王子とステータス女

 その夜――

 学校から自室に戻り、ターゲットについて改めて語り合う王子とイアン。

 改めて昼間のイアンの言葉について首をひねる王子。


「で、イアン。“ステータス女”ってなんだよ?

 LvとかHPとかMPとかの事か?」


『アホ、それはゲームやろ。

 ステータス女っちゅーのは、男を肩書ステータスで判断する女のことや』


 そんな王子にイアンが答える。


『学歴・職業・年収と、相手の内面ではなく肩書に恋をする。

 自分にとって得か損かで相手を選ぶ。

 そういう女の事を言うんや』


「なっ! う、嘘だ!

 紺奈ちゃんは俺に惚れてたはず……!」


『全くこれっぽっちも惚れてないで。

 むしろ王子の事は、他の女子のマウントを取るアイテムくらいにしか思ってなかったやろな。

 誰も付き合えない王子の彼女になれたら、他の連中の上に立てるって感じや』


「そ、そんな……」


『つまりあの紺奈って娘は、王子自身に惚れたんやなく、“嘉数高校のプリンス”っちゅう肩書に惚れてたって事やな』


「ま、まさか、俺のこの類い稀なる美貌が通用しない相手がいるだなんて……」


『アホか。確かに王子は子孫なだけあって、俺様そっくりの超絶イケメンやけどな。

 それだけでどんな女も落とせるやなんて、世間はそんなに甘くないで』


「じ、じゃあどうすれば……。

 俺なんて外見以外何一つ取り柄がないのに、その唯一の武器が通用しない相手をどうやって口説けばいいんだよ……」


 肩を落として項垂れる王子に、胸を張ってイアンが答える。


『だったら俺様に任せぇ!

 俺様の見事なアドバイスでステータス女も楽勝やで!』


「え~……」


 意気込むイアンを見て、王子は思わず顔を顰める。


『……何やその顔は?

 今までだって王子が余計な事せず、俺様の言うとおりにやってたら簡単に攻略できてたやないか』


「でもイアンの方法って、ちょっと過激というか、人でなしというか……」


『どアホ! 恋愛で手段選んでどうすんねん?

 それに呪いが解けなかったら死ぬんやで?

 綺麗事言うとる場合か?』


「う~、わ、わかったよ。

 やるかどうかはともかくとして、とりあえず言ってみ?」


『よっしゃ、任せとけ!

 ステータス女の落とし方、俺様が完璧にレクチャーしたるわ!』


 そうして王子は、イアンから紺奈の攻略方法を講義されるのだった――。



     *



 翌日――。


「やぁ、おはよう、紺奈ちゃん」


 登校中の紺奈の姿を探し出し、王子は早速アプローチをかける。

 普段は一人の通学路で声を掛けられ、少し驚いた様子の紺奈。


「おはよー王子くん。

 こんなとこで会うなんて珍しいじゃん」


「紺奈ちゃんは今日も奇麗だね。

 いやぁ、嬉しいなぁ。

 朝から君の顔を見れただけで幸せな気分だよ」


「アハハッ! またまたぁ~。

 相変わらずお世辞が上手いんだから」


「お世辞なんかじゃないって。

 いろいろあって、自分の気持ちに正直になったんだよ。

 君を見て奇麗だと思ったから、素直にそれを口に出しただけさ」


「…………」


「それにしても紺奈ちゃん、今日の君は一段と美しいよ。

 まるで女子高生の姿をした女神のようだ。

 やっぱり雑誌の表紙を飾ったことで、内面の自信が表に現れてきたのかな?

 今の君は世界の誰よりも輝いて見えるよ」


 そんな歯の浮くような王子のお世辞に――


(……なるほど、私と立場が逆転した事を、王子くんも認めたって事ね)


 ――素早くそう判断した紺奈は、ニッコリと満面の笑みで王子に応える。


「ありがとう王子くん。

 王子くんに褒められるなんて嬉しいな♡」


「お礼を言われることじゃないよ、俺は本当のことを言っただけなんだから。

 それより紺奈ちゃん、放課後に例のカフェにでも行かないか?

 昨日は断られたけど、もちろん二人っきりでさ」


「……ごめんねぇ王子くん。

 今日は他の子と約束あるから」


「そっか、残念だな。じゃあまた誘っていいかい?」


「考えとく。じゃあねぇ、王子くん」


「ああ、じゃあね」


 そうして朝の挨拶を終え、去っていく紺奈。


 ――――――

 ――――

 ――


 紺奈の姿が見えなくなったところで、カバンからイアンが顔を出す。


『見たか、紺奈のあの満面の笑み。まずは上出来やで』


「ほ、本当に? あんなあからさまなお世辞でよかったのか?」


 不安げに返す王子。


「もし俺があんなバレバレのお世辞事を言われたら、喜ぶ前にます疑っちゃう気がするんだけど……。

 コイツ俺みたいなのを事を持ち上げて、いったい何の魂胆があるんだろう? ……って」


『王子みたいなタイプはそうやろな。

 自分に自信がない人間は、褒められても真に受けずに相手の真意を疑うんや』


「うっ、ま、まぁそうかも……」


『けど紺奈みたいな自分に自信のあるタイプは、どんな分かりやすいお世辞も真に受ける。

 むしろあからさまなお世辞ほど『よく私の事が分かってるじゃない』ってな感じやで』


「うーん、俺には分からないけど……ああいうタイプはそんなものなのかな?」


 王子は首を傾げつつ、「……で、次はどうするんだ?」とイアンに尋ねる。


『どうもこうもない、もっと紺奈をヨイショして持ち上げまくるんや。

 ああいうステータス女が惚れる男には二種類ある』


 二種類のうちの一つを表すよう、右手を上げながらイアンが言う。


『ひとつは上の立場から自分を引き上げてくれる男』


 次は左手を上げ二つ目を示すイアン。


『そしてもうひとつが、下の立場から自分を持ち上げて、自分の地位を確立してくれる男や』


 そしてイアンは『後者になれ』と王子に言う。


『今の王子が紺奈より上に立つのは難しいからなぁ。

 下から攻めて、紺奈に必要とされるキャラになりきるしかないで』


 それを聞いてゲッソリとした表情を見せる王子。


「あ、あんな歯の浮くようなお世辞を、まだ言い続けなきゃいけないのか……」


『当然や、そのために紺奈の事をネットで必死に調べたんやんけ。

 それとも何か?

 また俺様のやり方に反対するつもりか?』


「い、いや、今回のはそれほど酷いやり方でもないから、とりあえずやってみるつもりだけど……」


「せやったらキビキビやらんかい。

 呪いを解かんと死ぬんやぞ、手を抜くんやないで』


「わ、わかったよ……。

 うぅ、呪いはイアンのせいなのに理不尽だ……」


 多少嫌がる態度は見せたものの、結局はイアンの指示に従い、紺奈を口説くべく動き出す王子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る