王子と魔女裁判
校舎の隅にある、今は使われていない教室。
黒いカーテンで光を遮られ、中は真っ暗だ。
唯一ロウソクの炎だけが、暗闇をゆらゆらと照らしている。
教室の中では黒いマントに身を包んだ男たちが、大勢で一人の男を取り囲んでいた。
「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」
口々にそう叫ぶ黒マントの男たち。
その中心にるのは、十字架に磔にされた王子だ。
その様相は、さながら中世の魔女裁判だ。
――カンカンッ!
木槌のたたく音により、男たちはいっせいに静かになった。
一人、裁判官のように教壇に立つ男が、静かになった信者たちを見回すと厳かに宣言する。
「静粛に!
これより裁判を開廷します」
「な、何だよ裁判て!?
外せ! これ外せよ!」
王子がそう抗議するが――
「被告人は台の前へ」
「いや、縛られてるから動けないし……。
って、ちょっ! なにするんだお前ら!」
――誰も取り合わず、王子は縛られた十字架こと、教壇の前に引きずりだされた。
「検察官、起訴状を」
あくまで裁判の体で進める裁判官役の男。
指名された検察官役の男が一歩前に出る。
「公訴事実、被告人は七瀬ちゃんに悪質な付き纏いを繰り返したものである。
よって死刑を求刑します」
「死刑!?
ま、待ってくれ!
これは冤罪だ!」
「――判決、死刑!」
「ちょっ!?
早い早い!
弁護士呼んで!」
「陪審員の皆様、評議をお願いします」
王子の抗議をよそに、裁判はサクサクと進んでゆく。
「死刑は確定でしょう。
あとはどうやって殺すかですね」
「なるべく苦しむ方法で死刑にしたいでござる」
陪審員役の男たちによって協議されているのは、なぜか罪状ではなく処刑方法だ。
「オーソドックスに火あぶりなんてどうだ?」
「それより水攻めは?
窒息死って苦しいらしいよ?」
「それなら閉じ込めて餓死の方がヤバくね?」
「うーむ、どれも捨てがたい」
「じゃあ全部やったら?」
「「「それだ!」」」
「それだ! じゃねぇっ!」
「――判決、フルコースで死刑!」
「だから判決が早いんだよお前は!」
「「「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」
「ひぃいいいいいいいいいっ!」
王子の死刑が確定し、一斉に沸くオーディエンス。
その狂気に思わず王子も覚悟を決める。
(も、もう駄目だ――!
母さん、先立つ不孝をお許しください。
天国の父さん、今から会いにいくよ――)
王子に死が迫ったその時――
「きゃーっ!
王子くんが大変な事に!
先生! 先生ぇ~~っ!」
教室の外からそんな女性の悲鳴が上がった。
「し、しまった!
見つかったでござる!」
「みんな、一時退却だ!」
「その命、あと少しだけ預けといてやるぜ!」
蜘蛛の子を散らすように教室を出ていく信者たち。
「た、助かった……」
助かったことに胸をなでおろす、縛られたままの王子。
すると――。
「フフーン。
助かってよかったね、王子先輩♥」
――そう言って王子の前に現れたのは、この騒ぎの元凶である萌黄だ。
「どうだったかな、さっきの悲鳴?
まさかボクだとは思わなかったでしょ?
自在に声色を変えれるんだよ、すごくない?」
「って、萌黄ちゃん!?」
「よかったね、助かって。
ボクのおかげだよ?
王子先輩、感謝してね♡」
「ふ、ふざけんな!
誰のせいでこんなことになってると思ってんだ!?」
「にしても間一髪だったよねぇ。
ねぇねぇ先輩、どうだったかな?
楽しかったでしょ?
スリル満点でドッキドキ~って感じで」
「楽しいわけないだろ、こんなの!
いい加減にしろ、この悪魔!」
「え~、ボクはこんなに楽しかったのに……」
「いいからさっさとコレ解け!」
「ぶー、分かった、分かりましたよ」
萌黄はふくれっ面を見せつつも、王子のロープをほどいていく。
「あと嘘ついたこと訂正しろよ!
俺がストーカーじゃないってみんなに言え!」
「え~、つまんないよそんなの~」
「いいから訂正しろ!」
「はぁ……分かりました、
訂正すればいいんでしょ?」
ロープをほどき終えた萌黄は、スマホを取り出し操作する。
「これでよし、みんな集まってくれるよ」
どうやら萌黄は自分の信者に集合のメッセージを送ったようだ。
「じゃあ行こっか、先輩」
「行くって、どこに?」
「ボクのファン達のところだよ。
ちゃんとみんなに説明しなきゃ」
「ほ、本当か? 本当に誤解を解いてくれるんだな?」
「もちろん、ボクが言えばみんな分かってくれるって」
「よ、よし、分かった……」
王子は言われるがまま、萌黄が信者を呼び出した場所へ向かう。
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