王子とカリスマギャルモデル
王子と遭遇、生徒会長!
都心より電車で一時間半、郊外だがそれなりに栄えた衛星都市。
その都市の最寄駅からバスで20分、住宅地から少し離れた小高い丘に、王子たちの通う嘉数高校はある。
住宅地から校門までは舗装された広い山道が続いており、その坂道を上って登校する生徒たちの中に、肩を落として歩く王子の姿があった。
いつもの朝であれば、王子の周りに女子たちが集まってきて、相手から挨拶でもされているところだろう。
だが今朝は――
「ねえねえ、聞いた? 王子くん、一年に告ってフラれたんだって」
「聞いた聞いた。てか屋上でみっともなく叫んでるとこ見ちゃったし」
「えーなんか幻滅。私ファンだったけどちょっと無理かも……」
――王子を遠巻きに見ながら、女子たちは噂話に花を咲かせていた。
内容はもちろん、一昨日の王子の醜態だ。
(ど、どうしてこんな事に……)
今までにない女子たちの忌避感を受けながら、王子はトボトボと学校へ向かう。
そして教室に着くと、今度は男子からの好奇の目に晒される王子。
「クックック、王子の奴、ざまぁみやがれ」
「イケメンだからって調子乗ってるからだ、」
「不幸になれ……もっと不幸になれ……」
これ見よがしにそう言うのは、いつも王子を妬んでくる材木トリオ、大木悟・林田博・森口隆のクラスメイト三人だ。
モテない彼らのいつも嫉妬。
だが今日は勝ち誇ったような表情で、わざと王子に聞こえる声のボリュームで言い合っている。
そしていつもはしつこいくらいに付き纏ってくるクラスの女子三人――信号機ガールズは、今日は王子を遠巻きにして近寄ってくる気配もない。
(く、屈辱だ……。
王子様キャラだったはずの俺が、ここまで馬鹿にされなきゃいけないなんて……)
クラスメイトからの侮蔑的な態度を受けながら、王子は実感する。
王子の唯一の取り柄であった『嘉数高校のプリンス』という称号は、今や地に落ちてしまった事を――。
*
その日の放課後の生徒会室。
「で、また
机に突っ伏す王子にそう言ったのは、生徒会室の主である二階堂朱音だ。
グズグズと泣きながら、王子は顔だけ上げて朱音に応える。
「うぅ……だってぇ……教室に居たらみんなが俺をバカにするんだもん……」
「プーちゃんの自業自得でしょ? 女の子を弄ぶような真似をするからそういうしっぺ返しを食らうのよ」
「うぅう……ごめんなさい、最低な人間でごめんなさい……」
そんなみっともない王子の様子に朱音は――
(まったく、プーちゃんったら。ホントにダメな弟で放っておけないんだから……)
――と、呆れたようにため息をついた。
「大丈夫よ、プーちゃん。
人の噂も七十五日って言うし、みんなすぐに忘れるわよ」
「そ、そうかな?」
「それにプーちゃんも呪いを解くのに必死だっただけだもんね。
仕方ない、プーちゃんが悪いわけじゃないよ」
「ホ、ホントに……?」
「ええ、もちろん。
プーちゃんがどれだけ頑張ったか、私はちゃんと分かってるわ」
「うぅう、アカ姉ぇ~」
朱音の胸の中で泣く王子を優しく抱き留めながら、朱音は優しい言葉で王子を慰める。
「大丈夫、みんながプーちゃんの悪口を言っても、私だけはプーちゃんの味方だからね?」
「うわぁ~ん! アカ姉ぇ~!」
そんな二人の様子を、カバンの中から覗くクマのぬいぐるみ――に憑りついたご先祖様のイアン。
『二階堂朱音……コイツは男をダメにする女やな』
かつて愛人を10人も侍らせた男の、的確な人事評価だった。
「うぅう……アカ姉、もっと慰めてよぉ……」
「ええ、いいわよ。……あ、でも……」
王子の頭をよしよしと撫でながら、朱音は何かを思い出したように声を上げた。
「プーちゃん、今日はそろそろ帰った方がいいかもしれないわよ」
「……何で?」
「だって今日、珍しくシーちゃんが生徒会室(ここ)に顔を出すって言ってたから」
「ぬぁっ! 生徒会長が!?」
その言葉を聞き、慌てて帰り支度を始める王子。
荒く担ぎ上げられたカバンの中からイアンの抗議の声が上がる。
『ちょっ! 何や何や? 急にどないしたんや王子?』
「帰るんだよ、生徒会長が来る前に!」
『何でソイツが来る前に逃げ出さんとアカンのや?』
「いいから早く――」
急いた様子で王子が生徒会室を出――る前に、ガラッと音をたてて扉が開く。
「……おや? 今日は珍しい客がいるな」
現れたのは長い黒髪の美少女だ。
『おぉおっ! えらい別嬪さんやんけ!』
バックから顔を出したイアンが感嘆の声を上げた。
王子の端正な顔を見慣れているイアンでも思わず唸ってしまう――それほど美しく整った顔立ちの彼女。
身長は少し高め、スラリと伸びた肢体に、僅かに吊り上がった目が印象的なクールビューティだ。
「し、紫織さん……」
「久しぶりだね。
君が生徒会室に入り浸っているのは知っていたんだが。
ここでは全く顔を合わせないから、てっきり避けられていると思っていたよ」
「い、いやだぁ、そんなわけないじゃないですか、アハハ……」
そうですとも言えず、笑ってごまかす王子。
その様子を鋭い目つきで観察する生徒会長――
すべてを見透かすようなその眼光に、王子は思わず身震いをする。
「――王子野王子くん」
「は、はい! 何でしょう?」
「今、校内は君の噂で持ち切りだ。
どうせ今日はその件で、朱音に泣きつきに来たのだろう」
「うっ……! そ、その通りですけど……」
「君が朱音にとって弟のような存在だという事は知っている。
だから今まで、君が頻繁に生徒会室へ入り浸っているのも黙認してやってきた」
「そ、それはどうも……」
「だがいい加減、朱音を頼るのは止めたまえ」
ギラッ! っと紫織の双眸が光る。
「弟だなんて言って、いつまで朱音に甘えているつもりなんだい?
朱音だっていつも迷惑を掛けられて、本当は困っているはずだよ」
「ちょっ! 止めてくださいシーちゃん!」
詰め寄る紫織と王子の間に、朱音が慌てて割って入る。
「私、プーちゃんの事を迷惑だなんて思ってません!
だいたい私とプーちゃんの事は、シーちゃんには関係ないでしょう!?」
「やれやれ、朱音は有能な人間だが、そうやって男を甘やかせるのは君の唯一の欠点だね。
君のやり方では相手をダメにするだけだよ」
「なっ! 私がプーちゃんをダメにしているっていうんですか!?」
「違うとでも言うのかな?
君のお陰で、彼が立派な人間に育っているとでも?」
「うっ……そ、それは……」
朱音は振り返ると、まじまじと王子の顔を見る。そして――
「ごめんなさい、プーちゃん。私のせいでこんな……」
さめざめと泣く朱音に、ガーンとショックを受ける王子。
(え、嘘? 俺って泣かれるほど酷いの……?)
動揺を隠せない王子に、紫織がさらなる追い打ちをかける。
「朱音は私にとって右腕と言っていいほど大切な人間だ。
彼女は副会長の仕事だけでなく、書記や会計といった他の生徒会の仕事もこなしてくれている。
おかげで他の役員など必要ない、私と彼女がいれば生徒会として充分な活動ができているんだ。
朱音は本当に有能な人間だよ。
君がすぐに頼りたくなる気持ちもよくわかる」
「は、はい……」
「だがそれじゃダメだ。
君の我儘が彼女のリソースを奪うことになるし、安易に人に頼るのは、君にとってもプラスにはならない。
彼女の足を引っ張るのを止めて、君は早く独り立ちした方がいい」
「うぅ……そ、それは……」
「それが君のためにもなるはずだ。
分かったかい、王子くん?
分かったならもう戻りなさい」
言いたいことは言ったという態度で、シッシッと追い払うような仕草をする紫織。
「し、失礼しました……」
そうして王子は生徒会室を追い出されたのだった。
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