王子とアイドルとストーカー

 今回から更新日が変わります。

 今後は週二回、水曜と土曜の19~20時更新でいきたいと思います。

 やる気が出るとストックが増えて更新も増えると思いますので、よければ応援よろしくお願いします。

――――――――――――――――――――


 王子の通う嘉数高校の校舎――

 一階は一年、二階は二年、三階は三年というように、階数ごとに学年の教室が分かれている。

 その一階――一年のフロアにある一室の教室では、いつものように男子の人だかりができていた。


「な、七瀬さん、おはようございます!」

「今日も可愛いでござる、七瀬さま!」

「おはよう、七瀬さん!」


 群れた男子たちが次々と挨拶をする。

 その男子生徒の群衆の中心にいるのは、ピンクブロンドのツインテールが特徴的なロリ巨乳。

 アニメから抜け出してきたかのような容姿が受け、ただ今ネットで人気上昇中のアイドルMoE《モエ》――本名“七瀬萌黄ななせもえぎ”――だ。


「おはよー、みんな!」


 その容姿にぴったりのアニメ声で、周りに集まった男子生徒――当然MoE《モエ》のファンたち――に笑顔を振りまく萌黄。


「昨日のテレビ見たよ! アイドル特番!」


 ファンの男子からのそんな声に――


「ありがとー!

 でもボク、ちょっとしか映ってなかったでしょ?

 こんな可愛いボクの事、もっと使ってくれてもいいのになぁ~」


 ――と、ちょっぴり悲し気な表情を作ってみせる。

 すると効果覿面、フォローするように男子たちが騒ぎ出す。


「そうだそうだ! 七瀬さんの露出をもっと増やすべきだ!」

「俺、テレビ局に意見送るよ!」

「俺も、俺も!」

「俺なんかスポンサーにクレーム入れちゃうから!」

「MoE《モエ》ちゃん最高!」

「あってめ! 学校で芸名はやめろって言われてるだろ!」

「じ、じゃあ萌黄ちゃん!」

「ふざけんな! みんな平等に名字で呼んでんだよ、抜け駆けすんな!」

「そうだそうだ! 七瀬さんはみんなの七瀬さんなんだぞ!」


 騒ぎが揉め事に発展しそうになり、慌てて萌黄が止めに入る。


「あーん、ダメだよ喧嘩なんかしちゃ!」



「は、はい!」

「分かりました七瀬さん!」


「みんな仲良く、ねっ♥」


「「「「「カ、カワイィ~~ッ♥」」」」」


 可愛くウインクして見せる萌黄に、男子生徒たちはもうメロメロだ。

 一方の萌黄はというと――


(うーん、何だか最近はマンネリ気味だなぁ)


 ――彼らのリアクションに少々食傷気味の様子。


(チヤホヤされるのは好きだけど、同じことばっかりだと飽きちゃうよねぇ。

 あーあ、何か楽しい事ないかなぁ?)


 と、そのとき、萌黄の視界にある人物が映り込む。

 長い黒髪を三つ編みにし、大きな黒縁の眼鏡をかけた野暮ったい女子生徒が、スマホを見ながら教室に入ってきたのを見つけたのだ。

 その人物を認識した途端、萌黄の表情がパッと輝いた。


「と、ところで七瀬さん。この後の――」


「あ、ちょっとごめんね~」


 男子生徒の一人からの話を遮り、ファンの群れから抜け出して、萌黄はその黒髪の少女の方へ駆け寄っていく。


「黒子ちゃんおはよー!」


「あっ……」


 萌黄が見かけた女生徒――それは十文字黒子だった。

 急に声を掛けられた黒子は、スマホを持ったまま手をバタバタと動かして動揺を見せる。


「あ、お、おはよう、七瀬さん」


「アハハ、何その動き?

 やっぱ黒子ちゃん面白ーい!」


 おかしな動きの黒子の様子に、萌黄は思わず笑い声をあげた。

 萌黄にとって黒子は、最近仲良くなったばかりのクラスメイトだ。


(最近話すようになったばかりだけど、面白いよね黒子ちゃん。

 今まで私の周りにはいなかったタイプだよ)


 仲良くなったきっかけは、黒子と王子のスキャンダル。

 校内新聞のインタビューを読み、興味を持って接近したのだ。


「ねぇ、何見てるの?

 あ、また王子先輩の写真?」


 黒子が持ったままのスマホに気付きのぞき込む萌黄。

 画面にはいつ撮ったのか、王子が紅葉先生と並んで歩く隠し撮り写真が映っていた。

 それを見て思わず顔をしかめる萌黄。


「これって紅葉先生だよね?

 もしかしてまた別の女口説いてるの?

 王子先輩って噂通り女の敵だね」


 すると黒子は、興味を持ってもらえて嬉しかったのか――


「こ、これは先日撮った写真で……。

 ほ、他のも見る?

 こっちは今朝の王子先輩。

 他にも王子先輩の写真ならたくさんあるけど……」


 ――と、ノリノリで自分の写真コレクションを見せようとしてくる。

 ちょっと困った顔になった萌黄は、ふと気になったことを聞いてみる。


「……ちなみに、王子先輩の写真って、全部で何枚くらいあるの?」


「な、何枚って言うか、動画も含めて……100Gくらい?」


 写真で約5万枚、動画でも15時間以上撮れるデータ量だ。


「ぜ、全部見たいの?」


「い、いい、絶対見ない」


 慌ててブンブンと首を横に振る萌黄。

 そして――


「それにしても黒子ちゃんて、王子先輩の事ホントに好きなんだね~」


 ――萌黄は改めて思ったことを口にした。

 だが――


「――――は?

 何言ってるの、七瀬さん?」


 ――黒子は真顔でそう返してきた。

 本気で理解ができていない様子。


「へ? あ、あれ?

 だって、好きだから隠し撮りしてるんじゃないの?」


「ち、違うよ、逆だから。

 王子先輩の方が、私の事を好きなんだって」


「……え?」


 黒子の言ってる意味が分からず、思わず聞き返す萌黄。


「王子先輩の方が、黒子ちゃんを好きなの……?」


「う、うん、そうなの。

 私は王子先輩の事なんて、何とも思ってないんだけど……。

 王子先輩が私を好きだっていうから、仕方なく見張っていてあげてるだけなの」


「で、でも好きなら黒子ちゃん以外に興味ないんじゃないの?

 今、色んな女子に手を出して、めっちゃバッシングされてるよね?」


「あ、あれは立派な男になる特訓だと思うよ?

 彼ったら私にふさわしい男になりたいみたいだし」


「へ、へぇ、そうなんだ…………」


 黒子の言葉を聞けば聞くほど、混乱してしまう萌黄。

 だが――


(ヤ、ヤッバ。

 黒子ちゃん、想像以上に面白いんだけど)


 ――どうやらその変なところが、萌黄にとっては琴線ポイントらしい。


(聞けば聞くほど電波だね、黒子ちゃん。

 ――そうだ!)


 何か面白い事を思いついたようで、萌黄は悪い笑みを浮かべて黒子に尋ねる。


「ねぇ、黒子ちゃん。

 黒子ちゃんは王子先輩の事、好きじゃないんだよね?」


「う、うん、別に好きじゃないけど……」


「それじゃーさー、ボクが奪っちゃってもいい?」


「え……?」


 萌黄の言葉に一瞬動きが止まる黒子。

 だがすぐに「べ、別にいいけど……」と、返してきた。


「えー、ホントにぃ?

 無理してない?」


「う、うん。で、でも……」


「でも?」


 すると黒子は、萌黄に向かって心底申し訳なさそうに告げる。


「……七瀬さんには無理なんじゃないかな?」


「――にゃんですと?」


 思ってもみなかった黒子の言葉に、思わず猫になってしまう萌黄。


「ボクには無理?

 どういう事かな、黒子ちゃん?」


「だ、だって彼は私の事が好きなんだし……。

 七瀬さんが傷付くだけなんじゃ……」


「かっちーん!

 それってボクに対する宣戦布告なの?」


「ち、違うよ、そんなんじゃ……。

 ただ、七瀬さんが心配で……」


「むっきーっ!

 それが喧嘩売ってるんだにゃー!」


 興奮するほど猫になっていく萌黄。



(ぐぬぬ、面白いじゃない!

 黒子ちゃんにここまで言わせる王子先輩、流石にボクも興味津々だよ!

 最近退屈していたとこだし、どんなヤツか見に行ってやるにゃー!)


 そして本人も知らないうちに、萌黄に興味を持たれてしまった王子であった。

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