王子と三枝紺奈(腹黒ギャルモデル)
翌日――。
学校の廊下でクラスメイトに囲まれ、称賛されているギャルっぽい美少女がいた。
「見たよ紺奈! 今月のハニーティーンの表紙!」
「専属モデルになってもう表紙デビューだなんて、凄いじゃん紺奈!」
「おめでとう紺奈ちゃん! これで有名モデルの仲間入りね!」
そう声を掛ける女子生徒たちの手にはファッション雑誌が握られている。
そしてその表紙には、彼女たちの中心にいる美少女と同じ顔の写真があった。
つまり彼女はモデルで――
――王子たちの話題に出ていた、カリスマギャルモデルの三枝紺奈だった。
(フフン、当たり前じゃん。私を誰だと思ってんのさ)
クラスメイトに褒められた紺奈は、内心そう思いつつ――
「いやいや、みんなが応援してくれたお陰だし。ありがとねみんな」
――そう言って表面上は謙遜して見せた。
「そんな事ないよ~、紺奈の実力だって!」
「何言ってんのさ、私なんてマダマダだって」
(ウンウン。その通り、分かってるって)
「紺奈って美人だもんね、当然の結果だよ」
「違うってば。運が良かっただけだし」
(美人じゃねぇ、超絶美人だっつーの)
「凄いなぁ、紺奈は。ホント尊敬するよ」
「またまたぁ、あんま持ち上げないでよね~」
(でしょでしょ? もっと羨めばいいじゃん)
心の声は表に出さず謙虚な姿勢。
三枝紺奈――彼女は裏表のハッキリしたギャルモデルだった。
そして、そんな紺奈をつけ狙う一人の影。
――もちろん王子だ。
「あ、いたいた」
遠くからその姿を捉えた王子が、足取り軽く彼女たちに近づいていく。
『なぁ王子、ホンマに大丈夫なんか?』
「大丈夫、大丈夫。
言っただろ、彼女は俺に惚れてるって。
今回はアッサリ終わらせてみせるよ」
ショルダーバックの中から疑わしそうに尋ねるイアンに、自信たっぷりに答える王子。
そうして彼女たちの近くまで来ると、笑顔で紺奈に声をかける。
「やぁ紺奈ちゃん。他のみんなもおはよう」
いま学校を騒がせしている王子に急に声を掛けられて、紺奈の周りのクラスメイトは――
「お、王子くん……」
「お、おはよう……」
――と戸惑った様子。
その中で紺奈だけが、いつも通りの笑顔で王子に応える。
「おはよー王子くん。どしたの?
そっちから声をかけてくるなんて珍しいじゃん」
「紺奈ちゃんが表紙を飾った雑誌を見たからさ」
そう言って王子が掲げたのは、ギャル系ファッション誌の代表『ハニーティーン』。
その表紙にはキメ顔の紺奈が印刷されている。
「すごいよね、コレ。
一言おめでとうを言っておこうかと思ったんだ」
「そぉなんだ、ありがとー王子くん」
ニコッと屈託のない笑顔を見せる紺奈。
その様子に王子は(これはいける!)と確信する。
「よかったね、紺奈ちゃん。
そうだ、今度お祝いにどこか行かないか?
駅前にできた新しいカフェ、行きたいって言ってただろ?
よかったら今度付き合うよ、どうかな?」
だが――。
「んー、悪いけどパス。他の子と行くから大丈夫」
――王子の予想とは違い、バッサリと断られてしまった。
「え? あ、あれ?」
困惑する王子は、慌てて紺奈に言い募る。
「で、でも紺奈ちゃん、俺と二人っきりで行きたいって言ってたよね……?」
「そだっけ? ごめんごめん、気にしないで」
「き、気にしないでって……」
「ごめんねー。それじゃ私ら行くから」
「えっ、ちょっ……」
「バイバイ王子くん、じゃあね~」
そういうと紺奈は、クラスメイトと共に去ってしまった。
ポツンと取り残される王子。
「あ……あれ……?」
『おいおい、王子、アレでホンマに惚れられとるんか?
全くそんな気がせえへんで?』
「お、おかしいな?
いつもだったら向こうから挨拶してきて――」
――王子の回想――
『王子くん! おはよー!』(←満面の笑顔で)
『おはよう、紺奈ちゃん』
『王子くんは今日もかっこいいねー。
目の保養だよぉ』(←媚びた声で)
『ありがとう。
紺奈ちゃんも今日は一段とキレイだよ』
『やだー! 王子くんに褒められちゃった♥
ねーねー、だったら今度デートしようよ。
駅前に新しいカフェできたの知ってる?
私、行ってみたいんだよねー。
もちろん二人っきりで♡』(←甘えた態度で)
『ごめんね、俺は誰とも付き合う気はないから』
『あーん、またフラれちゃった。
ねぇ、ホントにダメ?』(←拗ねた様子で)
『ホントにゴメンね、紺奈ちゃん』
『仕方ないなぁ。
じゃあ、気が変わったらいつでも言ってね♥』(←名残惜しそうに)
――回想終了――
「――ってな感じで、紺奈ちゃんの方からアプローチしてきてたのに……」
その王子の言葉に――
『なるほどなぁ、そういう事かいな』
――と、得心した様子でウンウンと頷くイアン。
「な、何だよイアン? 何か分かったのか?」
『どうやらあの紺奈って娘は、王子に惚れてたんとちゃうみたいやな』
「なっ! じ、じゃあ何だったんだよ、今までの紺奈ちゃんの態度は?」
『まだ分からへんのか? つまりあの娘はなぁ……』
「あ、あの娘は……?」
ゴクリと息を飲み耳を欹てる王子に、得意げなイアンが答える。
『いわゆる“ステータス女”ってヤツやったんや』
*
王子と別れ、教室へと戻ってきた紺奈と取り巻きたち。
「どういうつもりなのかしら、さっきの王子くん」
取り巻きの一人がそう口火を切ると、他のクラスメイトたちも口々に話し出す。
「一年にフラれたばっかでしょ?
それで紺奈に言い寄ってくるなんて、いくらなんでも変わり身早くない?」
「そうそう、今までずっと紺奈の事を袖にしてきたってのにさ」
「しかも紺奈がハニーティーンの表紙を飾ったタイミングでって、ちょっと露骨すぎだよね」
「『嘉数高校のプリンス』って肩書も地に落ちちゃったからね。
有名になってきた紺奈と付き合う事で、名声を取り戻そうって魂胆よ、きっと」
そんな取り巻きの会話に、内心で(そうだ、そうだ!)とほくそ笑む紺奈。
(バカだね王子くん、今さら私の魅力に気付いても遅いっつーの。
確かにこれまでは『嘉数高校のプリンス』って事で、王子くんと付き合うメリットは大きかった。
誰もが憧れる王子くんをゲットできれば、学校中の女子から羨望の目で見られて、ギャルのカリスマとしてさらに注目されるはずだった)
――だけどさぁ……と紺奈は思考を続ける。
(ついに私はあのハニーティーンの専属として表紙デビューし、ファッション系のモデルとして完全にメジャー路線に乗ったからね。
このままカリスマギャルモデルとして有名になって、いずれマルチタレントとして活躍すること間違いなし!
そんな私に、たかが一高校のアイドルごときじゃ、もはや釣り合わないっての)
すでに王子とは立場が逆転した――そう感じる紺奈。
(しかも一年の地味女にフラれたって噂で、『嘉数高校のプリンス』という名声ももはやドン底だし。
今の王子に絡んだって何も得しない、むしろデメリットだらけじゃん)
そして紺奈はバッサリと、心の中で王子に見切りをつける。
(バイバイ、王子くん。
もっと早く応えてくれてたら、ファーストキスくらいはあげてもよかったんだけどね~♡)
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