王子と九重紅葉(保健のおっぱい先生)

 嘉数高校の保健室――。


 ――コンコン。


 王子がノックをすると、中から「はい、どうぞ」という声がかかった。


「あら、貴方はさっきの……!」


 迎えてくれたのは白衣を着た女性の養護教諭だ。


「手当もせずに行ってしまうから心配してたんですよ?

 ごめんなさい、さっきは私のせいで酷い目に……」


 そういって頭を下げる胸元から、豊満な双丘による見事な谷間が覗く。

 階段の上から王子に向かって落ちてきたのは、間違いなくこのおっぱいだ。

 その魅力はすさまじく、王子も目が離せない。


「い、いえ、大丈夫ですよ。頭の方はもう何ともありませんから」


 チラチラ胸を見ながら王子が応えると、紅葉はホッとしてた表情になる。


「本当ですか? 良かったぁ。

 あ、でも念のために患部を見せてください。

 打ったのが頭ですからね、病院で検査してもらった方が……」


「い、いえ、本当に大丈夫ですから。

 そんなに心配しないでください、紅葉先生」


「あら、私の名前を知ってくれてるんですか?」


 名前を呼ばれたことに驚く養護教諭――九重紅葉ここのえもみじ先生。

 大学を出て養護教諭になったばかりの22歳だ。


九重紅葉ここのえもみじ先生ですよね?

 噂になっていたから知っていますよ」


「噂ですか……それってどんな噂でしょう?」


 自分の噂と聞いて興味を持つ紅葉先生。

 だが言い出した王子の方は、「え、えっと……」と口ごもってしまう。


(どんな噂って、そりゃもちろん……)


 思わずチラリと目線を下げる王子。

 そこには先ほど階段で王子を殺しかけた、凶悪なまでに膨らんだ、見事な乳房がプルンと揺れている。


(うぅわ、めっちゃデケェー!

 これが噂のおっぱいか!)


 王子の聞いた噂とは、当然先述した『保健室にでっかいおっぱいがいる』というもの。

 さらに一部男子生徒の間では、すでに『巨乳先生』というあだ名までついていた。

 だがそんなことを本人に言えるわけもなく――。


「……? どうしました?」


「あ、いえ! えっと……。

 ゴホン、もちろんとても美しい先生が来たという噂ですよ。

 こうしてお会いしてみると、評判以上にお綺麗ですね」


 紅葉先生に問われた王子は、とっさに別のそれらしい答えで応じた。

 ――とはいえこの答えは、まるっきり嘘という事でもない。


 

 下がった目じりが優し気な印象を与える大きな目。

 その容姿は王子のような派手さはないが、親しみの持てる大人の可愛さがある。

 色素の薄いベージュ色の髪は、肩にわずかに届かない程度の長さ。

 ふんわりパーマでボリュームがあって、なんだか羊を連想させるふわっと感だ。

 それらが相まって、全体の印象は『癒し系のお姉さん』といった感じだろうか。


 ――おっぱいに目が行きがちだが、それ以外の容姿も充分に人並み以上だと言える。


 さらにはその、すべてを包み込むようなその豊乳――。

 今は養護教諭の白衣で地味に見えるが、着飾ればもっと色っぽくなりそうだ。


「あらあら。

 先生にお世辞なんか言っても何もなりませんよ」


「お世辞なんかじゃないですよ、紅葉先生。

 ホント、こんな美人の先生がいてくれたら、毎日ケガをしたくなっちゃいますって」


 王子キャラコスプレで培った、ナチュラルな誉め言葉で紅葉を持ち上げる王子。

 その口の軽さに、頬を赤くしつつも呆れた様子を見せる紅葉先生。


「まったく……口が上手いんですから、王子野くんたら。

 どうやら噂通りの色事師みたいですね」


「いろご……?

 てか、先生も俺の事知ってるんですか?」


「そりゃ知ってますよ、王子野王子くん。

 君は有名人ですからね。

 それにしても……身近で見ると本当にイケメンですねぇ。

 女生徒が色めき立つのも分かります」


 少し頬を赤くして、ウンウンと頷く紅葉先生。

 褒められた王子の方は――いつもの事なので冷静だ。


「あー、そうですか。ありがとうございます」

「いやぁ、本当に…………」

「…………」

「…………」

「……あの、紅葉先生?」

「――はっ! ご、ごめんなさい! ちょっとだけ見惚れてましたぁ……」

「は、はぁ……」


 どうやら紅葉先生は面食いのようだ。誤魔化すように話題を変える紅葉。


「と、ところで王子野くん。

 治療に来たわけじゃないなら、保健室に何の用があったんですか?」


「それは、えっと……」


 戸惑う王子に、バッグのイアンが叱咤する。


『おい、何を躊躇っとるんや?

 アドバイス通りにちゃんとやらんかい』


(わ、分かったよ……)


 覚悟を決めてイアンのアドバイスを実行する王子。

 

「うっ、ゴホゴホッ!

 うぅ、寒気が……」


「ちょっ!

 どうしたんですか王子野くん!?」


「どうやら風邪を引いたみたいで……。

 ちょっとベッドで休ませてもらえませんか?」


「た、大変!

 だったら病院へ行きましょう!」


「い、いえ、大丈夫です!

 しばらく横になっていれば治ります!」


「でも頭も売ってますから、ついでに両方診てもらって……」


「いいから!

 しばらくベッドで休ませてください!

 いいですよね九重先生?」


「は、はいぃ、大丈夫ですっ!」


 王子の剣幕に押され、休憩を認めてしまう紅葉先生。

 イアンのアドバイス――それはただの仮病だった。


『よし、ええで王子。

 相手がどんな人間か分からん内は、下手に手ぇ出すわけにいかんからな。

 まずは攻略対象を観察して、あの紅葉って女がどんな人間かを探るんや。

 ベッドで休むフリをして、しばらくあの紅葉って先生を観察やで』


(うーん、思ったよりベタな作戦だな、コレ)


『煩いわ! ええからベッドで寝たフリしとげ。

 あと、横になってたらホンマに寝てまう、的なボケはいらんからな。

 やんなよ』


(お、おう、分かったよ……}


 こうしてベッドの中で、紅葉先生の様子を伺う事になった王子であった。

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