桑田くんって体育祭なに出るの?」


また出た、唐突の話題転換っ!


「基本全部出るだろ」


「そうじゃなくて。ほら短距離と長距離どっちとか」


「多分長距離だな」


うちのクラスは神坂を筆頭に運動できるやつは割といるが長距離が苦手なやつが多い。


「そっかー」


「気をつかって興味ない話題振るなよ。むしろ傷つくわ」


「ゴメンゴメン、お詫びといってはあれだけどそのコーヒーは奢ってあげる」


「遠慮するよ。こういうのは後々に貸しとして有効活用するのがセオリーだからな」


「それどんなセオリー?まぁいいっか、じゃあわたしはこのへんで」


彼女のスコーンと紅茶がいつのまにかなくなっていた。

いつ食って飲んだんだか。


「桑田くんじゃあね〜」


俺は手を振って彼女の背中を見送った。


「どこの誰だか『天真爛漫を絵に描いたような美少女』って言ってたけど、天真爛漫の意味知ってんのかなぁ、そいつ」


彼女が視界から消えてから、ふとそんなことを呟いた。

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