王子と愛とメリットと

 ――放課後。


「それじゃ王子くん、どこに行く?」


「この間のカフェでいいんじゃない?

 あそこならゆっくり話もできるし」


「そうだね、じゃあ行こっか」


 そして二人は以前に行ったカフェへ。

 席に着き、今日は飲み物だけ注文する。


「そういや王子くん、来月のハイスタでモデルデビューするんだって?」


「う、うん、まあね」


「すごいなぁ~。

ハイスタはモデルの憧れの雑誌なんだよ?

 それに一発で起用されちゃうなんて、さすが王子くんだよ」


「そ、そんなことないよ。

 俺なんて初めての撮影で大変で……」


 そこまで会話して、紺奈から一方的に持ち上げられていることに気づき、慌ててお世辞で反撃に出る王子。


「そ、そうそう、あんな大変な仕事を、紺奈ちゃんはずっと続けてきたんだよね?

 いやぁ、すごいなぁ~。尊敬するよ紺奈ちゃん」


「……そう? ありがと」


「中二の頃からモデルを初めて、三年も続けてこれたなんて、本当に立派な事だと思うよ」


「ふーん……」


「……あ、あれ?」


 以前と同じように褒めているはずなのに、全く手ごたえが無くて狼狽える王子。

 それもそのはず、紺奈は――


(何なの? 王子ってば、私の事バカにしてんの?)


 ――と、喜ぶどころか内心では憤っていた。


(自分がモデルとして認められたからって、私のことを上から目線で褒めだして……。

 きっと心の中じゃ、私がしてきた努力をあざ笑ってるんだ!

 ふざけんなよこの!)


 一方の王子は、どうすればいいか分からずに――


(お、おいイアン! これどうなってんだよ?)


 ――と、内ポケットのイアンにテレパシーで助けを求めていた。


『そりゃ当然や。

 成功した王子からの誉め言葉なんて、今の紺奈には嫌味にしか聞こえんやろな』


(じ、じゃあどうすりゃいいんだよ?)


『だから言うたやろ?

 俺様のアドバイスを思い出せ』


(そ、それは……)


 言われてようやく、イアンから受けたアドバイスを思い出した王子。


(――よし、やってやる!)


 決意も新たに、王子はその内容を実行に移す。


「――そういや昨日、ハイスタのカメラマンさんに言われたんだよ。

 『君はいずれミラノやパリコレのランウェイを飾る逸材だ』ってさ。

 すごく気に入られたみたいで、本当に嬉しかったよ」


「――っ!

 そ、そうなんだ……へぇえ……」


「編集長さんからも『ウチで連載企画をやらないか』なんて言ってもらえて、昨日は本当に楽しかったなぁ」


「っ! ほ、本当に?

 す、すごいじゃない、王子くん……」


 そうやって王子が自慢話を始めた途端、紺奈が話に食いつき始めた。

 そんな彼女の様子を好機ととらえた王子は、さらに言葉の攻勢をかける。


「そうだ、紺奈ちゃん。

 よかったら次の撮影、見に来ない?

 すごいんだよ、広いスタジオで業界人もいっぱいいてさ」


「なっ――!?

 ハ、ハイスタの撮影に、私が行っていいの……?」


「もちろん!

 編集長にも紹介したいしさ、『俺のカノジョです』って。

 そうすれば紺奈ちゃんも、きっと覚えてもらえるよ」


「かっ――カノ――!」


「どう、紺奈ちゃん?」


「そ……そうね。わ、私も行ってみたいかな……」


 王子が撮影見学に誘った途端、あっという間に落ちる紺奈。

 その様子に、イアンが『計画どおり――!』とほくそ笑む。


『紺奈みたいな女は、付き合うことでどんな得があるかを真っ先に考えるからな。

 そういう女にはこれ! 『愛を語るな! メリットを語れ!』や!』


「ホント? じゃあ約束ね、紺奈ちゃん」


「う、うん……」


 こうして二人のカフェデートは幕を閉じた。

 そして――


 ――――――

 ――――

 ――


「今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ、王子くん」


「そう、それはよかった」


 カフェを出た二人は駅へと向かう。

 前回と同じシチュエーション。


「それじゃ王子くん、また明日」


「――待って」


 そしてこれも前回と同じ。

 帰ろうとする紺奈の肩を抱き寄せる王子。


「お、王子くん……」


「紺奈ちゃん……」


 向かい合う二人、王子の方から顔を近づけていく。

 徐々に近づいていく二人の唇。

 前回は紺奈がキスを拒絶した。

 だけど……。


(……まぁいっか、ファーストキスくらい)


 今回は嫌がることなく、二人は優しいキスをした。

 そして――。


 ――ギュルルルルル~~ッ!!!


「――っ! そ、それじゃまた明日!」


 呪いに襲われた王子は、トイレを求めて大急ぎで走り去っていく。


「……あ、あれ?」


 取り残された紺奈は、呆気にとられて立ち尽くすのだった。


 ――――――

 ――――

 ――


 ――その夜。

 帰宅し自室のベッドでくつろぐ紺奈。


「フッフッフ、上手くいったわ」


 学校での事を思い出し悦に入る。


「ファーストキスを奪われたのは悔しいけど……。

 でもこれで私にもチャンスは巡ってくるはず!

 見てなさい王子、絶対に負けないんだから!」


 そんなとき、スマホが鳴りマネージャーからの連絡が入る。


「もしもし、お疲れ様でーす!」


 上機嫌で電話に出る紺奈。

 だが――。


「え? あ、あの、どういう事ですか?」


 マネージャーの話を聞くうちに、紺奈の表情がどんどんと曇っていく。

 そして――。


「なっ、なんでよぉおおおおっ!」


 ――最後は紺奈の絶叫が響き渡った。

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