王子と10の質問
【王子野王子くんに10の質問】
●Q1.
『嘉数高校のプリンス』と呼ばれる王子くんに質問です。
学校内でこれほどの人気を得ている事についてどう感じていますか?
〇A1.
本当に光栄な事ですね。
みんなの応援があるから今の俺がある、そう思っています。
●Q2.
男性とは思えないほどの美しさを誇っている王子くん。
その美貌には何か秘訣があるのでしょうか?
〇A2.
毎晩の運動と風呂の後のスキンケアは欠かせませんね。
今は男でも美容に気を使う時代ですから。
●Q3.
特定のカノジョは作らないと公言してきた王子くんですが、今回j初めてスキャンダルが発覚しました。
その経緯を王子くんの側から説明していただけますか?
〇A3.
一言では説明できないのですが、やむにやまれぬやむに已まれぬ事情で……。
ですがこれだけは信じてください。
俺は皆の事を大切に思っていますし、今回の事だって誰も気付つけるつもりはありませんでした。
●Q4.
今回の騒動について、今の率直な感想をお聞かせください。
〇A4.
まさかここまで大騒動になるなんて……。
全てにおいて浅はかな行動でした、反省しています。
●Q5.
前回インタビューに応じてくれた十文字黒子さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A5.
彼女の言っている事は本当です、俺の身勝手な行動で迷惑をかけてしまいました。
本当に申し訳ありません。
傷つけてしまった彼女のケアに努めていきたいと思います。
●Q6.
同じくインタビューに応じてくれた三枝紺奈さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A6.
彼女の言っている事も本当です。
ただ、誤解も多分に含まれているように思います。
その誤解が解けるよう、彼女には真摯に対応したいと思っています。
●Q7.
同じくインタビューに応じてくれた二階堂朱音さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A7.
彼女は幼馴染で、俺にとっては姉のような存在です。
いつも助けてもらっていて、本当に感謝しています。
●Q8.
今回の騒動に関して、今まで応援してくれたファンの方々に何か言いたいことはありますか?
〇A8.
今まで俺を支えてくれた皆を、ガッカリさせてしまった事は猛省しています。
今後は皆に許してもらえるよう、努力していくことを誓います。
●Q9.
今は周囲からの反感が強いとは思いますが、今後どのような対応をなさるつもりですか?
〇A9.
今回のスキャンダルは、全て自分の行いが招いた結果です。
真摯に受け止め、反省を今後の糧にして、信頼回復に努めたいと思います。
●Q10.
最後にこの記事を読んでくださっている読者に一言お願いします。
〇A10.
誰も傷つけるつもりは無かったとはいえ、結果的に多くの方を傷付けてしまいました。
全ては俺の未熟さが招いた結果です、本当に申し訳ありませんでした。
―――――
――――
――
「で、できた……完璧だ」
質問状を埋め終えた王子は、満足そうに嘆息する。
「長すぎず短すぎず、謙虚な姿勢で言い訳はしない……。
うん、これでいいよな。あとは……」
スマホを操作して、質問状の答えをメールで青葉に送る。
「よし、送ったぞ。
これで明日には記事になって、俺の好感度も多少は回復するはず!」
そう確信する王子だったが――
その様子を怪しく見守るイアンに、彼は全く気づいていなかった。
――――――
――――
――
――その夜。
王子が完全に眠ってしまったのを確認し、活動を始めるイアン。
机の引き出しをゴソゴソと漁りタッチペンを取り出す。
そしてスマホを持ってベッドに上ると、眠る王子の指を使って指紋認証。
ロックを外したら、準備してあったタッチペンを使い、器用にスマホを操作していく。
そして――
『クックック、これで終了や』
すべての作業を終えたイアンは、悪い笑みを浮かべるのだった。
*
翌日の学校の昼休み――。
学級新聞の張り出された掲示板の前には、それを見ようと大勢の野次馬たちが群がっていた。
(フッフッフ。ついに張り出されたか)
その喧騒を後ろから見守る王子の姿。
(推敲に推敲を重ねた俺の回答を読んで、皆からの好感度も多少は回復してるハズだよな。
どれどれ――)
王子は期待をかけた様子で、野次馬たちの会話に耳を傾ける。
だが――
「何これ……王子くんてこんな人だったの……?」
「これは痛い……なんというビッグマウス……」
「みんなに優しいアイドルだって思ってたのに、これじゃまるで中二病じゃない」
聞こえてきたのは想像していたものとは全く違う内容だった。
(へっ? あ、あれ、おかしいな?
好感度回復どころか別方向にマイナスッてるんだけど……?)
首を傾げる王子に声がかかる。
「やぁ王子くん。
どうですかこの盛況っぷりは」
声の主は新聞部部長の百住青葉だ。
手には校内新聞の束を持ち、周りの人間に配っている。
「見てください、前回以上の反響ですよ。
いやぁ、それもこれも王子くんのお陰です。
あ、これどうぞ」
「ど、どうも……」
青葉は王子にも校内新聞を手渡しながら、満面の笑みで話を続ける。
「それにしても、最初に王子くんから回答のメールを貰った時は、これはつまらない記事になりそうだと思ったんですけどねぇ。
夜中に送られてきた第二稿、こちらは最高でしたよ!」
「へ? 第二稿?」
「記事が面白くなるように推敲し直してくれたんでしょう?
本当にありがとうございます」
「ちょ、ちょっと待ってください」
寝耳に水の王子は青葉に慌てて確認する。
「何ですか第二稿って?
俺、一度しかメールを送ってませんよ?」
「え? でも間違いなく届きましたよ。
君のメアドから真夜中に」
「そんなバカな?
いったいどんな内容で……?」
「それならその新聞を見てもらえばわかりますよ」
王子は慌てて校内新聞を見る。
記事には王子がアンケートに応じたむねと、その内容が掲載されていたのだが――
【王子野王子くんに10の質問】
●Q1.
『嘉数高校のプリンス』と呼ばれる王子くんに質問です。
学校内でこれほどの人気を得ている事についてどう感じていますか?
〇A1.
いずれ世界中の女性を幸せにする俺にとって、嘉数高校は狭すぎるな。
そろそろ日本中……いや、東アジアの女性くらい全員愛してやろうかと思っている。
●Q2.
男性とは思えないほどの美しさを誇っている王子くん。
その美貌には何か秘訣があるのでしょうか?
〇A2.
持って生まれた才能だね、美と言う才能を持って生まれた天才、それが俺だ。
神様は俺に才能と、世界中の女性を幸せにする義務を与えて誕生させたのさ。
●Q3.
特定のカノジョは作らないと公言してきた王子くんですが、今回初めてスキャンダルが発覚しました。
その経緯を王子くんの側から説明していただけますか?
〇A3.
美の天才として生まれてしまった俺の罪だね。
蝶が鼻に吸い寄せられるように、女性が俺に吸い寄せられてしまった、それだけの事さ。
●Q4.
今回の騒動について、今の率直な感想をお聞かせください。
〇A4.
嫉妬されるのも仕方ない、天才として生まれてしまった俺の宿命だと思って諦めているよ。
なんせ俺が本気を出せば、マッコウクジラだって惚れて陸に上がってくるだろうからね。
それだけの美貌は、凡人にとっては眩しすぎるんだろう。
●Q5.
前回インタビューに応じてくれた十文字黒子さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A5.
呆れるね、彼女の言っている事は嘘ばかりだ。
だが具体的な指摘はやめておくよ。
嘘で彼女が幸せになれるなら、俺はあえて騙されてやるさ。
●Q6.
同じくインタビューに応じてくれた三枝紺奈さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A6.
それこそ彼女の嫉妬だよ、俺の美貌に対するね。
俺が本気を出せば、俺以外のモデルなんてこの世から必要がなくなってしまう。
彼女もそれが分かっているから、俺の事が許せないんだろうさ。
●Q7.
同じくインタビューに応じてくれた二階堂朱音さんに、何か言いたいことはありますか?
〇A7.
彼女は幼馴染で、俺にとっては姉のような存在だね。
もっとも俺の天才的美貌を前に、向こうが正気でいられるのかまでは分からないが。
彼女も俺を「弟」だと言いつつ、色々と尽くしてくれるのはきっとそういう事なんだろう。
●Q8.
今回の騒動に関して、今まで応援してくれたファンの方々に何か言いたいことはありますか?
〇A8.
非難したい奴はすればいい、俺から離れたい奴は離れればいい。
それで君たちが幸せになれるなら、俺は一向に構わないよ。
ただ……君たちは俺から離れて、それで本当に幸せになれるのかな?
●Q9.
今は周囲からの反感が強いとは思いますが、今後どのような対応をなさるつもりですか?
〇A9.
対応なんてしない、今まで通りさ。
嫉妬されるのは、持って生まれてしまった人間の宿命だと思って諦めているよ。
才能が無ければこんな苦労はなかったんだろうと思うと、平凡に生まれた君たちが羨ましいよ。
●Q10.
最後にこの記事を読んでくださっている読者に一言お願いします。
〇A10.
別に分かってもらわなくて構わない。
凡人に天才の事なんて理解できないだろうからね。
ただ……一人でいいから俺に共感してくれる、同じ天才がいてくれれば嬉しいな。
――――――
――――
――
「な、何じゃこりゃあっ!」
そこに書かれていたのは、某ホストのローラ〇ド様のようなビックマウス回答。
王子が答えた内容とは全く違うアンケートの回答だった。
「ど、どういうことですか青葉先輩!
こんな捏造記事を書くなんて!」
「なっ! 失礼ですね君は!
ボクの報道姿勢を疑うのですか!」
「いやだって――」
さらに言い募ろうとした王子だったが――
『おっ、俺様の回答、しっかり全文載っとるやんけ』
――新聞をのぞき込んで呟くイアンの様子に、慌てて言葉を飲み込んだ。
(俺様の回答って……ま、まさか!
や、やりやがったなイアン!)
ようやくその事に気づいた王子。
「『だって』……何ですか? 王子くん」
「いや、その、それは……」
「ボクの記者としての信念を否定する以上、何か根拠があって言ってるんでしょうね?」
笑顔のまま凄む青葉に、冷や汗を流す王子。
「あの、えっと…………ごめんなさい!」
「あっ、ちょっと王子くん! 待ちなさい!」
引き止める青葉の声を背に、王子は一目散にその場から逃げ出したのだった。
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