Episode 005

休日の日曜日、特にすることがなくテレビゲームのレベル上げを無心で行い続けて早5時間。

朝9時に起きて、昼の2時までぶっ続けだ。


「あ、カンストした」


どうやらレベル上げは完了してしまったらしい。


「暇だ。宿題出ないと暇だなマジで」


俺は思い立って、暇つぶしにショッピングモールに行くことにした。

最寄駅から上り線で1駅のところにあるので、よく利用する。

俺は見られても恥ずかしくないぐらいに身なりを整え、財布を持って家の玄関を出た。


「行ってきまーす」


両親とも愛しの妹の授業参観で家にいないので、家の扉の鍵をしっかり閉める。

最寄駅までは徒歩で5分。

意外とうちを含めたここら辺の家は便利だったりする。

学校は最寄駅から下り線で2駅。

今通っている曲輪田高校にした理由はほとんどこれによるものだ。


ショッピングモールにいざ着くと、やはり休日なだけあって人が多い。

そして何より家族連れやカップルが多い。

今となっては慣れてしまったが、やはり1人で来ることに若干の気恥ずかしさがある。


ここにきた理由は主に広い本屋だ。

今まで欲しかった本が手に入らなかったことがないほど充実しており、ここ近辺の読書家やオタクたちがこよなく利用する。

ちなみに俺はオタクより。


漫画エリアにて面白そうなモノを見つけるために徘徊していると、メガネをかけてはいるが明らかに見たことある人物と目が合った。

その人物はこちらを見て、固まりながらも動揺の表情が伺える。


「葛西、だよな?」


「桑田君……」


やっぱりそうか。

その人物はメガネをかけた葛西由紀子だ。

白ワンピがここまで似合う人も中々いないだろう。

ここらへんにあまり人がいないと思ったら、もしかして葛西が来たからじゃないのか?

ほら、なんとなく綺麗な娘が近くにいると気まずくなるあれ。


「もしかしてそれ、伊達メガネ?」


「はい」


「ごめん、はっきり言って変装にはなってない」


「えっ!?」


そんなに驚かれても……

見たことある人からすれば全く隠せていない。

ただその伊達メガネをかけた葛西は凛々しくなっているので、漫画エリアではなく、もっと教養の身につくような本棚にいればまさしくカッコイイ女性だ。


しかしどうして彼女がここに?

彼女が手にとっている本を見てみる。


「葛西、少女漫画が好きなのか?」


それはゴテゴテの少女漫画だった。

ゴテゴテすぎると有名な作品で、俺も少し読んだことある。


「えぇ、はい、そうなんです。あのッ、できればこのことは……」


なるほど、俺と目が合ってからソワソワしていたのはそういうことか。

その変装になってない変装をしているのも含めて。


「誰にも言わないよ」


「本当に、絶対ですか!?」


顔が近い。

どうしてそんなに知られたくないだろうか?


「うん、絶対他の誰にも言わないから。でも少女漫画が趣味の女子なんて今時珍しいものでもないだろ?ホントのとこは知らんけど」


「そうですか?でも一応、他言しないでくださいね?」


「分かった。まぁ俺も割とオタク趣味だし、他人の趣味をあれこれ言おうとは思わないよ」


「ありがとうございます」


丁寧にお辞儀までされた。

これ意外と戸惑うな。


「桑田君、意外と優しいんですね」


「まぁ、俺の女子からの評判は酷いからなぁ……」


俺は男友達は多いが、曲輪田高校の女子のほとんどに毛嫌いされているというか避けられている。

根も葉もない悪い噂なんてよくされるし、あからさまに俺から距離を取られたりする。


「それは、だって……」


「あぁ、でもアレ、、は事実だし、しょうがないとも思ってるよ」


「それと『神坂君からこぼれ出た甘い蜜を吸うクソムシ』という愛称が…」


またそれか!


「それを愛称とは呼ばないだろっ。愛が1つも見当たらないんですけど!」


「でも事実、なんですよね?」


「そうなんですよねー、クソムシを除けば事実だったりするんですよねー」


だって怜の影響力を利用しない手はないとは思わないだろうか?

その甘い蜜以上のリスク及び悪評判を背負ってるんだからそれぐらい良いじゃないか!

………………と自分に言い聞かせる。


「………………………辛くはないんですか?」


彼女のトーンが変わった気がした。

言葉で表すならば、お喋りではなく真面目な話をするような。

はぐらかしたら怒られそうだ。

葛西って怒ったら怖そう。


「そうだなぁ。なんとも思わないっていうと嘘になるし、そりゃ人並みに陰口言われたら傷つくけど……」


彼女は固唾でも飲んでいるのだろうか?

そんなことを思いながら話を続ける。


「でも別にそれはいいんだ。それは俺が望んだことだから」


「それは、どういう……」


俺は胸の前で音が少し出るように手を合わせる。


「はい、今日のところはここまで。次のエピソードに進めたければ怜の好感度を上げてください」


「なんなんですか、それ?」


ギャルゲーはさすがに知らないか……

乙女ゲーは好感度システムとかあんのかな?

まぁ、いいや。


「あぁ、そうそう。『辛くはないんですか?』という質問への答えとしては『No.』だ。別にぼっちってわけじゃないしね」


「たしかに桑田君って、なんだかんだで友達多いですよね」


「怜は俺の比じゃないけどな。じゃあ、俺はラノベエリアを徘徊するよ」


俺はその漫画エリアから立ち去った。

たしか昨日から発売されているであろう俺の好きなシリーズの新刊を探さなければ。


そんなどこかウキウキしている未亜の背中を見た由紀子はどこかチカラの抜けた笑顔で呟いた。


「なんか、羨ましいです……」


その言葉は彼女の無意識のうちから出たものだった。

彼女は未亜のどこを羨ましいと思ったのか、自問自答したが答えは出なかった。

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