13(ジョサイア視点)
父上の心のうちを聞いてから、数日が経った。
ぼくは悩み、結論を出した。
父上の望みを叶えよう。
この国の政治という舞台から、ヴァンパイアを退場させる。
ブランドン大公爵と父上。
ふたりの純血ヴァンパイアの人生を賭した争いに決着をつけるのだ。
そのためには――
「ジョサイア様、失礼いたします」
「ああ、入ってくれ」
下を向いたディオンヌがぼくの部屋に入ってきた。
今日は彼女が掃除の当番なのだ。
顔を伏せ、ぼくのほうを一切見ないまま、彼女は部屋の掃除を始めた。
令嬢だったとは思えない見事な手際だ。
幼いころから利発だった彼女は、健気に、つらい運命を受け入れようとしている。
とても愛しいと思った。
でも――
ぼくは彼女と和解できていない。
馴れ馴れしくするのは、彼女に失礼にあたるだろう。
うかつに声をかければ、今の彼女の立場では嫌な顔ひとつすることができないのだから。
ぼくは、ディオンヌと結婚の約束をしていながら、エレノアという別の貴族の娘と婚約をしている。
父上が望んだことだが、ぼくはけっして望んでなどいない。
ディオンヌとの婚約を破棄するなど、ありえないことだった。
それでも。
父上の望みを、まずは叶えなくては。
「これは独りごとだ。独りごとが耳に入るのは罪ではない。使用人は空気のようなものだから」
ぼくはそう前置きして言った。
「肯定ならスカートの埃を二度払ってくれ。否定なら一度でいい。わかったか?」
一瞬の間のあと。
ディオンヌがスカートを二度払う音が聞こえた。
「復讐を考えている?」
二度払う音。
「それはぼく?」
一度。
心臓が高鳴る。
たしかに一度だ。
まあ復讐する本人に正直に答えるはずはないのだけれど。
それでももしかしたら、ぼくは彼女に恨まれてはいないのかもしれない。
「じゃあ、ぼくの父上か?」
無音。
「きみのお父上?」
無音。
「……復讐の相手は、真実を見極めてからということ?」
二度。
二度鳴った!
ああ……聡明だ。
ディオンヌ。
賢く美しい、ぼくの本当の婚約者。
ぼくはきみを早く抱きしめて、思いきり口づけしたい。
「ありがとう。部屋はもうきれいになった。また頼むよ」
スカートを二度払って、ディオンヌは部屋を出て行った。
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