王子と白雪の卒業文集

『将来の夢』     3年A組 四阿白雪


 卒業文集のテーマ――『将来の夢』。

 それを語る前に、まず『夢』というものの定義をハッキリさせておきましょう。

 もし『夢』と言うものが『叶うかどうか分からない目標』という意味なら、私は夢というものを持っていません。


 将来の目標ならあります。

 私の目標は――歴史に名を遺す『世界的アーティスト』になる事。

 ただしこれは『叶うかどうか分からない』というような、あやふやなものではありません。

 将来必ず成し遂げられる事実です。


 何故なら――私には、自分自身ですら恐ろしくなるほどの才能があるから――。


 才能に恵まれた私はまさに稀代の天才、神に選ばれた人間だと言って過言ではないでしょう。

 『世界的アーティスト』になるべくして生まれた人間……いや、違いますね。

 私レベルになると、私がわざわざ目指さなくても『世界的アーティスト』の方から「ぜひなってください」と懇願してくるほど。

 それほどまでに圧倒的な才能を持って生まれた――生まれてしまったのがこの私、四阿白雪という人間なのです。


 ――と、こんな事を書くと「何をバカな」と笑う人間も出てくるでしょう。


 ですがそれは仕方がありません。

 だって世の中の大半の人は何の才能もない凡人ばかり。

 私のような天才の思考に共感できる者などごくわずか。

 凡人が天才の言う事に反感や拒絶を示すことは何らおかしなことではありません。


 そんなあなた方に対して、私には何も思うところはありません。

 ただ一つだけ、あなた方に言っておきたい事があります。


 あなた方の多くはこれから先、平凡な人生を送る事でしょう。

 ありがちでつまらない、どこにでもあるような穏やかな人生――

 ですがそんな人生の中で、私という存在と共に中学生活を送れた事は、唯一特別であり幸運な事です。

 だって何も誇れるものがない生涯の中で、たった一つ「あの四阿白雪と同級生だったんだ」という自慢できるエピソードができたのだから。


 今は私の事をバカだと笑っている貴方――

 自分の人生を振り返るような年齢になった時、ようやくその事に気づくことでしょう。

 きっとその時になって初めて、貴女は私に感謝するはずです。

 そんな予言をして、この作文を終わらせたいと思います。


 最後に――

 平凡であることを嘆く必要はありません。

 それは羨ましいほど幸せな事です。

 天才であるが故の孤独や苦悩を、何も知らずに生きていけるのだから。


 ――――――

 ――――

 ――


「……って、何これ?」


 文集を読んだ王子は思わず眉を顰める。

 青春から卒業文集を借りたあと、自宅に帰り読んでいた王子たちだったが……。


『おぉう……さすが中二病。

 アイツがここまでビックマウスやとは思わんかったわ』


 王子の隣で文集をのぞき込んでいたイアンからもそんな感想が盛れる。

 だが無理もない。

 なぜなら卒業文集に掲載された白雪の作文は、中二病の域を超えた痛い文章――ケ〇スケホンダやキ〇コン西野ですら吐かないレベルのビッグマウスだったからだ。


「な、なあイアン。これ、何かの役に立つのか?」


『おう、バッチリやで。参考になるわ』


「……何の参考?」


『それは秘密や。まぁ任せとき』


「いや、秘密にされると怖いんだけど……」


 こんな文章がどう役に立つのか、全く想像できない王子は、自信満々のイアンに不安を感じている様子。

 だがそれを問い詰める前にスマホが鳴り出して、王子の意識はスマホへ向かう。


「メール……ああ、青葉先輩からだ」


 メールを開くと、そこには約束してあった質問状の内容が書かれていた。


『おう、やっと届いたんか』


「うん、インタビュー代わりの10の質問だって。

 どうする?」


『そんなもん、王子の好きに書いたらええやん』


「へ? いいのか?

 何か作戦があったんじゃ……?」


『ええから好きに書いとけ。

 この答えで王子の好感度が変わってくるんやからな。

 ちゃんと考えて書くんやで』


「お、おう、分かった」


 そう言うと王子は文集を置き、スマホに向き直る。


「やっぱり今までの事を素直に謝るべきだよな。

 言い訳にならないよう、真摯に謝罪してるのが伝わるように……。

 好感度を考えるなら、取り繕わずにさらけ出した方がいいよな。

 ほかの質問にも、なるべく正直に答えるようにして……」


 ウンウンと唸りながら、王子は質問状を埋めていく。

 そして――

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