王子と優柔不断な二人
一方、保健室を退出した王子はというと――
「おいイアン、どうだった?」
『うーん、まぁ合格点やな』
――人目のつかない校舎裏に移動し、保健室でのやり取りを踏まえ、さっそく対策会議を始めていた。
『毎日保健室に通う約束も取り付けられたし……。
ファーストコンタクトとしてはひとまず成功っちゅう感じちゃうか?』
「だけど……本当にうまく約束をさせられたよな。
正直『毎日来る』なんて言ったら、絶対に断られると思ったのに……」
「だから言うたやろ。
イイワケ女は、言い訳できん状況に追い込めば楽勝やって。
中身は王子と同じ、優柔不断で押しに弱い人間やからなぁ。
言い訳できひん状況になると、簡単に状況に流されよるんや」
「俺と同じって……」
『なんや、自覚ないんか?』
「いや……無いわけじゃないけど……。
というか、わざわざ『毎日来る』だなんて宣言する必要があったのか?
強引だったから断られるか、少なくとも引かれたんじゃないかって、言ってて心配になったんだけど……。
わざわざ宣言せず『また来ます』とだけ言っておいて、しれっと毎日来ればいいだけだったんじゃないのか?」
『アカン、アカン。
それやと“イイワケ女”の調教にならんがな』
「ちょ、調教ってお前……」
『言葉が悪いなら教育でもええで。
とにかく――ええか王子?
ああいうイイワケ女はな、言い訳させないのと同時に、相手に“約束”させるっちゅうのが大事なんや』
「約束が? どうして?」
『イイワケ女の中身は優柔不断な人間やって言うたやろ?
優柔不断な人間は、“決断”することが苦手やから優柔不断やねん。
他の人より決断することに対するハードルが高く、できれば決断をせずに流されて生きていきたいと考えてるんや』
「あー、なるほど……」
『お、やっぱり王子も共感できるか。
さすが優柔不断仲間』
「うぐっ……う、うるさいな!
いいから話を続けろよ」
『王子やあの先生のようなタイプは、自らの意志で、自信をもって決断するなんて事はまずない。
たいていは“決断してしまった”“決断させられた”そういった状況での意思決定になるんや。
だからこそ、そういう人間は、一度“決断”してしまうと恐ろしく頑固になるねん。
ホラ、王子かてそうやったやろ?』
「へ? 俺が?」
『例えばホラ、白雪との事を思い出してみぃ。
最後、俺様がゲイ設定て行けっちゅうたのに、それが嫌なお前は呪いの事をバラすっちゅう“決断”をしたやろ。
そのせいで今、俺様たちは白雪に秘密を握られて、逆らえん状況に陥っとるやないか』
「い、いやだって、アレはアレで正しい判断で……」
『ほらみぃ、すぐ言い返してきて、絶対に間違ってるって認めへんやん。
他の事ならすぐ折れるくせに、自分が決めた事には意固地になる。
これが優柔不断な奴の特徴や。
王子もちょっとは自覚した方がええで』
「ぐぬぬ……」
『で、や。
今回のキスの作戦は、その紅葉の性質を利用して、こっちの思う通りに調教したろっちゅうんや。
まずは言い訳をできないように誘導して“約束”を取り付ける。
約束っちゅうのは一種の“決断”や。
決断に縛られるイイワケ女にとって、約束は絶対やからなぁ。
毎日来てもいいっちゅう約束をすれば、それは絶対に破られることはあらへん。
そして小さな“約束”から徐々に大きな“約束”を取り付けていく……。
そうすればイイワケ女なんか簡単に利用できるっちゅう訳や。
な、チョロいやろ?』
「それ……相当エグいこと言ってね?
……って、ちょっと待てイアン。
さっきから俺と紅葉先生が同類だって言ってるけど、それはつまり俺もチョロいって事か?」
『なんや、自覚無かったんか?
お前、めっちゃチョロいで』
「ぬぁっ!」
『逃げ道失くしてからアドバイスすれば、どんな無茶な提案でも簡単に乗ってくるやんけ。
まぁさすがにゲイ設定は無理やったけどな。
追い詰めたらイケると思ったのに、俺様の読みもまだまだ甘いなぁ』
「なっ! なっ! てめこのっ……」
『ほらほら、怒っとる暇があったら次の作戦考えんで。
今回だけやなく、今後まだ半分以上呪いが残っとるんやからな。
王子一人で解呪は無理やし、やっぱり俺様がついててやらんとなぁ』
「くっそぉ~~っ!
呪いが解けたら絶対燃えないゴミに出してやるからな!」
王子とイアンの作戦会議はこうしてヒートアップしていくのであった。
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