王子と新たな二択作戦
デートを終え、自宅に戻ってきた王子。
いつ便意に襲われてもいいように、トイレに籠ってイアンと作戦会議をしていた。
「で、イアン。これってどういう事?
キスを迫れば上手くいくんじゃなかったの?」
『いやぁ、悪い悪い。
俺様ともあろうものが、ちょっと読み違えたみたいやなぁ』
「読み違えたって……それで済む話じゃないよね?
ここまでの腹痛に耐えて、随分と頑張ったつもりなんだけど?」
『うーん、まさか紅葉があんな覚悟をしとったとはなぁ。
どうやら先生と生徒の関係である間、王子と一切男女の関係になるつもりは無いみたいやで。
こりゃ厄介やわ』
「これまでの苦労が水の泡じゃない?
どうすんの、ねぇどうすんの?」
『えーい、しつこいねん!
失敗は誰にでもあるやろ!
それをネチネチと煩いねん!』
「だから『大丈夫か?』って聞いたよね?
こんな事ならキスを急がずに、しばらく様子を見た方が良かったんじゃないのか?」
『いやいや、それは関係ないっちゅーねん。
あと二年はキスする気がないってハッキリ言うとったやんけ。
多少様子見たからって、あの紅葉が意見を変えるわけがないやろ』
「うっ、そう言われれば確かに……」
『だからまぁ、今日で勝負かけたんは間違いやないで。
むしろ早く問題点が分かって、対応策も考えられるっちゅうもんや』
「対応策って……何かあるのか?」
『うーん、それがなぁ。
前にも言うたが、優柔不断な人間は、一度決断した事には頑固なんや。
これを変えさせるんは相当大変やで』
「……だよなぁ。
俺もあの紅葉さんが、意見を変えるとは思えないし」
『こうなったらもう一度“究極の二択”作戦を決行するしかないやろな』
「ま、またアレをやるのか?」
学校の外で会うか――それとも二度と会わないか――。
そうやって二択を迫り、紅葉にデートの約束をさせた。
イアンはそれと同じ方法をもう一度やるという。
『頑固な奴の考え方を変えさせるんは、そのくらいせんと無理やからな』
「つ、次はどんな二択を……?」
『ふっふっふ、それはやな……』
勿体ぶりつつ発表するイアン。
『キスをするか――
それとも別れるか――や』
「――っ!」
『もちろん今のままやとアカン。
今の段階で二択を迫ったら、キスより別れを選ぶ可能性が高そうやからな。
やるなら今よりもっと親密になってからや。
王子から離れられんくらいに惚れさせてから、再度キスを迫るんや』
「紅葉先生ともっと親密に……」
そう言われて王子が思い出すのは、楽しかった紅葉との時間。
このまま作戦を続けると、それを汚してしまうような――。
『……? どうした王子?
急に黙り込んで?』
「……なぁイアン」
なんとなく――これ以上作戦を続けるのが嫌になった王子は、別の方法をイアンに提案する。
「……紅葉先生に、正直に言ったらだめなのか?」
『正直に? 何を言うんや?』
「だから……呪いの事だよ。
白雪先輩の時みたいに、呪いの事を正直に話して協力してもらえば……」
『――アホか!』
そんな王子の提案をイアンは一蹴する。
「この呪いは知る人間が増えるほど強力になるっていうたやろ!
せやのに簡単に秘密をばらすって言うな!』
「で、でも一人や二人くらい増えたって大丈夫だって言ってただろ?」
『その油断が命取りになるんやで!
白雪の事かて、王子が考えなしにばらしたせいで、アイツに弱みを握られたんやぞ!
同じ失敗をまた繰り返すつもりなんか!?」
「だ、大丈夫だって。
結局白雪さんも、秘密は誰にも話してないだろ?
だから大丈夫。
紅葉さんも秘密をベラベラ喋るような、そんな人じゃないから」
『はぁ? そんな人やない?
お前、紅葉の事をどこまで知っとるつもりや?』
「ちゃんと分かってるよ、紅葉さんはいい人だって」
『いい人ぉ? なんやそれ?
あ、ひょっとして王子、お前、紅葉に惚れたんか?』
「なっ!」
『本気になったから、もう嘘つくんは嫌や~って感じか?』
「ち、ちがっ! そうじゃなくって……」
「じゃあなんや? 罪悪感か?
こんないい人を騙してると、良心の呵責が~ってヤツか?」
「そ、それは……」
「か~っ! つまらん事いうなや。
まぁ確かに、紺奈や白雪みたいな我の強い連中と比べたら、紅葉は大人しくて真面目やし、騙すのに罪悪感を抱きやすいとは思うけどな。
でもそんなん今更やで、考えてもみぃ。
手当たり次第にキスして回るとか、女性側からしたらそもそも鬼畜の所業やんけ。
そんなことやってる人間が、良心の呵責を感じるとか片腹痛いわ』
「うぐっ、そ、そうだけど……」
『今さらそんな事で負い目感じてどうすんねん?
つまらん罪の意識なんか捨ててまえ!
俺様たちのようなイケメンからのキスは、世界中の女性にとってはご褒美やと思って、ガンガンやったったらええんや!』
「イアン……。
改めて思うけど、やっぱりお前、酷い奴だな……」
『うっさいわ!
とにかく王子、明日からは紅葉とひたすら打ち解ける努力をせぇ!
相手の心に入り込んで、離れられんようにするんや、分かったな!』
「わ、分かったよ……」
食い下がってみたものの、イアンの意見は変えられないと分かり諦めた王子。
と、そのとき、王子のスマホの着信音が鳴る。
どうやら紅葉からメッセージが届いたようだ。
『――今日は楽しかったね。ありがとう、王子くん』
「紅葉さん……」
王子は素早く返信する。
『――俺も楽しかったです。紅葉さん、次はどこに行きたいですか?』
『――うーん……すぐには決められないなぁ』
『――それじゃ次の日曜までじっくり考えましょう。次は俺が弁当持っていきますね』
『――ホントに? 今から日曜日が楽しみね!』
そんな他愛もないやり取りに、王子の心が解けていく。
(俺は…………)
自分はそんな相手を騙してキスしなければいけないのか――。
そんなことを考え、憂鬱になる王子であった。
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