王子と追跡、萌黄を探せ!

 翌日、王子はさっそく行動を起こす。

 一年の校舎へ向かう通路で待ち伏せ、偶然を装い自然に話しかける作戦だ。

 狙い通り萌黄がやってくるのを見計らい、自然に挨拶を――


「やあ萌黄ちゃん。

 おはよ――」


「おいコラ!

 何してんだテメェ!」


 ――言い切る前に取り巻きの一人に凄まれてしまった。

 慌てた王子が「い、いや、ただ挨拶しただけで……」と言い訳をすると――


「勝手に挨拶してんじゃねーぞコラァ!」


「馴れ馴れしく名前で呼ぶなでござる!」


「やってやんぞ! マジやってやんぞテメェ!」


 ――さらに威圧される始末。


「ひいいいいっ!」


 情けない声を上げながら、退散するしかない王子であった。


 ――――――

 ――――

 ――


 王子とイアンの作戦会議。


「ど、どうすんだコレ?

 口説くどころか、萌黄ちゃんに近づくことすらできないぞ?」


『うーん、どうやらずっと取り巻きに囲まれてるようやし……。

 こりゃ学校内で口説くんは無理かもなぁ』


「……よ、よし。

 じゃあ下校時間を狙ってやる!」


 ――――――

 ――――

 ――


 その日の放課後、萌黄が校門から出てくるのを、学校の外で待ち伏せる王子。


「あ、出てきた。おーい、萌黄ちゃ……」


 校門をくぐり、期待通り一人で外へ出てきた萌黄に、声をかけようとしたその時――


 ――キキィッ!


 ――校門の傍、萌黄のすぐ横の車道に、黒塗りの厳つい車が一台横付けされた。


「な、なんだ?」

 あっけにとられて見ていると、車のドアが開き、黒スーツの男が一人外へと出てきた。

 スーツの上からでもわかるマッチョな体に、ヤクザのような強面の、身長2メートルはあるであろう大男だ。

 ふと、王子とその男の目が合う。


「ああん? 何だ貴様?

 邪魔だ、消えろ!」


「は、はいぃいいいいいっ!」


 凄まれ泣くほどビビった王子は、それ以上萌黄に近づくことができなくなってしまった。

 そんな王子を意に介さず、強面の男は萌黄に頭を下げる。


「MoE《モエ》さん、お迎えに上がりました」


「ありがとう、山田さん。今日は仕事だっけ?」


「いえ、しばらくはダンスレッスンだけの予定です」


「わかったわ、それじゃよろしく~」


 そして萌黄は車に乗り込むと、そのまま道の先へと消えていった。

 あっけにとられながら見送るしかない王子。


『さすが芸能人やなぁ。

 送り迎えとはガードが堅いやんけ』


 イアンの意見に同意の王子は、思わず頭を抱えてしまう。


「学校内でも無理で、外ではこのガード……。

 こ、これじゃどこにも隙が無いじゃないか……。

 ど、どうしよう、コレ?」


 八方ふさがりな状況――。

 するとイアンが不敵に笑う。


『クックック、それなら俺様に任せとけ』


 

     *



『クンクン……こっちや!』


「……本当に合ってるんだろうな?」


 不安げに尋ねる王子。

 イアンの打開策、それは匂いを追って萌黄の居場所を突き止めることだった。


『任せとけって言うたやろ。

 紺奈の時も臭いで居場所を突き止めてやったやん。

 ――っと、ココやな』


 イアンに言われて足を止めた場所。

 そこは――


「ダンススクール?」


 ――看板にそう大きく書かれたビルの前だ。

 六階建てで近代的なデザインの商業ビルで、その三階のフロアがダンススクールになっているらしい。


「ここに萌黄ちゃんがいるのか?」


『俺様の鼻は誤魔化されへん。

 ここで間違いないで』


 自信満々のイアンに――


「鼻って……ぬいぐるみなのに……」


 ――思わず眉を顰める王子。


『ええから行けや!

 実際に見に行けばホントかどうか分かるやろ』


「わ、分かったよ」


 イアンに急き立てられ、王子はエレベーターで三階へ。

 ダンススクールのあるフロアは、中の様子がうかがえるよう、入口が全面ガラス張りになっていた。

 鏡の前でダンスのレッスンを受けている生徒たち。

 中からダンスミュージックが聞こえてくる。


『おー、いっぱい踊っとるなぁ』


「この中に萌黄ちゃんが?

 ……うーん、見当たらないんだけど」


『お、アレちゃうか?

 ほら、そっちの端で一人で踊っとる』


「え、どこどこ?」


 さらに中を窺おうと、入口のガラスに張り付く王子。

 と、そこへ――


「ちょっと君、何やってるの?」


 ――王子を不審者と見た女性のダンスインストラクターが声を掛けてきた。


「覗きならお断りよ。

 帰ってもらえるかな?」


「あ、いや、ち、違います!」


「だったら見学?

 なら受付に……ん? アレ?

 君、どこかで見た事が……」


 そこで何かに気付いた様子のインストラクター。


「――って、ああ!

 もしかして、幻のプリンスくん!」


 そう言って王子の顔を指さした。

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