王子と七瀬萌黄(小悪魔系アイドル)
その日の昼休み――。
(どうだ、イアン?)
『やっぱおらんなぁ。
次のターゲット』
今日もイアンを伴って、校舎を徘徊しキスのターゲット探しをする王子。
『残り半分になって、徐々に見つけにくくなってきとんな』
(なんだよ、サクッと決めてくれよ)
『あのな、俺様が選んどるワケやないっちゅーねん』
(できれば次は嫌なヤツにしてくれよ。
騙してキスしても心が痛まないようなヤツな。
紅葉先生みたいにキツイのはもうやだし)
『だから俺様が選んどるんとちゃう言うてるやろ』
そんな軽口をテレパシーしながら廊下を歩いていると――
「こんにちはー!
貴方が王子先輩ですか?」
――と、背後から声がかけられた。
振り返ると、そこにいたのは一人の女子生徒。
ピンクブロンドのツインテールの美少女。
小学生と見紛うほどの幼い容姿だが、胸は成人女性の平均サイズを大きく上回っているようだ。
そんなロリ巨乳美少女に、王子は見覚えがあった。
「えっと、君は……。
確かアイドルのMoE《モエ》ちゃん……」
咄嗟に本名が出ず、芸名で彼女を呼ぶ王子。
その瞬間――
「おいコラ! 誰がMoE《モエ》ちゃんじゃ!」
――王子に向けて、そんな怒号が飛んできた。
改めて確認すると、後ろにいたのはロリ巨乳だけでなく、彼女に率いられているように大勢の男子生徒が控えていた。
「気安く“МoEちゃん”なんて呼んでんじゃねーぞテメェ!」
「七瀬さんって言えや! 学校で芸名は禁止じゃゴラァ!」
「え、え、えぇえ?」
よくわからない理由で凄まれ、恐縮してしまう王子。
その様子を見ていたロリ巨乳が――
「こぉら、みんな! ダメだよ、そんな態度は!」
――と、王子と取り巻きの間に割って入った。
「相手は先輩なんだから。
失礼な態度とっちゃダメだよ、一応ね♡」
「す、すいません、七瀬さん」
「つい興奮してしまって……」
可愛く注意するロリ巨乳に、素直に従う男子生徒たち。
『おお、思い出したで』
そこでイアンが何かをひらめいたような声を上げた。
『確かこのロリ巨乳、前に動画で見たアイドルやろ。
学園の三大美女で、『嘉数高校のプリンセス』って呼ばれてる……。
えっと、名前は……』
「
『おう、それや!』
名前を思い出せないイアンの言葉を継いで、王子がロリ巨乳――七瀬萌黄――に話しかけた。
萌黄は少し驚いた表情を見せるも、ニッコリと笑顔で王子に答える。
「へー、王子先輩、私の事知ってるんですか?」
「も、もちろんだよ。
現役アイドルって事で学校じゃ有名だし。
それにしても……」
王子は改めて萌黄を観察する。
(話題のアイドルだけあって確かに可愛いな。
目がおっきくてアニメキャラみたいだ。
それにこの巨乳――!
紅葉先生ほどじゃないにしても、幼い容姿にコレはギャップがエグいぞ!)
「んー? 王子先輩、どこ見てるのかなぁ?」
「あ、いや! ア、アハハ……。
と、ところで萌黄ちゃんは俺に何か用かな?」
怪しい視線を気づかれた王子、慌てて話題を逸らした。
それに萌黄が「最近、王子先輩って話題じゃないですか」と乗ってくる。
「だからどんな人なのかなって、興味を持って。
ねぇ先輩、あの校内新聞の噂、どこまで本当なんですか?」
「え、あれ?
あんなの全部、真っ赤な嘘だよ。
いやぁ、困っちゃうよねぇ。
ちょっと有名になっちゃうと、すぐある事ない事書かれちゃうんだから」
「えー、そうなんですか?
でもクラスメイトの黒子ちゃんからは、王子先輩の事を色々と聞いてるんですけど」
「く、黒子ちゃん?」
思わぬ人物の名前を聞き、王子は思わず狼狽えてしまった。
「ダ、ダメダメ!
あんな子の言う事なんか信じちゃダメだよ。
何考えてるのか全く分からないような子なんだから」
「ふーん……。
じゃあ全部デタラメだって言うんですね、先輩は」
「もちろん!
いやぁ、有名税って怖いよね?」
アッハッハ――と、誤魔化すように笑う王子。
だが萌黄は――
「あーあ、つまんない。ガッカリですよ先輩」
――と、呆れたように肩をすくめた。
思わぬリアクションに、思わず「へ?」と間抜けな声を漏らす王子。
萌黄はつまらなそうに頭を振ると、見下したような視線を王子に送る。
「黒子ちゃんから話を聞いて、面白そうな先輩だと思ってたのに……。
さっきから言い訳と陰口ばっかりですごくダサいですよね~」
「なっ!」
「外見は確かにイケメンだけどぉ。
中身は全然ダメっていうか……。
すごく童貞っぽいかも」
「ぬぁあっ!」
どうやらこの数分で、萌黄は王子に対する興味をすっかり無くしてしまった様子。
(黒子ちゃんに煽られて思わず会いに来ちゃったけど……。
興味持てないなぁ、これじゃあ)
「あーあ、無駄足かぁ。
もういいや、みんな、行こ」
取り巻きを連れ、立ち去ろうとする萌黄
「それじゃ先輩、バイバーイ」
「ちょ、ちょっと待て! おいっ!」
バカにされたと感じた王子は、思わず萌黄に追いすがろうとする。
だがそんな王子の目の前に、萌黄の取り巻きの男子生徒たちが立ちふさがる。
「ひっ!」
思わずビビる王子に、男子たちが睨みを利かせる。
「お、おい貴様! 七瀬さまに何する気でござる!」
「先輩かなんか知らんが、いてまうぞボケ!」
「このクソが……やってやんぞコラァ!」
そんな彼らの迫力に――
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
――速攻で屈し詫びを入れる王子。
「ホラみんな! 先輩に手を出しちゃダメだよ!」
「「「はーい!」」」
萌黄の言葉にそろって返事をした取り巻きたちは――
「優しい七瀬さまに感謝するでござるクソ野郎」
「二度と彼女に近寄んな、このクズ男が!」
「――ぺっ!」
――最後に唾を吐き捨て去っていった。
彼らの姿が見えなくなったころ――
「な、何だアイツら……」
ショックから立ち直った王子がようやく言葉を発した。
「ぐぬぬ、好き勝手言うだけ言って帰って行きやがって!
何が三大美女だ、性格は最悪じゃないか!」
『性格に関しては、王子も人の事言えんけどな』
イアンのツッコミも意に介さず、怒りをあらわにする王子。
「くっそぉ、腹の立つ!
紅葉先生みたいないい人じゃなくて、アイツみたいな性悪がターゲットだったらよかったのに。
たとえキスしたあとゴミのように捨てても、アイツだったら良心が痛む事は無かったのになあ」
すると――イアンから思わぬ提案が。
『ふーん、じゃあ、あの萌黄って子とのキスを狙ってみるか?』
「へ、何で? アイツ、ターゲットじゃないんだよな?」
王子は前に三大美女の話が上がった時の事を思い出した。
あの時イアンは、三人のうちターゲットは別の二人で、萌黄は違うと言っていたはずだ。
だがイアンは『それはあの時の話や』と、以前の会話を否定する。
『ターゲットになる条件は、『俺様の愛人と共通点のある事』と『王子の知り合い』である事の二つって言うたやろ。
ちなみに王子、あの萌黄と話をするんは今日が初めてちゃうか?』
「そうだけど……って、まさか!」
『王子と話すことでフラグが立ったんやろな』
ハッとする王子に、得意げな様子でイアンが告げる。
『――七瀬萌黄、アイツが次のキスのターゲットやで!』
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