王子と遭遇、生徒会長再び!

 翌日――学校へ向かう王子の足取りは重い。

 物憂げに「はぁ……」とため息をつくと、いつもの道をトボトボと歩く。

 その様子に――


『今日はえらい黄昏てんなぁ』


 ――と、カバンの中からイアンが声をかけた。


『どうしたんや王子?』


「いや……そういえば紅葉先生、今頃どうしてるのかなって……」


 紅葉と別れたのが一昨日の事。

 さらに一晩経っても、まだ王子は気持ちに整理がついていない様子。


「紅葉先生、昨日もちゃんと学校には来てたみたいだけど……。

 あれから合わせる顔が無くて、保健室に近寄る事も出来てないんだよね……」


『なんや、まだ引きずっとんのか?

 とっとと忘れて次に行かんかい』


「わ、分かってるよ」


 解呪まであと五人とキス。

 それが出来なければ死んでしまう。

 嫌でも気持ちを切り替えて、次のターゲットを探さなければいけない。

 そのことは王子も分かってはいるのだが……。


「でも次か……なんだかなぁ……。

 また同じことになりそうで……」


 やはり負ったばかりの失恋の傷で、臆病になってしまっている様子の王子。


『おいおい、そんな調子でどうすんねん。

 ウジウジしとらんと気合い入れんかい!』


「そうはいってもなぁ……」


『解呪まであと五人もおるのに、悩んどる暇なんかないやろ!』


「分かってるけどさぁ……」


『ええんか、このままやと死んでまうんやぞ?」


「でも……だって…………」


『こ、この優柔不断が……って…………』


 発破をかけるのに失敗したイアンは、少し逡巡したあと攻め方を変えてみる。


『いやまぁ、そうやな。

 王子は辛い別れを経験したばっかりやもんな。

 気持ちは分かんで』


「そ、そう?」


『しかし……つらい別れを経験したからか、一回り成長したんちゃうか?

 なんやいつもより立派な男に見えんで王子』


「へぇ、そっか……って、騙されないぞ。

 そんな褒め言葉で持ち上げて、何を企んでるんだイアン?」


『いやいや、マジで言うてんねん。

 ホラ思い出してみ?

 皐月かてお前を『大人びて見える』って言うてたやろ』


「む、そう言われれば……」


『今まであの母ちゃんが、王子の事を男として褒めたことがあるか?』


「し、失礼だな!

 そのくらいは……アレ?」


 王子が思い返してみるも、確かに母親の皐月から褒められた覚えがない。

 家事に関しては感謝してくれているし、料理を作ればおいしいと言ってくれる。

 でもそれは男としてというよりは、主婦――主夫としてであって、男としての誉め言葉ではない。

 あるとすれば容姿に関してだが、それも「父親に似て」という枕詞が付く。


『どや?

 褒められたことよりけなされたことの方が多いんとちゃうか?

 父親と比べてダメだ~って感じのこと、よう言われてるやんけ』


「ぐぬぬ……た、確かに……」


『そんな皐月が『大人びて見える』っちゅうたんや。

 これはもう王子が立派に成長したっちゅう証やろ』


「そ、それは……」


『人間だれしも悲しい別れを経て成長するもんや。

 王子もこれでもう立派な大人やろ』


「そ、そうかな?」


『大人になった今の王子なら、大抵の女は落とせるんちゃうか?

 いままではイケメンというポテンシャルだけで勝負してきたけど、そこに大人の魅力が加わればもう無敵やで』


「い、いや、さすがにそんな自信は……」


『謙遜することはないで。

 なんだかんだ言って十人のうち、半分はすでにクリアしたやんけ。

 間違いなく男としてレベルアップしとるわ。

 王子はもっと自信もってええで』


「ホ、ホントに?」


 最初は疑心暗鬼だった王子も、イアンにおだてられ徐々にその気になってきたようだ。


『おー、間違いないわ。

 せやから王子……』


 それを機と見たイアンがここで攻勢に出る。


『そろそろ……アイツいってみたらどうや?』


「……アイツって?」


『決まっとるやんけ――』


 そして本題を切り出すイアン。


『生徒会長の紫織や』


「――し、紫織さん!?」


『ターゲットやって分かってんのに、ずっと放置してたやろ。

 そろそろ攻略に乗り出してもええんちゃうか?』


「ム、ムリムリ!

 絶対にムリ!」


 紫織の名前が出た途端、青ざめてブンブンと首を振る王子。



『何でや? いい加減チャレンジしてもええやろ?』


「だから紫織さんはダメだって言ってるだろ!

 紫音さんだけは苦手過ぎて無理だって!」


 と、そのとき――


「私が――なんだって?」


 ――そんな声とともに現れたのは、話題に上がっていた人物。

 嘉数高校一のクールビューティにして生徒会長の八神紫織だ。


「し、紫織さん――!」


「どうやら今、私の話題が出ていたようだが?」


 そう言って紫織は辺りを見回し、訝しむように首を傾げた。


「……おや? 誰もいないな。

 王子くん、今いったい誰と話していたのかな?」


「いやその……ただの独り言で……」


 慌てた王子は、何とか誤魔化そうと話題を変える。


「と、ところで、紫織さんこそどうしてここに……?」


「なに、登校中に君の姿が見えたからね。

 丁度いいから一言言っておこうと追いかけてきたのさ」


「お、俺、何かしましたか……?」


 恐々と尋ねる王子に――


「また君はスキャンダルで学校を騒がせているようじゃないか」


 ――と、紫織の鋭い眼差しが突き刺さる。


「王子くん、私は別に恋愛するなとは言わないよ。

 だが、やり過ぎだ。

 君はもっと学生らしく、節度を持った方がいいだろう」


「は、はい……」


「しかしまぁあの校内新聞のせいで、君も随分と嫌われたようだね。

 いつも君を取り巻いていた女生徒たちが、すっかりいなくなっているじゃないか」


 そう言って再度辺りを見回す紫織。

 確かに以前の王子であれば、登校中でも女の子に囲まれていたはずだ。


「そ、それは……」


「このスキャンダル騒ぎ、君にとっては災難だろうが……。

 うん、これはいい機会だよ、王子くん」


 何かを思いついた様子の紫織。


「君はこれを機に中身を磨いて、本当の意味でカッコよくなる努力をした方がいい。

 外見だけで寄ってくるような浅薄な女子で満足せずにね。

 それが君の将来のためだよ」


「は、はい……」


「ああ、あと、最近は生徒会室に来ていないようだね。

 いい心がけだよ。

 ぜひこのまま姉離れして、自立した人間になりなさい」


「は、はい……」


 『はい』しか言えなくなった王子に――


「『はい』は短くハッキリと」


 ――と紫織の檄が飛ぶ。


「――っ! はいっ!」


「よろしい、では」


 最後にそう言い残し、先に学校へと向かう紫織。

 その姿が見えなくなるまで見送ったあと――


『うーん、たしかにアレは王子じゃ無理やな』


「うぅ……こ、怖かった……」


 ――王子はようやく気を楽にするのであった。


――――――――――――――――――――

 ストックが厳しくなってきたので、5月からまた少し更新頻度を落とします。

 今後は週二回、水曜と土曜の19~20時更新でいきたいと思います。

 やる気が出るとストックが増えて更新も増えると思いますので、よければ応援よろしくお願いします。

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