15(ジョサイア視点)
ディオンヌが掃除に来る日が、妙に多くなった。
仕事の分担が変わっただけかもしれないが……。
もしかしたら希望してぼくの部屋に来てくれているのかもと思ってしまうのは、幼なじみの自意識過剰だろうか。
「行方不明の大公爵は、どうしているだろうか」
ぼくの独りごとも、最近は堂に入ってきた。
ディアンヌも掃除の手を止めることなく、パンッとスカートを軽く叩いた。
一度だ。
ブランドンからのコンタクトは、まだないらしい。
「ぼくらのように半分人間ならちょっとした心理的抵抗で済むけど、純血ヴァンパイアは招かれないかぎりは屋敷に入れない。何か動くときには娘であるきみに働きかけると思うんだけどな」
ブランドンはきっと父上に復讐をしにくる。
タイミングは正直読めないが、返り討ちにしてとどめを刺すには、そのときを置いて他にない。
逆に、待つのではなく、おびき寄せる方法はないだろうか?
直接みずからの目で見て確認したくなるようなこと――
たとえば、父上の訃報を流すというのはどうだろう。
「まあでも、簡単に死なないヴァンパイアの訃報なんて、すぐに罠だと勘づかれるのが関の山か」
ぼくは言いながら、引き出しに入れた薬包のことを思い出した。
先日、掃除にきたディオンヌがそっと机に置いてくれたものだ。
いくつか『独りごと』で確認したところでは、どうやらエレノアが持ち込んだものらしい。
成分を調べてはいないが、きっと毒薬だろう。
こんなもので父上を殺せると思っているのだから、何とも無邪気というか、能天気というか……。
しかも、みずからの手を汚すことなく、ディオンヌを利用しようとしたところがまた馬鹿げている。
誰よりも聡い彼女が、みすみす他人に利用されるわけがない。
彼女が行動を起こすなら、それは彼女の意志に基づいたときだけ――
「あ、そうか!」
つい声が大きくなってしまった。
背後で掃除をしていたディオンヌの動きが止まる。
でもそれがちょうどよかった。
ぼくは、あえて説明的な独りごとを言う。
「ディオンヌが犯人とわかるような方法で父上が亡くなれば、大公爵も疑うことなく娘に接触するんじゃないだろうか。たとえば、『全身の血がなくなった』とかね」
背後を見ると、ディオンヌと目が合った。
きれいな紅い目をしている。
こうやって見つめ合うのは、いつ以来だろう。
湧き上がる愛情を強く感じた。
きみは――
きみのほうにも、まだ愛はあるかい?
問いたくなったが、ぐっとこらえる。
まだ今は確認すべきではない。
すべての真実が明らかになったそのときに、対等な立場で決めてもらわなければ。
どうにか視線を切り、ぼくは再び背中を向けた。
思い出したかのように、二度、スカートの埃を払う音が聞こえてきた。
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