王子と優柔不断な巨乳先生
王子と弱みを握る白雪
白雪とのキスの翌日――
王子は人目を避けるように、人気のない学校の屋上で女性と会っていた。
その相手は長い銀髪に真っ黒なドレス――いつも通りゴシックファッションを着こなした白雪だ。
「はい王子くん。
この子返すわ」
そう言って白雪が王子にぬいぐるみを差し出す。
見るとそのぬいぐるみ――イアンはぐったりとして息も絶え絶えな様子。
『うぅう…….
ア、アカン、もう無理や……』
「白雪先輩、なんかコイツぐったりしてるんですけど……?」
イアンを受け取りながら王子が尋ねると、白雪は首を傾げながら質問に答える。
「うーん、さっきまで全身を丹念に撫でくり回していたからかしら?
イアンちゃんがいい声で鳴くから、ついつい楽しくなっちゃったのよ」
ウフフフフ……と微笑む白雪に、背筋を凍らせるイアン。
慌てて王子の腕を登り、後頭部の後ろに隠れてガタガタと震えだす。
『もうやめて……助けて……このままやと快楽堕ちしてしまう……』
――どうやら徐々に調教されつつあるようだ。
「そんなことより、ねぇ王子くん?」
「な、なんですか白雪先輩?」
ふいに距離を詰められて、少しドギマギしてしまう王子。
昨日キスしたばかりの相手だからか、否応なく意識してしまうようだ。
だが白雪の方はまったく気にしていない様子。
それどころか――
――ガバァッ!
――唐突に王子にハグをしてきた。
「わぁあっ! ちょ、ちょっと!?
急に何するんですか!?」
「……あら、本当だわ。
もう私が触っても大丈夫なのね」
どうやら呪いが発動するかどうかを確かめたかったらしい。
「い、一応キスした相手は、触れても大丈夫になるみたいですけど……。
って、そんな事を確かめるためにいちいち抱きつかないでくださいよ!」
慣れない状況に、慌てて体を離す王子。
その様子に白雪は、まるで悪戯が成功した子供のように笑いつつ、話を続ける。
「それで王子くん、解呪の方は何か進展があったのかしら?
こんな面白い……じゃなくて大変な事、知ってしまった以上は放っておけないじゃない。
私で力になれる事があったら協力するけれど?」
「……今、面白いって言いましたよね?
つか進展なんて、昨日の今日であるワケないじゃないですか」
「なんだ、つまらないわね。
……だったら、ねぇ王子くん。
一つ思いついたことがあるのだけれど」
「な、何ですか?」
「――いっそのこと、呪いの存在を世間に公表したらいいんじゃないかしら?」
その白雪の提案に、思わず息をのむ王子。
とても単純な――けれど王子が考えもしなかった方法だ。
「呪いの事を公表してターゲットを募るほうが、黙って探すよりよっぽど効率的じゃないかしら?
突拍子もない話だけれど、イアンちゃんがいればみんな私のように信じてくれるはずよ。
事情を話してキスしてくれるよう頼めば、相手が王子くんなら嫌がる女子はそれほどいないと思うのだけれど」
「そ、それだぁっ!」
目から鱗が落ちる思いで、思わずテンションの上がる王子。
「そうだよ、どうして今まで気づかなかったんだ?
そうか、アレだ、小学校低学年時代のトラウマのせいだ。
バレる事に恐怖心を植え付けられて、そのせいで考えが及ばなかったんだな。
だけど言われてみれば確かに、それが一番手っ取り早い解呪方法じゃないか!」
だがそこへ『ちょっと待ちぃ!』とストップがかかる。
王子の後頭部にしがみついたイアンの声だ。
『アカン、アカン!
そんなことしたら呪いが悪化すんで!』
「へ? どういう事だよイアン?」
『ええか王子。
呪いっちゅうのは、人の念が根源になっとるんや』
呪いについて知識の浅い王子に、イアンがレクチャーする。
『人の怨念や情念を儀式によって形にし、効果を持たせたものが呪いと呼ばれる力や。
その念が強ければ強いほど、呪いも強力になっていく。
それは呪いをかけた術者だけやなく、呪いに関わる人間の念も影響するんや」
「呪いに関わる人間?」
『せや、しかも呪いに関係のあるすべての人間が影響を及ぼすで。
例えば……『呪いの事を知る』というのも、呪いに対する関わりになる。
そしてたったそれだけの事が呪いに影響してくるんや。
せやから……まぁ、分かりやすく言うと……』
「分かりやすく言うと?」
『呪いの事を知ってる人間が増えれば増えるほど、王子の呪いは強固になるっちゅう事やな』
「なっ!?」
『まぁ『知る』っちゅうだけの関わりやと大した念にはならんから、一人二人に知られたところでそうは変わらんけどな。
ただ、これが何百人、何千人という単位になってくると話は別や』
「ま、待てよ! でも、今までは大丈夫だったぞ?
小学校じゃ、ほぼ全校生徒に俺の体質の事が知れ渡っていたのに、特に変わらなかったんだけど?」
『それは体質が呪いやなくて、女性アレルギーと思われてたからやな。
もし呪いやとバレてたら、もっと地獄の小学生時代やったやろうな』
「そ、そんな……」
『さらに今はSNSで情報が簡単に拡散される世の中やからな。
下手すりゃ一瞬で何万という人間に、呪いの存在が知られてしまう事になる。
もしそうなったら――』
「そ、そうなったら……?」
恐る恐る尋ねる王子に、イアンが宣言する。
『あっという間に呪いが進行して、即死やな』
「そっ、即死ぃいいっ!?」
驚愕の事実に思わず声を上げる王子。
そして――
「……ふぅん、いい事を聞いたわね」
「――はっ! し、しまった……!」
――話を聞いていた白雪がニヤリと笑い、聞かれた王子は冷や汗を流す。
「あ、あの、白雪先輩? だ、黙っててもらえます……よね……?」
「ええもちろん。こんな危ない秘密、言いふらしたりなんかしないわよ」
「ほ、本当ですか? よかっ――」
「ただし――」
安堵しかけた王子の声に、食い気味に白雪が条件を付ける。
「隔週の土日でイアンちゃんを貸し出すのを忘れない事。
呪いの件で何か新しい展開があった場合、必ず私に知らせる事。
コレが秘密を守る条件よ」
「うっ……わ、分かりました……」
『――って、うぉいっ! 分かりましたとちゃうで!』
慌てたイアンが口を挟む。
『まだ俺様を売り渡す気か!?
もうあんな目に遭うのは嫌や!』
「諦めてくれイアン。
君の尊い犠牲は忘れないから……」
『ふざけんなコラぁっ!』
必死に抵抗するイアンだが、どうやら拒否権は無いようだ。
「ウフフ、これで条約成立ね。
これさえ守ってくれたら、私も秘密を守るわよ」
「分かりました、約束は守ります」
『い~や~~~~っ!』
「それじゃイアンちゃん。また来週ね♥」
ご満悦な白雪は意気揚々と引き上げていく。
その場に取り残された王子に、イアンがキレて抗議する。
『おい、どうしてくれんねん!
このままやとまたあの女にメチャメチャにされるやんけ!
俺様、女を攻めるんは好きやけど、攻められんのは苦手やのに!』
「ごめんイアン、諦めてくれ」
『くっそぉおおおっ!
それもこれもお前が簡単に呪いの話なんかするからやぞ!』
「なんだよ、キスはできたんだしいいだろ」
『いいわけないやろ!
お陰で今後は俺様だけやなくて、お前も白雪の言いなりになるしかないやんけ!
分かっとんのか王子!?』
「う、煩いな!
あの選択は正しかったの!
俺は絶対間違ってないから!」
いつもは優柔不断なくせに、この件に関してはなぜか意固地になる王子だった。
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