閑話:四阿白雪の回顧録

【閑話:四阿白雪の回顧録】


 私――四阿白雪は生まれながらの天才アーティストよ。

 歴史的な芸術作品を生み出すべく、神に選ばれこの世に送られた存在なのだわ。

 え、何をバカな事をって?

 ウフフ、凡人はみんなそう言うわね。


 そんなアートの化身である私は、美しいものが何よりも好きなの。

 絵画、彫刻、音楽、現代芸術といったアートは言うに及ばず、人間の美貌や車の機能美など、ありとあらゆるものに宿る『美』に惹かれてしまう性があるのだわ。


 だから私は彼――王子野王子くんに惹かれた。


 彼に初めて会ったのは中学時代、二年生の私のクラスに一年の彼がやって来た時ね。

 同じクラスの二階堂朱音と幼馴染だとかで、彼女に会いに来たのが最初だったわ。


 ――彼を見た瞬間、私の全身に衝撃が走った。


 そこに立っていたのは、まさに生きた芸術品と言うべき人間だったわ。

 調和のとれた体型に、神秘性を感じるほど整った容姿。

 全ての人の理想を体現したかのような美を湛える彼は、きっと神に作られた作品に違いないと感じたものよ。


 その時から私は彼のファンになった。


 とはいっても、彼の取り巻きの様に、男として、アイドルとして見ていたわけではないわ。

 あくまでアートとして、芸術作品としての彼に興味を持った、そんなところかしら。

 彼とは中学高校と一緒の学校だけど、一流の芸術作品に触れた時に感じる心の豊かさを、たまに見かける彼から受け取っていたわね。

 つまり私と彼は、作品と観客の関係だったのだわ。


 ――その関係が少し変わったのは、あの校内新聞を読んでからかしら。


 無理解な聴衆にいわれなき批判を受ける彼。

 その姿が自分の姿と重なったわ。

 私も天才であるがゆえに、無理解な凡人等によって批判される事も多かったから。

 彼に少し共感することで、芸術作品から一人の人間として接するようになったのよ。


 人間として接するようになってからの王子くんは、それはとても魅力的だったわ。


 ますはその、人を虜にする才能。

 見た目の美しさに加え、人の心を読むのが天才的に上手かったわ。

 私も一時的には騙されたもの。

 王子くんを自分と同じ中二びょ……じゃなくて、周囲に理解されない孤独な天才だと信じきっていたもの。

 後にそれが嘘で演技だったと知らされるまで、彼の事を本気で好きになったくらいよ。

 きっと彼は、他人が何を望んでいるのかを瞬時に感じ取ってしまうのでしょうね。


 ――え、それは本当に彼の才能なのかって?

 そう言われてみれば、最初に話した時の彼は、女心のかけらも分からないようなバカに感じたけれど……。

 もしかして誰かブレインが……?

 例えばぬいぐるみとか……?


 ……まぁいいわ。

 ともかくその才能が、彼の美貌以上に多くの女性を狂わすのよ、きっと。


 そしてもう一つ、何より魅力的なのがオカルトね。

 何と彼は――世にも珍しい『呪い』を受けた人間だったのよ。


 その呪いの効果は女性に触れられなくなる事。

 呪いを解くには十人の女性とキスしなければならない。


 ああ――なんて特別でオリジナルな人生なのかしら!


 その後に紹介されたイアンちゃんも素敵だったわ!

 まさか動いて話せるぬいぐるみなんて存在するとは思わないじゃない!


 でも、やっぱり気になるのは王子くんの方ね。

 私以外にも三人とキスをして、現状でも相当な修羅場に思えるわ。

 それなのにこれからまだ六人もの女性とキスしなきゃいけないなんて……。


 ――そんなの、楽しみ過ぎるじゃない!


 だから決めたのよ、私は彼の人生の観客になるって。


 今までの彼は、私にとって芸術品だった。

 だけどこれからは、まるでフィクションのようなその人生を、特別な観客として楽しませてもらうわ。


 だから……これからもよろしくね、王子くん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る