王子と学校の三大美女
紫織に睨まれ、生徒会室から追い出された王子。
『アッハッハ! 王子お前、ボロクソ言われとったなぁ~!』
「紫織さんていつもああなんだよね~。
自分にも他人にも厳しいって感じ?」
『なるほど、自分にめっちゃ甘い王子にとってはたしかに天敵やな。
クックック』
「うるさいなイアン。
だから早く逃げ出したかったのに……」
イアンの笑い声を背後に聞きながら、王子はトボトボと学校の廊下を歩く。
そのまま校舎から外に出ると、人気のない校庭の隅のベンチに腰を下ろした。
『しっかしあの姉ちゃん、えらい美人やったなぁ。
まさにクールビューティって感じや』
「紫織さんのこと?
まぁそりゃ”嘉数高校の三大美女“の一人だからな」
『――三大美女! こりゃまた心躍るフレーズやんけ!』
イアンが思わず歓声を上げ、興味津々で王子に尋ねる。
『で、で? 三大ってことは、あの紫織って娘と同じレベルの美人があと二人もおるんかいな?』
「一応学年ごとに一人ずついるよ。
一・二・三年それぞれの女子一番人気を決めて三大美女って呼ばれてるんだ」
『なるほど、ちゅうことはあの紫織は三年で一番可愛い子って事やな』
「紫織さんは、あの目の覚めるような美貌に加え、学力は学年ナンバーワン。
そのクールな佇まいから”嘉数高校のクイーン“と呼ばれ、男子だけでなく『お姉さま』と慕う女子も多数いるらしいよ」
『クイーンか、確かに女王様って感じがするなぁ。
で、残りの二人はどんな感じなんや?』
「残りの二人? えっと……」
王子はスマホを取り出すと操作を始める。そして――
「あった、これが二人目だよ。
二年の女子一番人気、
そう言ってイアンに見せつけたのは、あるファッション雑誌のキャプチャー画像だ。
『おー、これまたエラい美人やなぁ。モデルさんか?』
雑誌の表紙を飾っているそのモデルは、さすがモデルだけあって整った綺麗な顔立ちをしている。
紫音のようなクールな美貌とは違い、綺麗さの中に可愛さもあって、親しみも感じられる美女だ。
明るいブロンドを巻き髪パーマで派手に決め、全身をギャルファッションに身を包んだ彼女は、見るからにギャルモデルといったところだろう。
しかも画像でみせる彼女の満面の笑みは、どこか愛嬌があって明るい印象を受ける。
「三枝紺奈はいま売り出し中のギャルモデルさ。
たしか最近、ギャル系雑誌”ハニーティーン“のアンケートで一位になって、読者モデルから雑誌の専属モデルに昇格したって話だよ」
『紫織のクールビューティもええけど、こっちの人好きしそうな美人もええやんか』
「男子からの支持もあるけど、それ以上に同じギャルから圧倒的な人気で、学校では”嘉数高校のカリスマ“と称されてるんだ」
『クイーンの次はカリスマか。
じゃあもう一人はなんや?」
「もう一人は……ちょっと待って……あった、これだ」
王子はさらにスマホを操作し、今度は動画を再生させた。
どうやら野外で行われたライブの様子を撮影したもののようだ。
動画の中では一人のアイドルが歌って踊っている。
見た目は中学生……いや、小学生と言っても通用するほど小柄な少女だ。
「これが一年の一番人気、
МoE《モエ》って芸名でアイドル活動をしてるんだ」
明るいピンクブラウンの髪をツインテにし、さらに全身ビビッドカラーのキッズファッションという、なかなかファンキーな格好をしている。
だがクリっとした大きな瞳の童顔と、声優みたいなキーの高い歌声のせいか、それほど違和感を感じない――いや、むしろ似合っていると言っていいだろう。
「このグループアイドル全盛の時代に、彼女はソロアイドルとして去年から活動開始。
その容姿や声が、まるでアニメキャラのようだとSNSで話題になり、動画が拡散され、現在ネットで人気急上昇中のアイドルさ」
『なんや、ロリかいな。俺様ロリには興味が……って、ちょい待てよ」
批判しかけたイアンが注目したのは――彼女の胸。
幼い容姿に似つかわしくない、たわわに膨らんだ巨乳の持ち主だった。
そのアンバランスさは、まさに現実に抜け出してきたアニメキャラかのよう――。
そんな二次元的魅力を感じさせるアイドルだ。
『おーっ! これは見事なロリ巨乳やな!
俺様ロリは圏外だが、このおっぱいは悪くない、悪くないで!』
「話題のアイドルが今年の一年生として入学してくるって事で、新年度早々学校でも騒動になってたっけ。
特にオタク層からは絶大な人気で、今は”嘉数高校のプリンセス“と呼ばれてるよ」
『なるほど、三人目はプリンセスか』
画面を覗き込みテンションを上げるイアンだが、ふと我に返り『それにしても……』と疑問を呈す。
『嘉数高校のクイーンにカリスマにプリンセス。
それにお前は王子様やったっけ?
……何かダサいネーミングセンスやなぁ』
「な、何だよ、別に俺がつけた称号じゃないからな?
それにこういうのは分かりやすい方がいいんだよ」
そう、王子の言う通り。
無駄にひねった名前より、読者に分かりやすいのが一番なのだ。
あえての直球であって、けして作者にネーミングセンスがない訳ではないのだ。
『まぁともかく……』と、再び話題を変えるイアン。
『これだけの美人、ちょっと実物見に行こうや王子!
紫織以外の二人も学校におるんやろ?』
「そりゃいるけど……。でも嫌だぞ、あんまり関わり合いになりたくないし」
『何でや? こんな美人に関わりたくないなんて』
「だって、ただでさえ俺って男子に嫌われてるだろ?
下手にファンの多い彼女たちに関わって、これ以上敵が増えたらどうするんだよ」
『うーん、そっかぁ。……けど、それは残念やけど無理やろなぁ』
「は? どうして?」
『だって――』
訝しむ王子にイアンが告げる。
『この三大美女のうち、二人はキスのターゲットやからな』
「ぬぁっ!」
思わぬ展開に、王子が慌てて声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って、三大美女がターゲット!?
相手は生徒会長にモデルにアイドルだぞ!
ム、ムリムリ、ハードル高すぎだって!」
不安になりながらイアンに尋ねる王子。
「……ち、ちなみにイアン、そのターゲットの二人って……?」
『一人目はその生徒会長の八神紫織や』
「ノォーッ! 一番アカンやつ!」
王子の不安は的中したようだ。
「三人の中で特に紫織さんはあり得ない!
今までキスどころか、まともに五分以上の会話もできてないのに!」
『まー確かにあの女、物怖じせず何でもズケズケ言うタイプみたいやからなぁ。
ああいう押しの強いタイプは、事なかれ主義な王子とは相性悪いやろな』
生徒会室での紫織の態度を思い返し、王子の峻拒っぷりに納得するイアン。
王子は恐る恐るイアンに尋ねる。
「な、なぁイアン。ターゲットって変えられないのか?
どうしても紫織さんじゃないとダメなのか?」
『んー、ターゲットになる条件は、王子と知己である事と、俺様の十人の愛人と何かしらの共通点がある事やからな。
探せば他にもおるやろうけど……』
「じ、じゃあパスだパス!
紫織さんは俺の手に負える相手じゃないって!
ち、ちなみにもう一人のターゲットは……」
『二人目はモデルの三枝紺奈や。
スマホの画像からでもちゃんと気配が見えたで』
「か、紺奈ちゃんの方か……」
『その言い方、もしかして知り合いか?』
「ま、まぁ一応……。
同学年だし、会えば多少は話をする仲だよ」
そう言うと王子は彼女の事を思い返してみる。
そして一つの結論に達する王子。
「……いや……うん、そうだな。
彼女だったら何とかなるかも」
『おっ、珍しく自信あり気やん』
「そりゃそうさ、だって――」
自分の出した結論に、王子は思わずドヤ顔を見せる。
「――だって彼女、俺に惚れてるはずだからね」
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