11(ジョサイア視点)

 父上の部屋をノックすると、拒絶の言葉が返ってきた。


「入らないほうがいい。話はドア越しに聞こう」


 入室は相手の許可を得てから、というのは一般常識だ。

 でもそれ以上に、ジョーデン家における厳格なルールのひとつでもある。


 許可がない以上、父上の部屋には入れない。


 ……本来であれば。


「申し訳ない父上。今はどうしても顔を合わせて話したい」


 謝りながらぼくは扉を開けた。


 室内の様子が、目に飛び込んでくる。


 教会のような見た目だった。

 いや、こんな教会などありはしない。


 いたるところに十字架が飾られている。

 窓にも机にも、ベッドの脇にも。


 大小さまざまで。

 無数におびただしく。

 それこそ病的なほどの数だ。


「……父上、これは」

「だから入るなと言ったのだ。気分が悪かろう」

「いや、驚いただけだよ」


 ぼくは歯を食いしばって父上が寝ているベッドに歩み寄った。

 父上のほうも諦めたように息をつき、半身を起こした。


 その胸にも、大きな十字架のアミュレットが下げられている。

 本当に、徹底していると言うほかない。


「父上、ディオンヌのことで聞きたいことがある」

「……会ったのだな」

「彼女は避けていたようだが、同じ屋敷で暮らしていてずっと出会わないのは無理がある。いずれぼくらが再会することは父上だってわかっていたはずだ。言い訳を用意していないとは言わせないよ」


 肉親を相手に腹芸は不要。

 ぼくはひと呼吸置き、端的に訊いた。


「ディオンヌをぼくの妻として迎えなかったのはなぜだ?」

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